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29.ティーミッド・タイラント

 ゲートを抜けた先では、悪い意味で予想通りの光景が広がっていた。

 土がむき出しになった地面、壁、天井。これまでになく閉鎖的な空間は、案の定竜化(アセンション)には不向きだ。

 ……それにしても、ダンジョンより閉鎖的なボスマップっていうのも珍しいな。

 そんなことを考えていると、奥の方の地面から何かが突き出してきた。

 色合いもあって突然にやぶか何かが生えてきたようにも見えるが……実際は違う。風もないのにひとりでに揺らぐ草、その一本一本が鱗の擦れる耳障りな音を響かせる毒蛇。

 そして、その毒蛇たちが生えてきた地面が一気に吹き飛ぶ。


「――――――」

「出たな……」


 薄い土煙の向こうで忙しなく動く、一対の赤い目。

 背中に無数の蛇を生やした巨大モグラ……地底の主、臆病な暴君ティーミッド・タイラントが姿を現した。


「行くぞ!」

「おうっ。【起動(スタートアップ)竜脚(レッグ)】!」


 ボトボトと、モグラの背から断続的に抜け落ちる毒蛇たち。独立して向かってくるそいつらを蹴散らしながら、四人で一斉に本体の元へ駆ける。


「ギュキッ!?」

「待てって――【竜閃】!」


 驚いたような声を上げて地中へ潜ろうとするモグラに向けて脚を振るい斬撃を飛ばす。

 いつもより手応えが浅いな……。

 命中した一撃は確かにダメージエフェクトを散らしたものの、モグラは意に介した風もなく地中へと姿を消した。


 ……問題はここからだ。

 置き土産に残された一部の毒蛇を処理しながらクリスの様子を窺う。

 やがてピクリと反応したレンジャーと同じ方向へ飛びのき……一瞬後に地面が振動。


「っと……!」

「ギュウゥウ!」


 土砂を噴き上げ、地面をひっくり返すように巨大モグラが姿を現した。

 だが……今の攻撃を受けた者は、一人としていない。

 そして僕ら四人の前には、大技の影響か硬直するボスの無防備な腹が曝け出されていた。


「【ディヴァインスマッシュ】!」

「【ツインブレイク】!」

「【アビスエッジ】ッ」

「【烈風】!」

「ギ、ギュァァアア!?」


 ここぞとばかりに総攻撃を浴びせられたモグラは後ろにひっくり返る。そのまま大慌てで寝返りを打つように回転し、その勢いのままに身体の半分ほどを地中に埋め込んだ。

 割と無茶な動きをした割に背中の毒蛇たちは無事という理不尽さだけど、それはゲームだから仕方ないとして。

 このボスが動きを止めたのは、逃げようとして力尽きたとかいう間抜けなものじゃない。

 魔力の高まり……とでも言うんだろうか。エイミが破壊魔法を行使する際のプレッシャーにも似た感覚が次第に強くなっていくのを感じる。

 でも今の状態も、さっき総攻撃を仕掛けた時とあまり変わらない。

 毒蛇の層を突破できる攻撃手段ならルッツ以外の三人とも持っている。

 ……と、竜脚の効果時間が切れたな。ちょうど良いタイミングだし、代わりに竜頭(ヘッド)を起動。

 アイテムでSPを回復しながら、火炎の息吹を浴びせていく。

 攻撃の通り具合としては蛇ごと本体を攻撃できる僕、【ダークリーパー】の闇の刃が蛇を貫通するエイミ、矢がどうしても蛇に阻まれるクリスの順になる感じか。

 ルッツも次々と湧く毒蛇の相手をしているから、ボスの防御もあまり意味を成していないと言っていいだろう。

 先ほどと違って、モグラがダメージに悲鳴を上げることはない。高まっていく緊張が臨界点に達し――そこでクリスがハッとした様子で、足元(、、)を見た。


「ッ――!」

「!?」


 情報じゃ、この次に来るのは落盤による広範囲ランダム攻撃だったはず。

 だったらどうして――そんな思考も他所に、クリスにつられた視線は地面へ下がる。

 竜頭に内包されたスキルの一つである竜眼は、どういう仕組みか目に映らないはずの地中の情報をしっかりと伝えてきた。

 それはモグラの身体がある場所から放射状に突き出す鋭い岩槍。

 今度は反射的に飛び退った僕の足元から、追いかけるように岩槍が突きあげてくる。


 どうやら追尾性があるらしい岩槍から逃げ切り、ようやく周囲に気を配る余裕が戻ってくる。

 クリスは……さすがの無傷。HPを見ると数ドットだけ削れているけれど、あんなの傷のうちに入らないと思う。

 問題はルッツとエイミか。二人ともHPを半分近く持っていかれている。

 位置関係や傷の感じを見ると、一度直撃を受けたエイミを庇ったルッツが結構な数を喰らったってところか。

 スタンを喰らって動けないみたいだけど、幸いボスの方も硬直していて追撃の気配はない。


「まあ二人近くにいてくれたのは好都合、だけど……」

「助かる」

「……悪いね」


 鈍い生身の脚の許す限りの速度で走り、【ヒーリングブレス】で回復。

 二人のHPが安全圏に戻ったのを確認して、ほっと一息つく。

 今のは危なかったな……そういえば今の(、、)このボスに挑むのは、僕らが最初なんだったか。


 その後は結構な頻度で岩槍の攻撃を繰り出すようになったモグラに苦戦しながらも、どうにかHPを削っていく。

 二回目以降ということもあって岩槍の被害はそれなりに抑えられ、途中で竜頭の効果時間が切れて【ヒーリングブレス】が使えなくなったことも大きな痛手にはならなかった。

 そして――。


「【ダウンシーリング】!」


 クリスの詠唱と同時に、いきなり天井が崩れた。

 モグラは悲鳴を上げる間もなく巨大な岩塊に押し潰される。

 ……僅かなタイムラグを挟んで、脳内にレベルアップの音が響く。それが戦いの終わりを告げる合図になった。


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