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39.洞穴

 それから数日後。

 グリードウィングから得られる軽装備レイヴンシリーズも無事に集まり、僕たちは次のサブボス……アームイーターが潜む洞穴を訪れていた。

 ここのダンジョンは地底と比べても少し狭い。

 ボスマップもこの調子だったら嫌だな……武器を噛み砕くような化け亀に、竜化無し(素面)で立ち向かうのはちょっとキツい。


「――ところでクリス。その辺に転がってるの、何か気づけるかい?」

「ああ、はい。敵みたいですね」

「へっ!?」


 なんとなく聞いていた会話から飛び出した意外な情報に思わず声を上げる。

 そう思って注視すると、どういう仕組みか転がっていた岩にロックタートルと名前が表示される。

 まさかと思って壁や天井にくっついている岩の塊を見つめてみると……黒だった。その悉くがエネミー。

 ……これが一斉に襲い掛かってきたら、拙いんじゃないか?

 想像して割と本気の危機感を感じるくらいには数が多い。


「たぶん心配しなくてもいいよ、アレン。基本こっちから攻撃しない限り動かないはずだから」

「基本?」

「うん。――あ、クリスちょっとストップ」


 余裕のある表情で頷くと、エイミは流れるような動きで弓に矢をつがえていたクリスを止める。

 なんだ? 周りに視線を向けると、ダンジョンの奥の方から数匹の蝙蝠……ダークバットが飛んできた。クリスはあれを射抜こうとしていたのか。

 ダークバットはゆっくりこちらに近づいてくる。


「んっ……」

「クリス? あ、もしかして超音波とか?」

「多分……そうだと思います」


 クリスの片眉がぴくりと動いた。

 何事かと思ってから、相手が蝙蝠なのを考慮して答えを察する。

 もうこのレンジャーが平然と超音波を聞き取っていることには突っ込まない。

 それで、蝙蝠がどうしたって?

 じっと見ていると、視界の端で何かが動いた。

 壁から地面に転げ落ち、こちらへ人相の悪い顔を向けている亀はストーンタートル。

 なるほど、蝙蝠が亀を起こしにくるパターンもあるって事か。


 エイミが飛ばした斬撃とクリスの矢が蝙蝠を貫き、動き出した亀はルッツが聖剣術で両断してひとまず敵は全て沈黙する。

 それを確認したエイミは振り返って尋ねた。


「それで、どうする? 一応このカメ全部倒していくって手もあるけどさ」

「そうだな……現在地はマップ全体で見てどれくらいにあるだろうか」

「そうだね、βの時と同じならもう半分くらいは行ってると思うよ」

「では、この辺りの敵は一通り倒す。そしてこれ以降に出くわす同様の敵は無視して通る……これでどうだ」

「ん、悪くないと思うよ」


 ルッツの出した案に全員が頷く。

 それを確認すると、皆はそれぞれ武器を構えてロックタートルたちを狩る態勢に入った。

 僕? ボス戦までの時間も微妙だし、どうしようかな……少し迷ったけど【竜腕(アーム)】を起動して戦線に加わる。

 スキルを単独で発動した時のクールタイムは、当然といえば当然かもしれないけれど【竜化(アセンション)】を使った時より短い。

 たぶんボスマップではスペースの都合で竜化できないだろうし、まぁ今スキルを使っても大丈夫だろう。


「【竜爪・火炎】」

「ゴッ……!?」


 色々試しながらやってみるつもりで属性スキルを使うと、意外なところで手応え。

 雷属性はまぁ効くだろうと思ってたけど、炎や氷属性も何か浸透するような手応えと共に結構なダメージが入る。

 その代わり……と言うべきか、物理ダメージの通りは結構悪い。

 聖剣術に属性攻撃があるルッツ、【ダークリーパー】を初めとして闇属性攻撃のあるエイミはともかく、クリスは大丈夫かな? 自然魔法も単純な火力で見るならあまり期待できないと思うけど……。


「【グレイブエッジ】」

「ゴ――」

「【カッティング】【カッティング】【グレイブエッジ】」

「ガァアア!?」


 ……うん、何の心配も無かった。

 燃費の良い低級スキルによる攻撃を容赦なく急所に突き入れて屠っている。

 まぁそんな感じで辺りの敵を一掃。

 更に進むと敵の種類が少し変わったからもう一回だけ行った狩りも特に問題なく終わり……そして、僕らはボスマップにつながるゲートまで辿りついた。


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