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41.アームイーター――2

「――エマ。どう思う」

「アタシも一回倒しただけだからねぇ……βの時と同じなら、側面と背後から甲羅を避けて斬ればダメージは通るはずだけど」

「その場合の留意事項はあるか?」

「手足は短いけど、一時的に岩を纏わせて射程を伸ばして反撃してくる。魔法で足元からの攻撃も並行して、だね」


 三体ずつ現れるナイトファングの相手をしながらルッツが意見を求めると、エイミは眉根を寄せて頭を捻る。


 クリスの自然魔法が効かなかった時のエフェクトから考えられるのは……少なくとも、あの甲羅は地属性の魔法をほぼ無効化するだけの耐性を持っていること。

 亀の防御性能がどれくらいかってのが問題だけど……。

 順当に考えれば、甲羅部分は全ての攻撃を無効化するってパターン。

 PT構成によっては辛そうな可能性として、ダンジョンの亀とは逆にこのボスにはそもそも魔法の効きが悪いっていうのもあり得る。いや、そうやって装備破壊の力を持つボスに接近戦を強いるスタイルだったら、どのPTでも辛いか。


「――それで最後に厄介なのが、弱らせると出てくる蛇だ」

「蛇?」

「そう。アイツの尻尾は蛇になってて、そいつも装備破壊っぽいエフェクトつきの噛み付きをしてくる。動きも変則的で躱しにくい」

「ふむ……」


 少し考えたルッツは現れたナイトファングの最後一匹を剣腹で殴って地面に叩き落とす。蝙蝠が再び飛び上がるより早く盾越しに地面へ押さえつけ、次の敵が現れるまでの時間を稼ぎながら口を開いた。


「俺とエイミが近接して左右から物理攻撃で削り、クリスは適度に間合いを保って射撃で援護。問題の蛇が現れたらアレンが【竜化(アセンション)】を使って一気に仕留める。……これでどうだ?」

「オッケー、それで行こう」

「分かりました」

「了解」


 ルッツの言葉に全員が頷くと同時、拘束から抜け出した蝙蝠をエイミが【ダークリーパー】で一閃。

 その消滅を合図に一斉に動き出す。


「【ディヴァインスマッシュ】……む」

「【アビスエッジ】! っと、どうも属性攻撃は通りが悪いらしいね」


 左右から同時にスキルを叩き込んだ二人が顔をしかめる。

 だが、クリスのときのようなエフェクトは発生していない。

 ……甲羅への攻撃は避けた方が良さそうだ。


「――クルルル…………!」

「「「っ!」」」

「【ソニックショット】!」


 予期せぬボスの声に驚く横で、スキルの恩恵を受けたクリスの手が霞むほどの速度で動いた。

 開いた口へ正確な軌道で打ち出された矢を、しかしアームイーターは禍々しいエフェクトを帯びた顎で噛み砕く。

 次いで天井から三体のナイトファングが剥がれ落ちた。


「蝙蝠は私が対処します。こちらは気になさらず!」

「分かった、任せる!」

「クリス、ターゲットくらい僕が取ろうか?」

「……いえ、大丈夫です」


 一応声をかけると、頼もしい返事が返ってきた。

 じゃあ僕は邪魔にならないようにだけ気を付けておこう。

 ルッツたちはアームイーターの攻撃範囲に入ったのに、また蝙蝠を呼んだ……?

 誰かが接近しても、離れているプレイヤーがいれば意味はないって事だろうか。

 それなら今の蝙蝠が片付き次第、僕とクリスも前に出る必要があるな。


 クリスは【クイックシュート】による速射を立て続けに放ちターゲットを引き付けると、そのうち一体に更に追撃をかけて足並みを乱す。


「「キキッ!」」

「【グレイブエッジ】【連拳】」


 先に二匹が近づいてきたところで弓を収納し、双剣に持ち替えた。

 狙いをつけた一体に短剣を突き刺し、更にスキルの効果により連続で拳を打ち込んでいく。

 そうして仕留めきる前に、もう一体のナイトファングが牙を剥いた。クリスは空いた左手の短剣で受け流そうと試みる。


「くぅっ――」

「クリス!」

「大丈夫です!」


 普段のクリスからは思いもつかない強い声。

 僕が思わず動きを止めたとき、稀代のレンジャーは岩の鎧を纏った蝙蝠の一撃をどうにか逸らしきった。同時、【連拳】を喰らっていたナイトファングが砕け散る。

 しかしそこには追撃の構えを見せる蝙蝠、そして追いついた三匹目の蝙蝠。

 大丈夫には、見えない。

 せめて一体だけでも攻撃を阻もうと駆け出し――。


「【回し蹴り】っ……!」


 エフェクトを帯びた脚が蹴りつけたのは地面。

 反動でその場を逃れるクリスだが、敵の牙が掠めた二の腕から蝙蝠の特性である吸血能力によって血のようなエフェクトが宙に散った。


「――っ」

「心配かけて済みません。でも、もう残り二体ですから無茶をする必要はないです」

「そうじゃなくて!」

「行きます……!」


 先んじて僕の言葉を潰したクリスは、聞く耳など持たないという風に蝙蝠たちへ向かっていく。

 その戦いは確かにさっきより安定していたけれど苛烈で、僕程度のステータスじゃ迂闊に近づくこともできない。

 ……そして、一撃。

 脳天に突き立った短剣を正拳で打ち込まれ、最後の蝙蝠が真っ二つになった。


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