19.ヴラディ・スローター――2
ボスの姿が消えるのに合わせ、霧が再び濃度を増す。
「ルッツ、回復」
「助かる」
一応周囲を警戒しながら、ルッツに回復薬を振りかける。
霧と同化する身体、防御の上からナイトのHPを削っていく攻撃力は確かに厄介だ。
でも……付け入る隙は大きいように思える。
動作は一つ一つの溜めが大きいし、攻撃の時は霧が薄れるから狙いも定めやすい。
今までのようにルッツの防御を主軸に、カウンターの要領で削っていけば……。
そう考えた矢先の事だった。
嘲笑が一際大きく響いたかと思うと、今まで以上に霧が晴れていく。
……?
しかし、ヴラディが姿を現したのは僕らからある程度離れた場所。
その事に疑問を抱くとほぼ同時、身体に圧迫感が生じ――噴き出す鮮血じみたダメージエフェクトに思考が固まる。
「!」
「ッ……!?」
「――ッ、ぐ……!」
急変する視界の中に吹き飛ぶルッツたちの姿が見えた。
僕も恐らく同じように吹っ飛ばされているのだろう。
このゲームに閉じ込められてから初めてマトモに受けた痛打。
肩口から袈裟懸けに刻まれた斬線から全身に突き刺すような痛みが走り、それだけで貧弱な身体は碌に動けもしなくなる。
「アレンっ……、頼む!」
耳に届いたのはルッツの叫び。
その意図は即座に伝わった。
ここで動かないと、死ぬ。
その思いが身体を突き動かす。
「【起動:竜化】ッ……!」
地に伏すヒトから中空に舞う竜へ。
詠唱に成功し、自分の身体が変化していくのが分かる。
だが、一度打ちのめされた脆い精神は縮こまったままだ。
だから――。
「――グルアアアアアアッッ!!!」
この咆哮一つで敵を叩き潰す。それくらいの意思を込めて全力で【竜哮】を放つ。
眼下に竦む吸血鬼は獲物だ、身を苛む苦痛は闘争の滾りだ、この手の震えは武者震いだ。
……そう。それでこそ、俺だ。
此度の戦いは撤退戦、三人を無事にゲートへ放り込むが勝利。
霧に紛れ、吹き飛ばされた事で一度は見失ったゲートも今の俺なら見通せる。
そして……竜の眼は別のものも捉えた。
薄れ、刃の形に収束していく霧が四つ。
これが先程の攻撃の正体か。
「【雷衝】ッ。消し飛べぇぇえええええええええ!!」
詠唱と同時、俺を中心に雷の波導が迸った。
竜の姿に伴ってかなり派手になっているが、元々この攻撃の威力自体はそこまで高くない。
その本質は、何に気兼ねすることなく広範囲を攻撃できる点。
拡散した雷は……味方を傷つける事が無い。
竜の力に物を言わせて強引に霧を吹き飛ばした事で、空白の安全地帯が生まれる。
攻撃後の硬直が解けると同時に俺は身をくねらせ三人を回収。
ゲートに向けて一直線に突っ込んだ。




