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2.始まりの町――2

 新シリーズ3話投稿の二話目です。

 転送された先はログインした時の広場。

 近くにはルッツとクリスの姿もあるが、この圧倒的な人の数!

 周りより頭一つ背が高い分、その多さはよく実感できた。

 広場は人で溢れ返っていて、とてもじゃないが数え切れない。


 ――ォォォオオオオオオッッッ!!


 不意に陽が陰り、地面が震えるような咆哮が喧噪を圧殺した。

 俺たちの頭上すれすれを通過したソレは器用に身を翻し、広場の中央にある門の上で制止。

 ゲームのPVでも姿を見せた巨龍は……確か、龍神バルティニアスと言ったか。

 事前情報では、ver.1最強のエネミーとして紹介されていた。今のプレイヤーなど容易く一掃できる存在なのは間違いない。


「私はバルティニアス。元はこの『アクシズ・オンライン』開発スタッフであり、グランドシナリオの最終ボスでもあり……最初で最後の、チュートリアルを担当します」


 ――「アクシズ・オンライン」内部からのログアウト方法は一つ、龍神を倒しシナリオをクリアすること。

 キャラクターが死ねば、ソフトに組み込まれたプログラムにより現実のプレイヤーも死を迎えることになる。


 BGMさえ絶えた広場を支配する声は、淡々とそう告げた。

 言いたい事は山ほどある。

 それは他のプレイヤーも変わらないようで、静まり返った広場に再びざわめきが広がろうとした。

 だが、巨龍は視線を巡らせるだけでそれら全てを封じ込める。

 人外の姿でありながら人間じみた挙動の一つ一つが、それでいて遥かな高みから見下ろすような瞳が、目の前に君臨する存在をあたかも神か何かのように錯覚させる。

 ……いや、それは錯覚ではないのかもしれない。

 ゲームを外側から創り支配するスタッフも、ゲーム内で最強とされるラスボスも、プレイヤーから見れば神にも等しい力の持ち主なのだから。


「なお、舞台となる浮遊大陸『シガロフ』は一カ月後に外縁部から崩壊を始めます。生き延びる為には、この世界の中心を目指し続けてください」


 何……?

 示されたのは事実上のタイムリミット。

 龍神はそれを告げると、登場とは打って変わって音も無く飛び去った。空からは大量の羽が舞い散る。

 呪縛が解けたように騒ぎ出すプレイヤーたち。

 降ってきた龍神の羽が至る所で輝くと、狂乱は更に加速した。


「なんだコレ!?」

「か、身体が……!」

「ギャァアアアア!!」


 驚愕に混じって、幾つかの場所からは断末魔のような悲鳴まで聞こえる。

 状況についていけないでいると、誰かが手を引っ張る。

 為されるままに群衆から離れて引き込まれたのは、何の因果か最初に入った路地だった。


「――さて、ひとまずパニックからは逃れたわけだが」

「え……? ルッツさんはともかく……アレン、さん……?」

「……何だよ。僕からすればOLクリスさんの方が驚きなんだけど?」

「大学生です!」

「結局年上……」


 低くなった視点と、ゆるキャラから彫りの深いシリアス顔にチェンジしたルッツを見れば状況は分かる。

 気合入れて作った世紀末モヒカンは消滅。

 残ったのは身長までリアル同様に縮んだチビアレンって事だろう。あんなに低かった胴間声も声変わり前に逆戻りだ。

 逆にクリス……さんは中学生くらいに見えてたのに、今や立派な大人のお姉さん。

 なんだか尚更、身長の差を思い知らされる。


「でもこのゲーム、推奨年齢は13歳以上じゃ……」

「高校生!」


 失礼な。自分も似たようなこと言った直後だけど。

 中学生ならともかく小学生に間違えられたのは初めてだよ!


「僕はロールプレイの一環だったんですけど、クリスさんのアバターは一体?」

「あ、敬語は無しでお願いします」

「じゃあ、そちらも普通に話してほしい。年上なんだし」

「分かりまし――分かった、わ。それでアバターなんだけど……この年でゲームってどうかなって思ったから。一回試しただけなのに知り合いに見つかってもマズいし……」

「なるほど」


 外見が現実に戻ったからか、ルッツの話し方が堅くなってる。

 まあ僕もロールプレイが完全に消滅したけど。

 生身……とは違うか。とにかく、この見た目であんな態度は出来ない。


 と、視界の端にあるメニューアイコンが振動した。

 開くと追加されていたのは運営からの連絡。最初で最後のチュートリアルとは何だったのか。

 一応、龍神の話の捕捉という体裁らしい。

 アバターはルシフェラ=ファディス。元スタッフにして最終エリアボスの一人と、龍神と同様の名乗りを挙げた片翼の黒い天使だった。

 こちらのメッセージはごく普通で、街中はHPの減らない安全圏になっている等の内容。

 他には生産職のプレイヤーは自分の作ったアイテムを持った戦闘職が到着した町に任意のタイミングでワープできる、なんて記述も。

 軽く目を通しながらスクロールさせていくと……一番下に、こんな文章があった。


『シガロフ大陸には死に直結する罠も、初見殺しの類も存在しません。細心の注意を払い、勇気を持って進んでください』


 デスゲームである以上、必須な要素だと思うけど……それでも運営側から断言されると安心できる。

 後ろからはステージの崩壊って鞭に追い立てられてるわけだが。

 うん、鞭に対する飴としては全然釣り合ってないな。

 それに説明を見る分にはPK(プレイヤーキラー)なんかの抑止はほとんど無いし、そっちも不確定要素としては大きい。


「まぁ、やるしかないか」

「だな。……クリスはどうする? 酒場でメンバー探すって手もあるけど」

「……酒場……えっと……その、お二人さえ宜しければPTを組んで頂けると……」

「良いんじゃない? これも何かの縁だし」

「ああ。此方こそ宜しく頼む」

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