11.アイアンハーミット
そうやって小ボスを狩ることしばらく。
改めて装備を整え、僕らは浅瀬のボス……アイアンハーミットに挑むことにした。
何度も装備を見てもらってセナさんには申し訳なかったけど、スキルを鍛えられると笑って許してもらいつつ。
ちなみにこのボス、最近撃破したプレイヤーが出ている。
その情報によればβ時代との差は亜種ゴブリンと同じだけの耐久力。そして、HPが減ってくると使ってくる泡のブレスという事だ。
脇道ボス討伐ボーナスは隠者の懐刀という強力な剣らしい。
「――あのさ、ここのボスって撤退は簡単なんだよね」
「そうだな」
「じゃあ、ちょっと試したいことがあって……」
「キシキシキシ!!」
「うおっ――」
「【ソニックショット】!」
「ギッ!?」
「まあ、こんなものか。多分いけるだろう」
「了解」
無数の脚による攻撃を盾で凌ぐルッツ。
その隙を突いたクリスの矢が甲羅から飛び出した目を直撃し、生まれた隙に前衛のルッツが後退する。
同時に下がったエイミも破壊魔法の詠唱を開始する。
……よし。スペース的にも問題ないな。
「【起動:竜化】行くぜぇぇえええええッ!!」
「ギギッ!?」
「ふぅ……うおっ」
【竜哮】による大声でボスを怯ませつつ、宙返りした尾を殻の上から叩きつける。
ちなみに前以て【竜哮】を活用すること、折角だし竜化してる時は世紀末姿でやる予定だったロールプレイをする事は伝えてある。
だから怒声を聞いてもルッツは溜息を吐くだけだったが……初撃のインパクトは、そのルッツが目を見開く程度には大きかった。
空間に衝撃波が走り、アイアンハーミットの巨体が地面に沈み込む。
「【竜爪・紫電】【ツインブレイク】!」
「ギアッ――」
「喰らうかよノロマァ!」
腕に電撃を纏わせ、殻から出た部分を交差した爪で深く斬り裂く。
やはり硬いが、殻の上から強引に殴るより手応えはあった。
わさわさと生えた脚の攻撃は手数こそ多いが、元から電撃で麻痺させた上に大声の行動阻害も重ねてる。何より俺のリーチが長い。
避けるのは容易かった。
絶え間ない怒声と電撃で動きを阻害し、脚の攻撃を横殴りに叩きつけた腕で逸らし、殻と身体の間に爪を突き差し、頭突きで更に手数を増やす。
ああ、実に好い。燃え上がるような熱を身の内に感じる。
意識は研ぎ澄まされ、身体に漲る力は天井知らずに上昇していくような錯覚さえ覚える。
敵のHPはゆっくりと、しかし目に見えて減少していく。
「オラ、この程度かウスノ――」
「ギイイッ!」
「ロっ!?」
俺の嘲笑に奮起したわけではないだろうが、アイアンハーミットは強引に泡のブレスを噴き出した。
ダメージはほとんど無いが、俺が使っていた電撃が通って痺れる。
上等だ、それでこそボスって存在だろう。
半ば無意識に口許が吊り上がった。
「ハッ! そうこなくちゃ張り合いが無ぇからなぁああッ!!」
「ギッ――」
「どうした、もっと足掻けよ! 【ツインブレイク】ッ!」
「おい、アレン!」
一方的な蹂躙も良いが、やはりこういうのは抵抗あってこそだ。
戦いの熱の心地よさは別格。
まして相手がこのエリア最強のボスともなれば尚更。
身体を強引に動かして更に連撃を叩き込み、駄目押しにスキルを乗せる。
次はどうしてやろうか。奇怪な顔面に拳を叩き込むか、殻に覆われた脚を斬り落とすか――。
滾る意識の端に、ルッツの呼びかけが引っかかった。
「あン? なんだルッツ」
「交代だ」
「――チッ。了解だ」
暴れ足りねぇな。だが、仲間との予定をぶち壊す気もない。
最後に一つ、このデカブツをひっくり返そうとしたが……想像以上に重かった。
振り返り様に尾を叩きつけて満足し、俺は上昇して成り行きを眺めることにする。
「【名も無き死槍】」
「――――!」
見るのは二回目だが、一向に迫力の衰えない漆黒の奔流が放たれた。
既に残りHPを半分になるまで削られていたアイアンハーミットは為す術もなく飲み込まれ……スキルの終了と同時、声も無く倒れた。




