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38.荒地

「――グルァアアアアッ!!」

「ギャッ……!?」

「【竜閃】、【ツインブレイク】ッ」


 【竜哮(シャウト)】を乗せた【サンダーブレス】を正面から喰らい、三つ目の化け鴉……強欲な翼(グリードウィング)は怯んだ。

 半端に開いたその口に爪の一閃を見舞い、更に追撃のスキルを叩き込む。派手なエフェクトと悲鳴を撒き散らし、俺より少し小さくさえある身体が仰け反る。


「おっと、行かせるかよ」

「グギャアアアア!」

「喧しい! 【竜爪・紫電】」


 攻撃後の硬直時間のうちに態勢を立て直した敵は、俺をすり抜け地上へ突撃しようとする。

 尻尾を伸ばしてそれを阻み、爪に纏った電撃で更にその動きを鈍らせる。

 苦し紛れに暴れる敵の爪が竜鱗を引っ掻いて耳障りな音を立てるが、そんな雑な攻撃じゃダメージもたかが知れている。

 ……そろそろか?

 地上へ顔を向けると、小柄なソーサラーは静かに頷いた。

 諦め悪く化け鴉が地上に降り注がせようとした羽を【雷衝(サンダーフォース)】で散らし、横面に尻尾を叩き付けてから距離を取る。


「――【名も無き死槍】」


 地上から天へ駆けた漆黒の奔流は途中にあったボスの身体をいとも容易く貫き、その命脈を消し飛ばす。

 レベルアップを告げるファンファーレを聞きながら、俺は竜化を解いて地上に降りた。


 これで四回目。

 防御力が低い荒地のボス、グリードウィングは僕らのカモになっていた。

 だいたい竜化した僕がダメージ度外視でボコボコにしてる間にエイミが【名も無き死槍】を詠唱、チャージが済み次第ぶっ放すことで安定して狩れている。

 うっかり取り逃がしてもクリスが大技で足止めしてくれるし、仮にそれがなくても一撃や二撃ならルッツが防いでくれる。

 気づけばアイテムが幾つか無くなってるけど、元からそれを見越して僕は非常用の回復薬しか持ってないから痛くも痒くもない。

 この調子ならグリードウィングがドロップする最新の軽装、レイヴンシリーズもすぐ揃うかな?

 【竜化(アセンション)】のクールタイム終了を待ちながらそんな事を考える。


 岩山のボスゲート前でルッツがエンド(\(^o^)/)を勧誘したのが昨日のこと。

 少し迷っていたエンドに、僕らもすぐ轢殺ゴーレム(マーダーフォートレス)と決着をつけようとしているわけじゃないことも説明した結果……返答は保留だった。僕らが準備を整えてゴーレムとの決戦に挑むまでに決着をつけられればよし、そうじゃなければ頼らせてもらうとのこと。

 僕としては共闘というか、あの無茶なスペックで暴れまわるゴーレム第二形態と「終焉の使者」の二つ名がつくほどの落ち武者の戦いを直に見たいってのが大きかったし、それが叶わなくてもソロキラーみたいなあのボスを単独撃破してくれるっていうなら大いに浪漫があって良い。

 早い話が僕個人の気持ちで言うならどっちに転んでもおいしいわけで、今からその時が待ち遠しいとか思ってたりする。


「――アレン。クールタイムはどうだ?」

「んー、あと一時間ってとこ。もうボス殴りに行く?」

「そうだな……一時間か。小ボス部屋に行こう」

「了解」


 一応【竜化】抜きでもグリードウィングを撃破することは可能だ。というか手軽に対空攻撃ができるレンジャーがいて、敵の攻撃もきっちり防げるナイトがいるこのPTは元からこのボスと相性が良い。

 ただ……手間がかかる。

 クリスの射撃だけだとどうしても火力が不足するし、相手が地上に降りてくるのは攻撃の時だけって事を加味するとルッツは防御に専念せざるを得ない。

 エイミの攻撃力は物理戦闘職も顔負けだけど耐久は高くないから攻撃特化で行くわけにもいかないし、【破壊魔法】を解禁すれば苛烈になる攻撃をルッツだけじゃ捌ききれなくなる。

 小ボス部屋で雑魚エネミー、ついでに小ボスを狩るのと、そうして面倒ながらもボスに挑むのとでは効率は同じくらい。

 ただまぁボスに挑む方のパターンは何回か試したし、ドロップの偏りとか考慮するなら小ボス部屋を荒らしにいくのも良いだろう。



「おっと、【杭打ち】――【グレイブエッジ】」

「うわぁ……」


 ここ荒地に出てくるエネミーは猛禽タイプ、骸骨タイプ、無機物タイプの三つに分かれている。

 今地面から出現した骸骨カースボーンは現れると同時に頭頂へ踵落としを喰らい、そのまま足を引っかけて蹴り上げられて短剣でトドメを刺された。

 なんの見せ場もなく消えたけど、本来ならもう少し粘れたはずだ。攻撃のことごとくが的確に急所を突いてさえいなければ。

 不意打ちが嫌らしいと評判の敵を数秒で処理すると、クリスは何事もなかったかのように歩みを再開する。


「ちょ、ちょっと足癖が悪かったでしょうか」

「そういう問題じゃないような……ああうん、格好良かったよ。凄く」

「そう、でしょうか……?」

「なんていうか……そう、アレだ。年季の入ったマフィアみたいだった!」

「他意なく褒めてくれてるのは分かりますが、ごめんなさい嬉しくないです」


 相変わらずの鮮やかな手並みに呆れていると、クリスは少し恥ずかしそうに俯く。

 この面子の中じゃ最年長なのに、そうしている姿は同年代の女子みたいに可愛く見えるから困る。

 その印象に反しておかしいくらい強いのも事実なんだけどさ。


 やがて小ボス部屋に到着し、無限に現れるエネミーたちを狩り始める。

 ボスとマップの特性をそれぞれ反映しているのか、現れる敵はスピード重視の隠密タイプが多い。

 スピード重視ってことはいつかのバブル・エリミネータや今回のグリードウィングに僕らが有利だった理由がそのまま当てはまるし、隠密に至っては天敵(クリス)がいるから余裕で狩りたい放題だ。

 そういうわけでちょっと調子に乗りながら、僕らは荒地マップでしばらく稼ぎ続けた。


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