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36.マーダーフォートレス――3

「ぐっ……!」


 爆風と衝撃波はスキルで緩和できたが、元々ゴーレムの身体を構成していた岩塊はそうもいかない。

 物理防御型のスキルも取っとくべきだったな。ボス戦もゴリ押しで済ませようなんて甘い考え、通るはずも無かったんだから。

 ……まぁ、今回みたいな物理特殊の複合攻撃を完璧に防ぎきるのは無理ってもんだが。

 爆発が収まり、身体に突き刺さった無数の岩塊が消滅する。

 戦闘は、まだ終了していない。


「自爆したくせに……往生際が、悪ぃんだよーーーーーーーーーーーッ!」


 【竜哮(シャウト)】を発動して砂煙を吹き飛ばす。

 視界が晴れたそこには、ルッツより少し小さいくらいのシルエットがあった。


「jj……z……ggt……」

「っ……?」


 そこで形容し難い異音を発していたのは、金属製のマネキンのような何か。

 その姿にノイズが走ると、どこか見覚えのあるチビの姿に変わった。

 あれは……?


「アレン……さん?」

「どういう事だ?」

「jjtj……! gzgjjfjzjj……!」


 どこか動きのぎこちない偽アレンの身体が一気に膨れ上がる。

 なんだ、【竜化】までコピーする気か? ノイズが殊更に激しくなり身構えるが、その身体は再び最初のサイズまで縮む。


 ……今攻撃したらどうなるんだ?

 【サンダーブレス】で雷を放つが手応えは無い。あのノイズに防がれたのか?

 クリスが放った矢も同様に、効いている様子はない。

 相手が無敵時間に入ったっていうなら、此方も態勢を整えるべきか。

 俺も敵を飛び越えてルッツたちの元へ向かい、【ヒーリングブレス】でダメージの回復に努める。


「zzj……gggg……g……」

「……準備完了、ってか?」


 そうするうちにノイズは収まり……最終的に、ボスの姿はルッツのものに固定された。

 地味に時間が掛かったのは、もしかして俺の【竜化】絡みで何かバグったんだろうか。

 なぜルッツの姿に落ち着いたかは分からないが、偽物の身体は鉄色で判別は容易い。


「……あれが奥の手という事か?」

「さぁな。だが、本当に奴がルッツのコピーだってんなら悪足掻きにしてもつまらねぇぞ?」

「ちょっと気は引けるけどねぇ」


 あれが本当にルッツの姿を真似ただけなら、もう今回で決着をつけられるだろう。

 確かにルッツは耐久の十分ある万能型で敵に回すのが厳しいステータスではあるが、じゃあ四対一の状況を覆せるかというと答えは否。

 単純な計算問題まで話のレベルを下げても、戦力はこちらの方が明確に上回っている。


「っつーわけで、遠慮なく行くぞルッツ!」

「……俺を攻撃するような言い方はやめろ」


 ルッツの苦言は受け流し、俺は宙を蹴ってボスへ迫る。

 その頑丈な防御ごと打ち砕いてやろうと腕を振りかぶり――。


「――アレンさん、ダメです!」

「ッ!」


 条件反射で身体が動いた。振りかぶった腕で宙を掴んで急停止する。

 目の前で偽ルッツの手が閃いたかと思うと、その身長に迫るサイズの大剣が振るわれるタイミングだった。

 背筋が冷えるのを感じながら間合いを開ける。

 どうやら偽物に本物と同じように動くつもりは無いらしく、奴は両手でもまともに扱えるか怪しい大剣で二刀流じみた構えを見せていた。

 外側だけ変わっても、中身(馬力)はゴーレムのままってか。


「jjt――」

「テメェの相手は俺だっつってんだろ!」

「――――」

「ッ……【ツインブレイク】!」


 ルッツたちの方へ向かおうとするボスに側面から斬りかかると、敵はきっちり反応して大剣で迎撃してきた。地面に走る亀裂が、それがどれだけの力業だったかを物語っている。

 その一撃は重く、スキルを乗せた攻撃でようやく互角。正面から打ち合うのは厳しいか。【サンダーブレス】を至近から浴びせ、尻尾の一撃を置き土産に距離を取る。


「ったく……おいルッツお前の偽物だろ、なんとかしろよ」

「無茶を言うな。あんなもの別人だ」

「アレンの【竜化】で行動パターンが繰り上がってるとして、あとどれくらいHP残ってるんだろうね?」

「さぁな。潰せば分かるだろ――ッ!?」


 俺の攻撃を小癪にもきっちり大剣でガードした偽ルッツが、何を思ったか唐突に大剣を振り回し始めた。

 それに合わせて無数の斬撃がこちらに飛んでくる。早い話がいつかの吸血鬼(ヴラディ)の再来。


「【雷衝(サンダーフォース)】!」

「くっ……【スピリットガード】ッ」


 幸い飛来した斬撃は特殊攻撃。初弾は俺がスキルで相殺し、続く攻撃はルッツが展開した結界が防ぐ。


「アレンさん、SPは大丈夫ですか?」

「……いや。潮時だと思うか?」

「はい。目的は十分に果たせたと思います」

「そうだな。皆、今回はここで撤退する」


 クリスが懸念した通り、相手の攻撃の激化に対してこちらの消耗が大きい。

 元から今回の目的は様子見だ。無理して食い下がる必要はない。

 ルッツたちがゲートに向けて下がっていく中、俺は大剣を構えた偽ルッツに突進する。


「ガァァアアアアッ!!」

「――z――bt――」


 【竜哮】を試すが反応は今ひとつ。ナリ(外見)が変わってもそこらは同じか。

 これまでの交錯と同様にギリギリで上昇するが、攻撃は仕掛けない。

 そのまま背後を取ると、案の定相手は無駄ない動きで正面を合わせてきた。

 ルッツたちはゲートを……抜けたな。


「悪ぃな、今回も俺は囮さ! あばよ!」

「jg――――jjt――」


 加速して敵の横をすり抜け、俺も一目散にゲートを目指す。

 そのまま何事もなく脱出し――痛ッ!

 瞬間、背中で激痛が弾けた。


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