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23.霧の森――2

 竜化した俺とエイミのスキルがヴラディに直撃し、爆煙が紅霧を呑み込んだ。

 切り札は切った、これを凌がれていたら一気に不利になる。

 最悪のケースに備え追撃を加えようとしたところで……視界にリザルト画面が表示される。

 霧が晴れたのを確認し、竜化を解いた僕はほっと胸を撫で下ろした。

 手強い相手だった……回復を済ませると、誰からともなくゲートを潜る。


「――おっ?」

「ん?」


 マップが切り替わる際、どこかいつもと違う感覚がした。

 その理由はすぐに示されることになる。

 ゲートを通る前には居なかったプレイヤーが一人――落ち武者が、そこにいた。


 その装備は僕らも知る物のはずなのに何処か和風っぽいアレンジが加えられ、まるで別物のように見える。

 そして何より目を引くのは圧倒的ボリュームの婆娑羅髪だ。

 髪型自体は確かに、変更してくれるNPCが今も町にいる。

 とはいえアバターの姿を現実のプレイヤーのものと同じに変えられて尚、その恩恵にあやかろうという猛者は少ない。


 別口でヴラディに挑んだプレイヤーか?

 一人って事は、他のメンバーは……。

 普通はそう考えるところだが、こと彼に関してそんな気遣いは無用だ。

 そのプレイヤーネームが\(^o^)/と表示されているのを見て確信する。

 間違いない。彼は掲示板だとエンドと呼ばれているソロプレイヤー(、、、、、、、)だ。


「直接会うのは初めてか? 『ハンターズ』御一行」

「その呼び名はどうにかならないのかな、『終焉の使者』さん?」

「「…………」」


 険悪とか、そういうんじゃないけど……どこか居たたまれない沈黙が降りた。

 僕らに二つ名がついてるのもアレだけど、エンドのそれは輪をかけて……実際に口にすると、来るものがある。

 軽口のつもりが大火傷になってしまった。

 軽く咳払いをしたルッツが前に出る。


「……噂は本当のようだな」

「はは、アレから初対面の奴らは皆そう言うが……ホント運が良かっただけだって」

「良く言うよ。運で倒せるならβ時代にもっと出回ってたはずさ……ミストレックス装備(、、、、、、、、、)なんてね」

「そう言われても事実だから困るな。先輩(、、)?」


 話題に上ったところで、僕も角度を変えて覗き込む。

 その背中に吊るした二本の刀……その鍔の部分には、確かに恐竜の頭骨があしらわれていた。

 それがエンドが単独討伐したミストレックスの素材を使ったものだと思うと、鞘に収まったままの状態でもただならない気配を感じる気がする。

 現時点でプレイヤーが手にしている中では紛うことなき最強の武器だ。

 残る素材は確か、グリーブ……具足にしたんだったか。

 その部分は長い羽織の下に隠れて見えない。

 だが、そんな事より気になる台詞が……。


「……先輩? エイミの事か?」

「ああ。俺のスキル構成は彼女がβテスト時代に使ってたものがモデルなんだよ」

「「「!?」」」

「いや、そんなに驚かなくても……それにβ時代のアタシよりコイツの方が普通に強いし」

「状況だって違うんだし、そう決めつけるのも早いと思うけどな。スキルなんて俺の方が日和ってるくらいだ」

「アレを少し安全志向にしたくらいで今も生き残ってる方がおかしいって言ってんの」


 うわ……何気ない風に会話するエンドとエイミが、どこか別次元の存在みたいに見えてきた。

 半ば呆然としながらその様子を眺めていると、肩を軽く叩かれた。


「ん、クリス?」

「あの……エンドさんのスキル構成って、どんなものなんでしょう?」

「えっと――」


 エンドのスキル構成といえば……確か、ジョブはサムライ。

 固有スキルの居合、二刀流と汎用スキルの総合体術を取っていたはずだ。

 パラメータ的には総合体術で辛うじて全体的な底上げをしているものの、居合は敏捷特化、二刀流も少し筋力を上げるだけのスキル。

 居合が高速・高火力の攻撃を支え、二刀流によって手数と攻撃範囲が広がる。


「――まあ、本来は切り札として一つ取る類の固有スキルを両方取ったっていうネタ構成だよ」

「あれ……? どこかで聞いた話ですねー?」

「さー、何処で聞いたんだろーねー」


 まあ、竜化で一時的に無双する僕とエンドでは性質が違う。

 この落ち武者は圧倒的な攻撃力の代償として防御力が低い。

 それも居合のデメリットとして防御力低下があるせいで、ボスの攻撃なんか直撃した日には即死しかねない程に。


 その弱点を補う戦い方は嵐に例えられている。

 僕だったら普段の無力を補ってくれる仲間が必須だけど……エンドはその真逆。

 彼と共闘するプレイヤーはエンドの攻撃に巻き込まれない立ち回りが要求されるけど、まず無理だ。

 エンド自身は雑魚の一撃でも致命傷になるほどの防御力しかないことも合わさって、余程のプレイヤーでないと仲間が足枷にしかならない。


 彼には悪いけど、同じネタ構成でも僕は竜化(こっち)で良かったな……。

 まあ生産職のプレイヤーたちと仲良くしてるらしいし、孤独ではないみたいだけど。


「――ま、アンタらなら俺より安定してミストレックスも狩れるんじゃないか?」

「いや無理だから。相性ってのがあるんだよ」

「ぶっちゃけると噂の【竜化(アセンション)】【破壊魔法】の共演が見たいだけなんだがな」

「ふむ……そういうことなら、俺もアンタの『嵐』とやらを見ておきたい」


 落ち武者のプレイスタイルに思いを巡らせていると、何か話が纏まろうとしていた。

 あの……竜化は今クールタイムが……。

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