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22.ヴラディ・スローター――4

「――【堅守】!」

「ガァアアアア!!」

「ッ!?」


 繰り返されて何度目かの攻防。

 剛腕の一撃をスキルで受け止めるルッツ。

 変化はその直後に訪れた。

 虐殺者の頭部に霧が集まり、虎のゾンビのような外見を象る。


「いけないっ――【シューティングスター】!!」

「ガッ――!?」


 白銀のエフェクトを散らす矢が空を裂いた。

 発動に溜めを要求し、消耗も馬鹿にならないクリスの切り札は……ルッツの頬を掠め、噛み合わされる寸前の牙をすり抜け、ボスの喉に突き立つ。

 声にならない悲鳴を上げ、大きく仰け反る吸血鬼。

 すかさず斬りつけるルッツやエイミの攻撃を少し受けた後、その身体は霧に変じた。


「た……助かった」

「上手くいって良かったです」

「だが一瞬、俺は味方の誤射で死ぬのかとも思った」

「す、すいません!」


 ……うん、あれは確かに傍から見てても肝が冷えた。

 頭丸齧りにされるルッツのシーンを幻視して心臓が止まりそうになったところに、別の方向からの追い討ちだ。

 メンタル次第じゃ腰抜かしてたんじゃないか?


 いつも通りのやり取りを挟んで平静を保とうとしていると、再びヴラディが姿を現した。

 近くにいたエイミが大鎌ですかさず斬り裂くと、その身体は鮮血のように紅い霧を噴き出し掻き消える。

 次いでその姿はルッツの傍に現れた。

 盾の一撃を受け、吸血鬼はやはり紅い霧を散らして消滅。

 その後に敵が現れたのは僕の正面。

 下手を打って足を引っ張るわけにはいかない、躊躇わず距離を取る。

 ボスは全身を紅い霧と化して姿をくらます。


 いつしか視界を覆っていた白い濃霧は紅にその色を変えていた。

 僕らは誰からともなく武器を構え、一か所に集まる。

 肌を刺すようなチリチリとした緊張感……違う!

 実際に少しずHPが削られていっている。


 もしもこのままボスが隠れたままだったら……そんな想像に肌が粟立った。

 HPの減少速度は大勢に影響を及ぼす程ではない。

 なのに、どうしようもない恐怖を感じる。

 いつの間にか霧から聞こえてくる嘲笑が途絶え、痛いほどの静寂が耳を突くのも焦りに拍車をかけているのかもしれない。


「「「――――ッ!」」」


 不意に霧が薄れた。

 ほとんど条件反射のレベルで僕らはその場から飛び退る。

 それまで僕らがいた場所に霧刃が刻まれ……敵がその姿を見せる。

 その腕は今までの攻撃時のような剛腕。

 頭は先程ルッツに噛みつこうとした際の亡虎のもの。

 虚ろな眼下に灯る炎はぼんやりとした光を放ち、確かに此方を睨み据えている。

 これが……情報にあった、獣の本性って奴か?


「グルォオアアアアアッッ!!」

「ッ……【グレイブエッジ】!」


 突進したヴラディの先にいたのはクリス。

 大振りな剛腕の一撃を回避し、そのうなじに短剣を叩き込む。

 ダメージエフェクトこそ発生したが攻撃は弾かれる。

 すぐに距離を取ったクリスには目もくれず、ヴラディは標的を変えた。


「ガアアア!」

「ぐうッ!」

「ルッツ!?」


 エイミの前へ割り込んだルッツの盾にボスの剛腕が激突。

 スキル無しとはいえ余りに容易く防御が破られ、ルッツは大きく吹き飛ばされた。

 この流れだと、次に狙われるのは――!

 背筋が凍り付く。

 だが、続く敵の行動はもっと酷いものだった。

 まさに怒り狂う獣のようにその場で腕を振り回すと、紅霧の刃が無差別に放たれる。


 ……誰かを狙って放たれた攻撃じゃない。

 刃一つ一つは大きいが、間隔が広い。僕でもどうにか躱せるだろう。

 そもそもこれまでの霧刃と比べれば、きちんと飛んできてくれるだけ避けやすい。

 ならば――その分のスペックが、どこに割り振られたのか。

 そして、まさに今鈍い音を立てて墜落したナイトに、回避が可能なのか。


「アレンさん、エイミさん! いってください(、、、、、、、)!」


 その声が決め手になった。

 狂乱する虐殺者に向かって駆け出しながら詠唱する。


「任せろ! 【起動(スタートアップ)竜化(アセンション)】」

「――アレン!」

「応! 掴まれェ!!」


 差し出した後足に、エイミは迷わずしがみついた。

 一切勢いを緩めることなく距離を詰め、右腕を大きく振りかぶる。

 同時に蹴りだした後足から、エイミが弾丸のように飛び出した。


「――アレンの生命を贄に裁きを乞う!」

「【竜爪・紫電】【竜閃】くたばれぇぇええええッッ!!」

「【雷神の魔槌】!!」


 肉を裂く確かな手応えが伝わり、イオン臭を放つ稲妻が鼻先を通り抜ける。

 轟いた爆音が世界を揺るがした。


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