28.地底
「――ここが入り口か」
「そうみたいだね」
翌日、新緑の町を出て西へ向かうことしばし。
進むにつれて次第に草原の緑は薄れ、むき出しの地面が目立つようになってくる。
そして見えてきたのは部分的に隆起した洞穴だった。外から窺える洞穴の内側はかなり急な傾斜で地下へ続いていて、どこか巨人の口を連想させる。
足を踏み入れると、転げ落ちるような感覚と共にマップが切り替わった。
「皆、居るな?」
「はい」
内部に入ったところで状況を確認。
壁にかかったカンテラで照らされているのは薄暗い坑道といった雰囲気の空間。
横幅は五メートル余りってとこかな? それくらいの平坦な道がどこまでも続いている。
平面的に見ればこの空間でも竜化して暴れられそうなもんなんだけど……高さがなぁ……。
まあ、無いものねだりして立ち止まっているわけにもいかない。
事前に調達しておいたマップデータを見ながら進んでいく。
前に挑んだ霧の森もそうだけど、今いる地下にしても攻略するつもりで挑んだPTはいない。
僕らが使える情報は一部変更されて信憑性にやや難があるβ時代のものか、ちょっかい出す程度に潜ったPTが公開している部分的なものくらいしかない。
意気揚々と出てきたは良いけど、これは何日か掛かるかもしれないな……。
「――!」
「そろそろかな」
蝙蝠やモグラ、長虫系の敵を倒しながら進むことしばし。
掲示板に上げられていた区画に差し掛かった頃、クリスが何かに気づいた。立ち止まって構えた直後、どこから出てるのか分からない呻き声と共に地中から骨の腕が突きだした。
「「「ォオオオ……」」」
「あれエイミじゃない?」
「違うから! アタシは腕だけ!」
「いやいや、症状が進んだら……。【起動:竜腕】」
「症状とか言うな!」
軽口を叩き合う内にも骨はどんどん生えてくる。
やがて骸骨の全身が地表に現れ、エネミー名であるレッサースケルトンが表示された。
今更だけど、集中して出現の予兆を読み取るよりクリス見てたほうが早いな。どうなってんだホント。
「えっと……【アースハンド】」
「「「ォオアアア――?」」」
雄叫びと共に駆け寄ってきた骸骨たちが不意につんのめった。
この段階の敵でこんなミスはおかしい。直前にクリスが詠唱してたスキルが関係してるのか?
敵の足元を見ると、小さな窪みに躓いているのが見えた。
じ、地味……。でもおかげで敵が隙だらけになってると考えると侮れない。
「よし、畳みかけるぞ。【ディヴァインスマッシュ】」
「あいよ!」
「【ツインブレイク】っ」
ルッツを筆頭に三人で一斉に攻撃を仕掛け、剣を装備した先頭のスケルトンを撃破。
奥で杖を携えた魔法でも使いそうなスケルトンをクリスが矢で牽制しているうちに、同じく剣を持っていたもう一体の骸骨も集中攻撃で撃破。
既に急所ダメージが蓄積していた上に元々の防御力も低そうな魔法骸骨は一発殴るだけで砕け散った。
増援は……無いな。
一応クリスの様子を確認してからSP節約も兼ねて【竜腕】を解く。
次に【竜脚】使ったらその後は【竜頭】か……。あれ、案外いけるかも?
普通の相手ならブレスで補助と削りに回ればいいし、その辺の効果が微妙そうな骸骨は齧るのにあまり抵抗がない。おまけに運がよかったら攻撃力も上がりそうだ。
まあ、それより……。
「クリス、さっき最初に使ってたのは?」
「自然魔法ですね。色々使い方は考えてたんですけど、効果の大きさとかの関係で今回が初のお披露目になりました」
ふむ……。
自然魔法はレンジャーの適性スキルの一つ。ちなみに他だとビショップや義賊も適性を持っている。
最大の特徴はその時の地形に応じて使える魔法が変わることで、これはメリットでもデメリットでもあるって聞いた。
あと、クリスのスキル構成だとレンジャーがもともと万能型、言い換えれば器用貧乏なだけあって魔力のステータスは高くない。ぶっちゃけほとんど死にスキルだと思ってたけど……うまく使ってきたな。
「ちなみに【アースハンド】ってどんな効果?」
「地味に貯めが要るんですけど、限定的に地形を操作できる感じですね。操作自体は割と自由な感じです」
「へぇ。じゃあもう少しHP高い敵が相手だったら足首から下そのまま埋めたり?」
「いえ、同じ部分を連続で操作するには魔力が足りないみたいで、だいぶ集中しないと失敗しそうです」
「ああ、魔力が多いほど操作が簡単になる感じ?」
「はい。あとは効果が表れるスピードだとか付与できる威力なんかも魔力に依存するみたいですね」
……うわぁ。
普通なら高いハードルって思うとこだけど、裏を返せばプレイヤーの技術次第で複雑な操作も可能って事だよね?
恐ろしい話だ……。
その後は度々行き止まりに突き当たりながらも、なんとかボスマップへ通じるゲートを発見。
時間が遅かったこともあって、少し小ボス部屋で稼いでから一度引き返した。




