34.岩山
「――ふぅ……」
「お疲れ様です」
場所は依然として岩山、ボスゲートの手前。
ボス戦を早めに切り上げて撤退したおかげで、まだ時間は残っている。
僕らは減ったHPや損耗した装備の回復をしながら先ほどの戦いを振り返っていた。
「最初の行動パターンを纏めると、ターゲット一人に対して反撃困難の突進攻撃。回避されたら再び突進、防御されればエネルギーで押し切ってから連続攻撃。そんなところで良いかい?」
「うん。ついでに報告しとくと、空を飛ぶ相手にはロケットパンチみたいなエネルギー弾を撃ってくるみたい」
「【解析】も使ってみましたけど、少なくとも体表にシステム的な弱点はないみたいです。あの単眼も含めて」
「あ、そこはスキル使ったんだ」
「当然です!」
得られた情報を簡単に整理して、最後はいつものやり取りで締める。
実際に見てて思ったけど、確かにアレを単独で倒すのは厳しいだろう。
長距離戦を挑むなら間合いを保ち続ける立ち回りはもちろん、それを支えるだけのシステム的スピードが不可欠だ。あの堅牢な装甲を貫くだけの火力も必要になるだろう。
短距離戦を挑むなら方法は二つ。一つはあの突進と、その勢いを乗せた腕の攻撃を掻い潜ってカウンターでダメージを蓄積させていく方法。もう一つは突進を受けきった後であの執拗な追撃と真っ向から張り合う方法。
前者は交錯の一瞬に攻撃の回避と反撃の作業を何度も行う事になり、後者は今一線級のナイトを防戦一方に押し込めるだけの攻撃力を相手取ることになる。
これらの策を何度か成功させる事は不可能でもないだろう。
でも……敵のHPが尽きるまで繰り返せる可能性は、限りなく低い。
じゃあ、今の僕らに勝ち目は無いのか?
そんなことはない。
少なくとも今明かされている範囲では、シンプルな対処法が見えている。
要になるのは……。
「ルッツ。確認しておくけど、アイツの追撃には耐えられそう?」
「ああ。【盾マスタリー】の効果で装備の損耗が軽減できているおかげで何とかなりそうだ」
「具体的には?」
「さっきの戦闘で受けたダメージ、その合計の二十回分は持つ」
「じゃあ初動は決まりかな。ルッツが囮になってボコボコにされてる隙に、クリスとエイミが敵の背中を叩く感じで」
「う、うん。……なんか済まないね、ルッツ」
「平気だ、気にするな」
「むしろ役得とか思ってない?」
「アレンっ」
自分だって心配かけるのは本意じゃないだろうに、ルッツは珍しく慌てた様子で僕を睨む。
いや……だってさ。さっきゴーレムの攻撃を耐えきった時とか、思いっきり表情緩んでたし。
元々が表情の変化に乏しい堅物だから他の人が見ても分からないだろうけど、これだけ時間を共にしてる二人なら気づいてもおかしくない。特にクリス。
偶発的に気づかれるより、早いうちに仄めかしておいた方がお互いにとって良いと思うんだけど?
そんな思いを込めて不満げな視線を返したけど、意図がどれだけ伝わったかは微妙。
いかにも真面目って感じの印象に反して中々ユニークな嗜好を持つナイトは、視線を戻すと話を続ける。
「――ともかく。相談はこれくらいで良いか。再挑戦、いけるか?」
「あー、ゴメン。地味にクールタイムが残ってるから、あと一分待って」
水を差すようで悪いけど、システムには逆らえない。二回戦じゃ大前提のスキルだし、手を上げて止めさせてもらう。
これまで何度か使う内に分かった事だけど、僕の【竜化】とエイミの【破壊魔法】はボスにとっても警戒すべき危険なスキルらしい。
要するに、この二つのスキルを使うとボスの行動パターンが変化する。
大抵の場合はHPが減ってから切り替わる強力な行動が前倒しになるから、今回はそれを利用して手の内を探らせてもらおうって魂胆だ。
ルッツが一度上げかけた腰を下ろすと、入れ替わりにエイミが口を開いた。
「なら丁度良いかな。一つ追加で言っておく事がある」
「なんでしょう?」
「奴は……自爆する」
「へっ?」
「今回もそうかは分からないけどね。一回だけ調子が特に良かったときなんだけど、反撃を叩き込んだ後に様子がおかしくなった。動きが止まり、眼が嫌な感じに明滅して……ドカン」
「ど、どうなったんですか?」
「飛んできた破片にやられてアタシはアウト。アイツがその後どうなったかは分からないけど、撃破扱いにはならなかったね」
「ふむ……」
「あ、お待たせ。クールタイム終了、いつでも行けるよ」
「では、行くか」
様子見とはいえ相手はボス、このマップの主だ。気を抜いて掛かるわけにはいかない。
改めて気持ちを引き締めると、僕らは再びゲートを潜った。




