25.新緑の町――3
「――それでクリスが急にスキル発動するんだけどさ。五回に四回くらいの確率でドレッドヴァイパーが即死」
「そりゃ凄ぇな。割とすぐボスに挑む方だからあまり試してないが……いや、やっぱそんな確率でクリティカルとか人間業じゃねぇわ」
「もう、アレンさん! それにエンドさんにも言われたくないですっ」
今のエンドの言葉じゃないけど、ボスで稼げるなら小ボス相手に狩りを続けるメリットも薄い。
小ボス狩りは早々と切り上げ、僕らは一時的にPTに加入したエンドと雑談を交えながら霧の中を歩いていた。
時折現れる敵は、ソロじゃないのが久しぶりで機嫌が良いらしいエンドが一撃で葬ってくれている。
というか、あのエンドにそこまで言われるとかクリスって……。
前から薄々感じてはいたけどさ。まあ、心強い限りだ。
そんな話をしながらダンジョンの出口を抜ける。
クリアになった視界に、無意識にほっと息を吐いた。
「……ところでエンド」
「どうした騎士さん?」
「他人の方針に口を出すのは趣味ではないが――」
「あー、分かってるって。装備だけでも防御特化にしてバランス取れって言うんだろ?」
珍しく迷いを滲ませた口調のルッツを、落ち武者は軽く手を振って遮った。
僕でも思いつくような事だ、同じ内容を言われたことも多いって事か。
……エンドのスタイルは分かっているが、それでも一人でダンジョンを、ボスを攻略し続けるのは辛いだろう。
ルッツの言う通りにすれば他プレイヤーとの共存も十分可能なはずだ。
スタイルを変えてもまだ特殊な型になるのは変わらないが、あのPSなら何とかなるように思える。
「気持ちはありがたいが遠慮しておく。アレンなら分かるんじゃないか?」
「アレンさん?」
「……まあね」
ボス戦での僕の役割は、アイテムで仲間のサポートをしながら危険になったら【竜化】の圧倒的な力で退却する安全ライン。
また、実力の割れたボスが相手なら竜化とエイミの破壊魔法を併用して大火力で効率的に仕留めるアタッカー。
でも僕の……というより【竜化】系のスキルの運用には、もう一つの形がある。
それは【竜頭】【竜腕】【竜脚】の三つを個別に使う方法。
アイテムなんかでSPの補給は必要になるけど、何の因果かスキルの成長に伴い効果時間を合計すればボス戦にも十分ついていけるようになっている。
なのに僕がボス戦でスキルを個別に使わない理由は…………。
そこまでの事情をこの落ち武者が知っているとは思えない。
けれど、言っているのはそういうことなんだろう。
「カラオケで音域キツくなってきた時とか、裏声に切り替えるかと思っても上手くいくか心配で結局できない事ってあるだろ? あれと一緒だよ」
「なぜカラオケに例えた」
「あはは……それより、町に着きましたよ」
「じゃあ、ここらでお別れだな。楽しかったよ」
「こちらこそ。折角だしフレンド登録でもする?」
「ああ。頼む」
そんなわけで、フレンド欄に\(^o^)/の名前が追加された。
その足で職人街へ向かい、強敵に挑むってことで心配していたセナさんに勝利報告。
出発がエイミとルッツの強引な説得だったって事もあって良い顔こそされなかったけど、これで義理というか義務は果たせただろう。
その後はニコルさんの元へ向かって薬を調合してもらう。
「……霧化薬?」
「また物騒な薬が出来たものだねえ」
「物騒?」
首を傾げたけれど、効能を聞いて納得する。
それは欠損部位回復。
裏を返せばこのゲームにはプレイヤーにも部位欠損ダメージがあるって事だ。
いや、このリアリティを考えれば自然なことだけど……デスゲームなんて状況じゃ洒落になってない。
前例がないから今の所この薬以外の回復方法とかその辺が謎なのも不安を煽る。
多めに持っておきたいけど……何度もあそこに行くのは嫌だな……。
ニコルさんに別れを告げた後、いつものようにタイラーさんのところで装備を強化してもらう。
いつもと違う事と言えばルッツの盾と鎧……アイアンハーミットを倒して得た装備に限界が見えてきた。
耐性も優秀だしまだ頼る機会は多いけど、新しく強力な装備が得られればそれもだんだん減っていくのだろう。
一通りの用事を済ませたところで解散。
適当な他のPTにくっついてケルピー狩りにいくのも良いけど……この時間じゃ微妙かな。
自室に戻って掲示板を眺めることにする。
あー……メインボス倒したのに先のエリアに進まない僕らを批判する声もあるな。
うるさい知ったことか、と言いたいけど我慢。
明日もまた別のサブダンジョンに挑むんだけどー? と、心の中でケンカを売るに留めておく。
霧化薬の情報がまだ上がっていなかったから打ち込んで……お?
更新された最前線の情報に目が止まる。
今日3つのPTがケルピーを突破したっていう内容だった。
ちなみに今回エイミの影が薄いのは仕様です




