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24.霧の森――3

「ウゴァアアア!!」

「「「ガアア!!!」」」

「――じゃあ、一つ行ってみるか」


 ちょうど帰り道の途中にあった小ボス部屋。

 そこで雑談を挟みながら戦っていると、ここの主であるミストコングが取り巻きのミストエイプを引き連れ現れた。

 エンドが二刀に手を掛け前に出るのと入れ替わりに、僕らは下がってルッツを筆頭に防御を固める。


「いや、この程度の相手にそこまで暴れないから。そんなに警戒しなくても」

「そうか」


 って前、前!

 平然とこちらを振り返って苦笑しながらもエンドの歩調は一切変わらない。

 向こうからも霧猿の群れが迫っているから、その距離はあっという間に縮まり……。


「――【影斬閃】」

「ガ……」


 まるで蠅でも追い払うような気軽さで抜刀。

 ほとんど敵の方を見もせずに放たれた漆黒の斬撃は、取り巻きのミストエイプたちをまとめて両断した。


 確か、このスキルは……自分の意思で攻撃範囲を調整出来るものだったはず。

 もちろん条件はあり、攻撃範囲を広げた分だけ一発の威力は落ちるけれど……。

 まあ、威力に関してはこの際なにも言うまい。

 それよりも驚くべきは、斬撃がちょうど取り巻きを一掃できるギリギリのサイズだった事だ。

 調整と言っても事前にメニューから設定しておくとかいう生易しいものじゃない。

 武器を振り抜く強さ、振る範囲なんかに依存するのだと聞く。

 ……俗に言う紙装甲でボスを単独撃破するような超人には朝飯前なのだろうか。


「ゴ……」

「派手に行くか! 【昇脚】っ」

「ギッ!?」


 一瞬で孤立させられ戸惑うミストコングの懐に潜り込み、エンドは無防備な顎を下から蹴り上げる。

 そのまま起き上がり様に、【居合】スキルによる無詠唱の斬撃を連続で叩き込んだ。

 余りの威力に、重厚な大猿の巨体が浮かび上がる。

 ……これも起点に過ぎなかった。

 ひたすら繰り返されるのは無詠唱の斬撃。

 その度にミストコングの身体は少しずつ浮いていき、いつしかエンド自身も追いかけるように宙を舞っていた。

 時折あらぬ方向に放つ一閃の反動で細かく位置を調整しながら実際に飛行しているのだと気付き息を呑む。

 『嵐』の通り名に違わぬ芸当。

 HPなどとっくに尽きた骸を供に落ち武者は上昇していく。

 やがてその姿が霧の中に紛れたところで――。


「――【滅龍撃】ッ!」


 一喝と共に霧が裂けた。

 僕からすると微妙に不吉な名前の一撃を受け、ミストコングの骸が流星のように着弾。

 地面に放った一閃で着地の衝撃を殺したエンドも遅れて降り立つ。

 流れ弾が無かったのを考えると、手加減した状態でアレか……。

 最前線PTに居るだけの僕がたまにトッププレイヤーに数えられてるのは間違ってると思うけど、こんなのと同列に扱われるのはもっと間違ってる。

 浅い感想になるけど、凄ぇ格好良かった。


 その後もしばらく戦い続け、ミストコングのPTが出たところで僕らの側からもスキルを披露。

 エイミの【破壊魔法】は相変わらずで、久しぶりに見る【名も無き死槍】は侵入不可領域の向こうまで霧を貫いてみせた。

 その威力にはエンドも目を丸くして絶句していた。

 というか、ここで撃つとそんな感じになるのか……。

 なんとなく他の場所でも試してみたくなるな。

 今居る小部屋みたいな所じゃないと全方位を警戒する必要があるから面倒極まりないけど。



「ウゴァアアア!!」

「「「ガアア!!!」」」

「――次は僕の番かな? 【起動(スタートアップ)竜化(アセンション)】」


 さて……竜化したは良いが相手は雑魚。

 張り合いが無ぇな……精々派手に狩るか。

 【竜頭(ヘッド)】で習得した能力の一つ、【竜眼】の一瞥で竦む猿共を眺めながら考える。


「喰らいな【雷衝(サンダーフォース)】ッ!」


 霧猿PTと言うより周囲の霧を主なターゲットに【雷衝】を放ち、更に【ファイアブレス】で焼き払う。

 この時点で実質余波だけだというのに取り巻きのミストエイプは全滅。

 率いるミストコングも満身創痍の有様だ。

 そんな雑魚より晴れた霧だが……奥行きはエイミに劣るが、範囲は勝ったな。

 謎の競争意識を思考の片隅に感じつつ仕上げに移る。


「トドメだ――【竜閃】ッ!!」


 【竜哮(シャウト)】で威力を上乗せしつつ、例によって宙返りの勢いも乗せた一撃を叩き込む。

 ほとんど抵抗もなく大猿の身体は無数のガラス片となって砕け散り、地面に深い亀裂が刻まれた。

 効果時間が残っている間チマチマと雑魚を狩り続けるのもかったるい。

 俺はさっさと竜化を解いて座り込んだ。


「なるほど、直接見るのは初めてだが凄ぇもんだな」

「はは……」


 そうは言ってもタダの見かけ倒しです、エンドの兄貴。

 ブーストした能力でモンスターっぽい攻撃を二、三披露しただけの僕からすれば、そんな気分だった。

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