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12.湖畔

「あ、アレンさん! 準備できました!」

「っしゃあ! ぶちかませエイミッ!!」

「ガッ……」


 クリスの合図に、俺は連打を浴びせていた湿林のボス……コブラ・コスタームを投げつける。

 大蛇の特徴的な八本腕は半分以上が破壊され、或いは喰い千切られている。

 他のボスに比べれば貧弱に感じる相手だが、その独特な動きは他のボスとは一線を画す熱いぶつかり合いを提供してくれた。

 早贄のように木の枝で串刺しにされた大蛇が藻掻く。

 しかし、その脱出が間に合うことはない。小柄なソーサラーの身体から圧倒的なプレッシャーが放たれた。


「任せて。【名も無き死槍】っ」

「――――!!」


 コブラが蒸発するのを見届けて竜化を解除。

 ドロップを確認すると……お、ラッキー。牙が二つも手に入った。

 これでまた皆の武器を強化してもらえるな。


 それにしても……竜化(アセンション)と破壊魔法の相性が凄く良い。

 竜化で時間を稼ぎつつ相手を弱らせて、【名も無き死槍】でトドメを刺す。

 少なくとも最初の三エリアのボスはそんな調子で倒せた。

 何が良いって、この方法だとかなりの短時間でボスを狩って素材調達とレベル上げができる事だ。

 ボスキラーとして少し名前も売れてきている。

 まあ、今の段階で既にボスの攻撃が情報より苛烈になるとか、不安な要素も出てきてるんだけど。

 調子に乗っていたら命取りになる。

 そんな予感は、パーティの全員が共有していた。



 ……そして、僕たちが浮遊大陸に閉じ込められてから一カ月。

 龍神の宣告通り大陸が崩壊を始めた様を、一部のプレイヤーが掲示板で公開した。

 始まりの町が外縁部から色を失い、朽ちるようにボロボロと崩壊する光景は否が応でもプレイヤーの焦燥を誘い――攻略プレイヤー最初の犠牲者が出たのは、その翌日だった。

 彼の所属するパーティは最前線組より出遅れて行動を開始していた。

 始まった崩壊に取り乱し、少しでも人より速く進もうと第二メインエリア……湖畔のボスに挑んだ結果が返り討ち。

 潰走の際、HPの低い後衛が犠牲になったとの事。


 初めての「戦死者」はプレイヤーたちに大きな衝撃を与えた。

 浮遊大陸の崩壊に急かされていた足がピタリと止まった形だ。

 勿論プレイヤー全員がそうなったわけじゃない。

 けれど町には慎重というには腰が重過ぎるプレイヤーたちが蟠るようになり、嫌な空気を醸しだしていた。


ここ(湖畔)のボス、倒さないかい?」


 エイミがそう提案したのは、湖畔の小ボス部屋で経験値稼ぎも兼ねた素材狩りをしている時だった。


「別に無理そうなら逃げても良いんだけどさ、なんか……今の雰囲気、変えたいんだ」

「βテストの時と比べて、今の戦力だと勝算はどれくらいですか?」

「んー……ギリギリだけど推奨レベルは超えてるね。装備は十分に充実してるよ」

「ふむ、ならばアレンと破壊魔法を温存して挑めば安全面は……」

「十分……かな。ここのボスっていうと、ケルピーか」

「確か魚の下半身を持つ馬、でしたっけ?」

「そう。幾つか水属性のスキルを撃ってくるけど、そこはβ時代と変わってないみたいだね」


 少し相談して出た結論は、ボスには明日挑むというものだった。

 竜化も破壊魔法も温存するなら、今から戦うのは時間が遅くなり過ぎる。狩りの疲労もあるし、大事は取っておきたい。


 挑むボスの正式名称はバブル・エリミネータ。

 姿は魚と馬を掛けあわせたようなケルピータイプで、全身を覆う泡の効果で打撃に耐性を持つとのこと。

 陸上でも俊敏に動き回って肉弾戦を仕掛けてくる他、湖に移動した時は飛ばしてくる水の槍や突進攻撃が危険。

 ボスの中では耐久に劣る方だったが、現在は他のボス同様の補正を受けていると思われる……等々。


 アクシズ・オンラインでは最初の攻撃型ボスか。

 今の計画通りに戦うなら、要はルッツの防御になる。

 積極的に動く相手である以上、ターゲットを散らさないよう纏まって動く形になるだろうが……何か嫌な予感がするな。

 杞憂で済めば良いんだが。



 翌日、僕たちは予定通り湖畔のダンジョンを訪れていた。

 木立は陽光を浴びてきらきらと輝き、道の側を流れる河の水は澄み渡っている。

 美しい自然を絵に描いたように爽やかなステージだ。


「「「ギギッ……」」」


 エネミーも普通に現れるし、油断できないのはこれまでのダンジョンと変わらないが。

 河から浮かび上がってきたのはサハギン――洋風の河童みたいな相手が三体。


「ルッツよろしく」

「任せろ。【稲妻斬り】」

「「「ギャギャッ!?」」」


 スキルの効果で電撃を纏った剣を、ルッツはそっと河に浸す。

 河全体を電撃のエフェクトが覆った。

 悲鳴を上げたサハギンたちの身体が硬直する。


「【百舌(もず)狩り】!」

「【ダークスラスト】」


 すかさずクリスが放った無数の矢がサハギンたちを貫き、エイミの鎌から放たれた黒い斬撃がトドメを刺す。


 コイツらみたいに河から現れる相手の対処は簡単だ。

 今ルッツがやった【稲妻斬り】や僕の【竜爪・紫電】みたいな雷属性の攻撃をすると一気に麻痺して動きが止まる。

 河を電撃が伝うから纏めて攻撃できる代わり、プレイヤー側もうっかり水に触れると感電するのが注意点か。

 後は的と化したエネミーを遠距離攻撃で仕留めれば良い。


 敵が消えた後、新手が現れないことを確認した僕たちはボス部屋を目指して歩みを進めた。

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