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31.新緑の町――6

 翌朝、いつも集まる時間から一時間くらい前を見計らってエイミにフレンドコールを送る。

 最悪無視される可能性までは考えてたけど、それは杞憂に終わった。


『――もしもし』

『もしもし。朝早くに悪いんだけど……』

『……昨日、話すはずだったこと?』

『うん』


 やはり気にしてはいたのだろう。向こうの方から申し訳なさそうに切り出してきた。

 一瞬躊躇うような沈黙が生じ、その後小さく息を吸い込む音が聞こえた。


『えっと……どこから話したら良いかな』

『…………』


 ……あれ、先に僕に話す形になるの?

 でも今それを訊いて言葉を遮るような真似はできない。

 これまで一緒のPTで戦ってきた仲だ、エイミのことは勿論信用している。

 でも、何を聞くことになるのか……僕まで緊張してきて思わず身構えた。


『……βテストと同じなら、次のエリアも三つ。メインダンジョンが岩山で、サブダンジョンは荒地と洞穴だ』

『うん』

『荒地のボスはグリードウィング。飛行系のボスでプレイヤーのアイテムを狙ってくるけれど、この段階で特に注意のいる相手じゃないね。洞穴はダンジョン自体が小さいのが特徴的で、ボスはアームイーター。鈍くて攻撃力も低い防御特化だけど、高確率で装備……主に武器を破壊する攻撃を使ってくる嫌な敵だ』

『所持品攻撃に装備攻撃か』


 グリードウィングはレアアイテムでも持ってたら嫌な相手だけど、僕らには関係ない話か。それに事前に知ってたら貴重品は置いて出かければいい話だし、問題はむしろ飛行能力にあると言える。

 でもそっちにしたってエイミの魔法とクリスの弓で削れるだろうし、いざとなれば僕だって竜化(アセンション)で飛べるのを考えれば脅威にはならない。


 それよりアームイーターは極悪と言ってもいいだろう。僕がミストレックス装備のエンド(\(^o^)/)みたいな立場だったら絶対挑みたくないし、正直今の装備でも戦うのは気が進まない。そう貴重なものではないけれど、タイラー(細工師)さんに色々付与してもらった装備には愛着がある。

 それにPTの盾になるルッツの装備なんかサブボス撃破ボーナスのそれなりに貴重な品が多いから、そういう意味でもリスクは大きい。

 幸いサブボスだし、無視して進む人も多そうな相手だな。


『それで……最後、岩山のボスなんだけど……名前はマーダーフォートレス。ゴーレムみたいな見た目通りに攻撃力も防御力も高い。おまけにスピードもある』

『え、どういうこと?』

『身体のあちこちに車輪があるんだ。足の裏の車輪で加速してくるから、直線的な移動が異様に速い』

『ふむ……』

『………………』


 不意に言葉が途切れた。どれだけ待っても次の言葉が出てこない。

 疑問に思ってメニューを見るけど、フレンドコールは問題なく接続されている。


『……エイミ?』

『アタシは……このボスを、倒せていない』

『え?』

『時間が無かったとか、そういうわけじゃないんだ。どれだけやっても、どうしても倒せなかった』

『大丈夫だって。βのときと今は違う。ちょっと強過ぎるクリスもいるし、盾になるルッツだっているし、危なくなったら撤退担当には僕がいる』

『……え?』


 ん? 返ってきた反応は、意表を突かれたというか……思ってもみないことを言われた、みたいな感じだった。

 一応励ましたつもりだったんだけど、的外れだった? 急に恥ずかしくなってきて思わず座り込む。


『そうじゃなくて、アタシ……ここから先の情報、何も知らないんだよ?』

『それがどうかした?』

『まだ……みんなと、一緒のPTに……いても……いいの……?』

『も、もちろんっ』


 もはや誤魔化しようのない涙声に、こちらの声まで裏返る。

 本当に不安だったのはそこか。

 僕に泣いてる女の子と話したような経験はない。反射的にベッドから飛び起き、パニックに陥りそうな頭で慌てて言葉をかける。


『エイミがいなくなったら僕らだって困るし! それにルッツもクリスもそんな理由で縁切るような真似はしないよ、絶対! だからそんなに心配しなくても大丈夫だって、何も気にすることは無いからっ』


 ほとんど一方的に、どれだけ話し続けただろうか。

 ある程度お互いに落ち着いてきたところでエイミが口を開いた。


『……ごめん、迷惑かけたね。もう大丈夫』

『あー……うん。僕の方こそ、なんかごめん』

『ううん、おかげで安心できたよ。ありがとう。……それじゃ、また後で』

『了解』


 フレンドコールが切れたところで、力なくベッドに倒れこむ。

 …………。

 ああもう恥ずかしい!

 さっきまでの自分の慌てぶりが頭から離れない。言うことは変わらないんだからもっと落ち着いて言えれば良かったのに!

 っていうか僕まで慌ててたらエイミだって困るじゃん! 前から思ってたけど馬鹿だろ僕!


 頭から布団をかぶって悶える。

 また後でって、これから三十分でエイミと顔を合わせられる気がしない。


 ……そう、エイミだ。

 反応から察するに、本気で心配していたんだろう。そういえば一回別のPTに捨てられているんだったか。

 あそこまで思いつめるほどだ。余程のトラウマでも刻まれたんだろうか。

 ……エイミに会って最初に事情聞いた時のルッツじゃないけどさ。

 顔も知らないそいつらには、ちょっと(、、、、)怒りを感じた。


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