4.浅瀬の洞窟
攻略の拠点となる町にはプレイヤー毎にプライベートエリアが用意されており、共通の入り口に入ると自動で自分の部屋に飛ばされるようになっている。
PTを組んだままでこの入口に入るとPTリーダーの部屋へ全員が送られるわけで……僕たち三人は、ルッツの部屋に居た。
「殺風景だな」
「無茶言うな。俺も今初めて入った所だぞ」
驚きの完竜化の後、簡単な情報の共有だけ済ませた僕らは狩りを続行。
日も沈んできたタイミングで切り上げて町へ戻ってきたのだった。
ちなみに竜化は三つのスキルを同時に使うと発動できるらしい。また、二回目以降の発動は任意。
現状だと全SPを消費し、クールタイムの一時間はスキルが三つとも使えなくなる。
元の三スキルを個別に発動した場合は効果時間じゃなく、徐々にSPが減少していく形になる。
一個あたりのクールタイムは短い方だけど発動時にもSPの消費はあるから、細かくオンオフ切り替えて節約するような真似は難しそうだ。
継戦能力が低い分、瞬発的な力は圧倒的……だったら良いなって願望。敵が弱過ぎてそこはまだ実証できてない。
竜化は一見チートっぽいが、何より重要な持久力に関しちゃ何の解決にもなってないんだよな。
「さて……それで、これからの方針だが。まあ、最前線に出るというのは無いな」
「そうだね。そこら辺はガチ構成の奴らに任せるか」
このゲームの攻略は……補足の方のチュートリアルで簡単に説明されていた。
まずエリアが拠点となる町、フィールドマップ、ダンジョンマップに分かれている。
ダンジョンはフィールドの何処かに隠されていて、その最奥にエリアボスが配置されている。ボスを倒すとダンジョンの入り口に次のエリアへのゲートが現れる。って感じだ。
これは初耳だったが、約一万人のプレイヤーが円形の大陸のそれぞれ四方にある始まりの町に振り分けられているらしい。
ルッツと違う町からのスタートだった可能性を考えるとぞっとするな。
大陸の形上、どうしても脇道に該当するエリアは発生する。そちらは攻略に直接絡まない代わり、強力な固有アイテムの類が手に入るようになっているとか。
「――最前線組にシナリオ進行は任せて、僕たちは脇道を埋めるとか? それで一時的でも最前線に出られるなら出るし、アイテムを譲るってのもアリかもしれない」
「それはそれで、同じ考えのプレイヤーがいる可能性もありますけどね」
「まあ、掲示板なんかで情報を確認しながら無理なくレベルを上げていこう」
結局、話は無難なところに落ち着いた。
解散した後は特に一人でする事もなく、プライベートエリアで寝る。
そして翌朝。
なんとなくメニュー画面をいじってみるけど、やっぱりログアウトボタンは無い。
掲示板を見ると、もう今のエリアのダンジョンは完成したマップが上げられていて驚いた。
βテストに参加したプレイヤーが中心になって、今は安全マージンを稼ぐためのレベル上げをしている段階らしい。
ちょっと無責任な感想ではあるが、積極的に攻略を進めるプレイヤーがいると安心できるな。
それから少しして、昨日打ち合わせた通りにルッツたちと合流。
フィールドの敵は練習用というか経験値やドロップの効率は良くないってことでダンジョンを目指す。
メインのダンジョンは混んでそうって事で、脇道に当たる海岸に向かうことになった。
βテスト時点での情報ではあるが、とりあえず最初のダンジョンは初期状態ソロでもなんとかなる難易度らしいし。
「――アレンっ」
「あいよ!」
「ギギギッ!」
ルッツの合図で飛び出し、僕はロクラブとかいう大型犬サイズのヤドカリに攻撃。
ナイフはロクラブの飛び出した目の付け根に命中し、激怒した敵の狙いは僕に向く。
鋏を正面に突き出す攻撃はリーチも短いし隙だらけだ。
「【カッティング】っ」
「【スマッシュ】!」
左右から二人のスキルが炸裂。
生身でそれを喰らったロクラブはあっけなく消滅した。
「む……」
「あ、群れですね。どうします?」
「まだ頭が残ってるし、任せて」
「頭だけで何とかなるのか? 無茶はするなよ」
「分かってるって。【起動:竜頭】」
近づいてきていたのは四匹の空飛ぶ小魚、名前もストレートにトビウオ。
竜頭を使うと、また前のように視界が狭まり……すぐ元に戻った。竜化ほど視界が広がるような事はない。
使える能力は……【竜哮】と【噛みつき】が常時発動か。ブレス系は未開放らしい。
「それじゃ、えっと……ゥオラァアアアアッ!!」
「あ、アレン!?」
「アレンさん!?」
群れの正面に飛び出し咆哮。
魚たちがビクリと硬直し、突然吠えた僕に後ろの二人もドン引きする。しまった、後で説明しておかないと。
立て続けに四回噛みつくと、トビウオの群れは全滅。僕の口の中には何故かイワシの刺身の味が残った。
その後、吠えたのは能力発動に必要な事だったと説明。
ついでに海面で自分の頭を確認すると、完全な竜頭になっていた。色は竜化した時と同じ青色で、見た目はそう巫山戯た感じもないのにどこか愛嬌がある感じ。
身体は普通の人間なのに頭だけ大きいから余計にそう感じるのかもしれない。
ついでに、微妙に五感が鋭くなったような気もする。
採取ポイントを制覇しながら進むうち……僕たちは、ダンジョンの最奥。
ボス部屋の手前まで辿り着いた。