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45.黒鉄の町――3

 ……その翌朝。寝不足の目を擦りながら起き上がる。

 ちなみに昨日、あれ(、、)からしばらくして我に返ったクリスは顔を真っ赤にして大慌てで帰っていった。

 時間もちょうど良い具合だったしそのまま休もうと思ったんだけど……ちょっと昨日の事は刺激が強かったというか。もちろん皆に言われた事をずっと考えてたっていうのもある。

 …………。

 さて、いつまでもボンヤリしているわけにはいかない。

 軽く身だしなみを整え、いつもより少し早く部屋を出る。

 集合場所にしている路地裏のカフェで待つこと数分、パタパタと足音を響かせながらエイミがやってきた。


「お、アレン? おはよう、今日は早いね」

「おはよう」


 先に座っている僕を見て少し驚いた顔をしたエイミも空いている椅子に腰かける。

 足をぶらぶらさせながらメニュー画面を操作する様子はいつも通り。

 対する僕は……少し緊張しながら声をかける。


「えっと……エイミ。昨日のこと、なんだけどさ」

「ん?」

「あ、そのまま聞いてて。ちょっと照れくさいし」


 操作していたメニューを閉じて向き直ろうとするエイミを制し、強張りそうな身体から力を抜いて自然体を心がける。

 言いたい事はもう決まっている。だから、後はそれを何気ない風に……。


「改めて、昨日はごめん。それと……メッセージありがとう。これからは、もう心配かけないように気を付けるよ」

「! アレン……」

「言いたかったのはそれだけ! まあ、そういう事だから!」


 結局こっちに振り向いたエイミの視線から逃れるように顔を逸らし、カフェを経営するNPCに紅茶を注文して誤魔化す。

 ……あ、そういえば結局アームイーターのドロップを確認してなかったな。今のうちに見ておくか。


「――ん? これって……え、嘘!?」

「どうかしたのかい?」


 エネミーがドロップするのは基本的に素材。それを生産職プレイヤーが加工する事で装備やその他アイテムが作成されたり、或いは既存の装備に効果を付与したりする。ドロップには薬草とかそのまま使えるものもあるけど、それにしたって主な用途はより効果の高い回復薬の素材にする事だ。

 この点はボスエネミーにも共通していて、素材じゃなく既製品として手に入る固有アイテムはどれもボーナス扱いになる。

 ボスから得られる素材はその段階で手に入るものより一段階ほど優れたものになるか、そうでなくても特殊な効果を備えているのが通例。


 ……今回おかしかったのは、その素材。ドロップに紛れていたそれは名を「名も無き勇士の刃片」。ランクは47。

 同時にアームイーターが落とした素材「破砕亀の牙」を初めとして得られる他のボス素材のランクが30台前半なのを考えるとこれは破格だ。

 メインステージで言って、今いるところの二つ先のエリアのボスの推定ドロップにも匹敵する。

 それを伝えると、流石のエイミも顔色が変わった。


「ら、ランク47!?」

「ほら、これ」

「うわ……! ホントだ! なにコレ!?」

「おはようございま――って、アレンさんにエイミさん? どうしたんですか?」


 次いでやってきたクリスにもドロップしたボス素材について説明する。

 こういうゲーム自体あまり経験が無いらしいクリスの反応はどこか鈍かったけど……問題は続く発言。

 僕らのテンションに戸惑ったまま、彼女は更なる爆弾を投下した。


「それって、そんなに凄いものだったんですか? 私もランク48の素材持ってるんですけど」

「……え? ええええ!?」

「わ、私のも昨日のドロップです。『名も無き勇士の(いさおし)』って言うんですけど……」


 ちなみに、最後に来たルッツは驚愕を共有できる側の人間だった。

 どうにか動揺を押し隠したまま冷静さを取り戻すルッツ。しかしその目は欲望……もとい、期待の色を隠しきれていなかった。

 これはエイミもだし、たぶん僕も大なり小なり似たような感じなんだろう。


「――さて、コレ(、、)に関してだが」

「考えられる可能性は二つ。この性能に反してドロップ率は低くないか、もしくは僕らが偶然超絶にツいてたか」

「……どうしようか……?」

「いま正確な理由を知る方法は無い。じゃあ、回数を重ねてデータを取るしかないんじゃないかな」


 僕がそう言うと、エイミは少し正気を取り戻して心配そうな顔になった。ルッツもまた、どこか懸念するような表情を浮かべる。

 ……まぁ、昨日の僕の有様を思えば無理もないか。

 でも真面目に、こんな素材が複数手に入るなら見過ごすのはあまりに惜しいのも確か。

 それに……これからの僕の、というか俺の違いを行動で示すにも良い機会だ。


「でも、アレンさん……」

「大丈夫だって。もう皆に心配かけるような無茶はしないから」


 クリスに一つ頷き、ルッツにも視線で思いを伝える。

 親友は確かめるような目で僕を見てから、重々しく頷いた。


「……そうだな、装備破壊のリスクを負ってでも何度か挑む価値はあるだろう」

「だね。実際に一度戦った分、気を付ける事とかも前より分かってるし」


 続いてエイミも賛成する。

 こうして、再び腕食み(アームイーター)に挑む事になった。


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