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14.バブル・エリミネータ――2

 行動パターンの変化。

 となると、次の行動は――。

 無尽の泡沫を従える魚馬を前に、剣を納め盾を両手で構えたルッツが飛び出す。

 直後、魚馬を中心に爆発が起きた。


「【スピリットガード】!」


 ルッツの発声を掻き消すような轟音。

 盾を起点に広がったヴェール状の障壁に衝突した泡沫は拡散して視界を覆い尽くす。


 初めて受ける大規模攻撃。

 見た目こそ派手だが所詮は泡。序盤の攻撃だ。

 十分レベルを上げHPに余裕を持っていれば、まともに喰らったところで実際死ぬような事はない。

 少なくともβテストではそうだったという情報がある。


 ……だというのに、我知らず足が震えた。

 事前に得られた情報では、この攻撃は行動パターンが変わった合図として一回放ってくるだけのものらしい。

 そこに変更が無いことを切に祈る。


 これまでの人生で最も長い数秒が過ぎ、視界を覆っていた泡沫が消え去った。

 ここからが正念場だ。

 【スピリットガード】はこの段階では強力な範囲防御だが、クールタイムの関係からこの戦闘ではもう使えない。

 水煙が漂う中、いつでも動けるよう身体に力を込める。


「ヒヒィイイン!」


 来た!

 ケルピーの従えていた泡が弾丸のように撃ちだされる。

 見てから悠長に弾道を予測して回避する時間はない。防御姿勢を取り、半分以上勘に任せて回避。

 受け身も取れず地に転がるけれど、即座に立ち上がりつつ飛び退く。

 視線を上げると、わざわざ敵の姿を探す必要はなかった。

 魚馬は真っ直ぐこちらに突っ込んできていたからだ。


「こっちに来いよ! ――ルッツ!」

「任せろ!」


 無機質な眼に焦りが浮かんだように見えた次の瞬間、ケルピーはほぼ直角に進路を変えた。

 その進行方向を見て理由を察する。

 エイミが、破壊魔法の詠唱に入っていた。

 ターゲットが移ったところでエイミは詠唱を破棄。

 直後、割って入ったルッツが魚馬の突進を受け止めた。


「【ダークリーパー】ッ」

「【烈風】!」


 動きが止まった隙にエイミが闇を纏った鎌で斬りつけ、双剣に持ち替えたクリスが素早く三回連続で斬りつける。

 駄目押しにルッツが敵の鼻面に盾を叩きつけ、三人は一斉に飛び退る。

 そのタイミングでケルピーは尾を振り回して全方位を攻撃。

 事前に察知していた為にダメージこそ無かったが、生じた隙を突いてボスは悠々と水辺へ引き返した。


「――ヒヒィイイン!」


 二度目の嘶き。

 今回の泡は斜め上に撃ち出された。

 ……拙い!


「この際泡は無視してボスに集中しろ! そっちの方が厄介だ!」

「わ、分かっ――くッ!」


 魚馬の突撃と同期して泡が降り注ぐ。

 確かにその威力は無視できないものではない。

 ただ、喰らえば体勢が崩れる。そこを突かれた場合の事は、あまり考えたくなかった。


 幸いなことに狙われたのはルッツ。

 ナイトの防御力を前に泡の雨はほとんど意味を成さず、役割も回避ではなく盾による防御だから影響は小さい。

 ルッツが多少引き付けて攻撃を防いだところに泡のダメージを無視した二人が駆けつけ、再び連撃を決める。

 ボスが尾の振り回しから水辺で次の攻撃の溜めに移ったところで僕は三人を回って薬で回復。

 敵の攻撃に備えて配置に戻り――そこで強烈な悪寒に襲われた。


 魚馬の周りに浮かび上がる泡沫は、さっきまでの凡そ二倍。

 泡嵐の時よりは少ないが、例えるならエイミが破壊魔法を行使するときのような威圧感をボスから感じる。

 万が一の時【竜化(アセンション)】で三人を庇い、脱出する動きをシミュレート。

 そして――。


「ヒヒィィイイイイン!」


 一際甲高い嘶きが響くと同時、泡沫は二方向に撃ち出された。

 放射状、そして斜め上空。


行こうか(、、、、)!?」

「――いや、まだいける! 【ダッシュガード】!」


 この第三撃で、泡沫の発射とほとんど同時にケルピー自身も動きだしていた。

 エイミへの突進にルッツが割り込むも、不完全な防御の代償に弾き飛ばされる。

 未だ猛る魚馬の正面から、跳躍したクリスが飛び込んだ。


「【グレイブエッジ】【回し蹴り】!」


 それはかつて亜種(バリアント)ゴブリンにもトドメを刺したコンボ。

 スキルの効果で発光する短剣が敵の眉間に突き立つ。

 そこでクリスの身体が回転し、短剣と異なる色の光を帯びた脚が吸い込まれるように短剣を押し込む。

 ……だが、まだ倒れない。

 どう見ても致命の一撃を受けてなお、魚馬の瞳は憤怒に燃えていた。

 ……そして、僕らの方にも一人。まだ手を残しているアタッカーがいる。


 エイミは両手で扱っていた鎌を肩に担ぎ、空いた手をケルピーの横腹に押し当てていた。

 一瞬だけ僕の方に視線を向け、大きく息を吸い込む。


「アレンの生命を贄に裁きを乞う! 【雷神の魔槌】!!」

「いっ!?」


 虚脱感と共に僕のHPが半減する。

 ほぼ同時に降り注いだ雷が、槌というよりは矢のように魚馬を貫き爆発させた。

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