1.始まりの町
新シリーズ3話投稿の一話目です。
「む……」
今日サービスの始まったVRMMO、「アクシズ・オンライン」。
そのキャラクター作成画面を適当にスクロールしていた僕の手が止まった。
アバターはカスタマイズ済み。
ユーザー名はいつも通り、初めて遊んだゲームの主人公のデフォルト名を入力した。
後はジョブと、ゲームを通して成長させていくスキルを三つ選択するだけ。
一度決めたスキルを変えるにはアカウントを作り直すしかないから慎重に考える必要がある。
事前に公開された情報を見てそっちも決めてたんだけど……このタイミングで、新しいジョブが追加されていた。
それは竜騎士。適性スキルは槍術、竜頭、竜腕、竜脚。
組み合わせ的には槍を構えて竜脚で突撃したり、竜腕で槍を振り回したり、竜頭で槍をくわえたり……? そんな風に運用して、残る枠に適当な汎用スキルを入れるんだろう。
尤も、適性無いとはいえ無理に剣術スキルとか取って組み合わせることも可能だろうけど。
……それは分かる。
だけど、ふと頭をよぎった馬鹿らしい思いつきが自己主張を止めない。
まあ……良いか。元々ネタには走るつもりだったんだし。
友人と待ち合わせもしている、あまり悩んでいる時間は無い。
自分でも無謀に見える組み合わせのスキル構成を選択し、僕はキャラ作成を終えた。
――ようこそ、シガロフ大陸へ。
そんなシステムメッセージと共にOPデモが終了する。
切り替わった視界に広がったのは、現実と見紛う程リアルな始まりの町の景色だった。
家庭用ゲームの大手が遂に動いただけあって、これまでプレイしたVRMMOとは次元が違う。
というか…
「っしゃぁああ! 行くぜえええええええ!!」
「探索に行きまーす! PT如何ですかーーー!」
「――は? どこだ此処」
「素材持ってる方はいますかーっ!」
……うん、興奮したプレイヤーの声が喧しい事この上ない。
俺は人混みをかき分けると、事前に友人と決めておいた脇道に入った。
「よう、ルッツ」
「!? ……アレン、か?」
「名前なら表示されてるだろ」
辺りにNPCのショップが並んだ小さな路地。
ファーストコンタクトはもっとフザけたかったけど、早くもショップを利用しているプレイヤーがいたから遠慮した。
カスタム通りの野太い声で呼びかけると、デフォルメのような気の抜けた顔をした友人――ルッツがビクっと反応する。
フレンド登録を済ませていると、俺の恰好を眺めていたルッツは呆れたような声を上げた。
「……で、その世紀末モヒカンみたいなアバターはなんだ」
「インパクトある奴って言ってたろ」
「あり過ぎだ馬鹿、引かれるぞ。それに現実とは身長まで大違いだしマトモに動けるのか?」
「大丈夫だって。それにお前とくっついてりゃ孤立もしないだろうし」
「この疫病神め。良い感じのPTに入れたら見捨てるぞ」
「その頃には俺だって――と」
「ん?」
話の途中だったが、俺はルッツに手で断ってショップの方へ。
そこでは一人の少女が三人組の少年に絡まれていた。
腕を掴まれた時点でハラスメントコードに引っかかるはずだが、牢獄エリア転送までは踏み切れないってところか。
目的はPTの勧誘らしいけど、はっきりした抵抗が無いせいで三人組もだいぶ調子に乗っている感じだ。
「ほら、今回だけで良いからよ!」
「――なんだよ、楽しそうだなァ? 俺も混ぜちゃくれねーかァ?」
「「「っ!?」」」
殊更にチンピラじみた口調で乱入すると、四人とも凍り付いた。
さりげなく少女を三人組から引き離す。これで俺が牢獄行きになった日にはしばらく人前に顔を出せないところだが、そんなことも無く。
二メートル超の高身長から見下ろすと、三人組はあからさまにたじろいだ。
「それで、PTの勧誘だったか?」
「い、いや……」
「やっぱり遠慮しとくわ」
もうひと押し掛けると、三人組はアイコンタクトを交わして去って行った。
ビビったって言うよりドン引きした感じの反応だったが、まあ結果オーライか。
入れ替わりにルッツがやって来る。
「ほら、このアバターも中々使えるだろ?」
「レベル1のハリボテの癖に良く言う。えっと……クリスさん? も災難だったな」
「…………」
ルッツが話しかけるも、少女――クリスは無言。
まあ彼女からすれば胡散臭い男に絡まれるって状況は変わってないから当然か。
俺たちにしても深入りするつもりは無いし、別に構わないけど。
「嫌ならはっきり言わないと、相手が調子に乗るだけだぞ?」
「VRだし、直接言うのはやりにくいかもしれないけどな。というか迷子か?」
「わ、私……」
ん?
クリスが口を開いた。
無視して立ち去るのもなんだし、大人しく耳を傾ける。
「兄が買って自慢してたから、気になってやってみたんですけど……」
「初めてなのか? こういうのはソロより知り合いとやった方が良いぞ」
「そう、ですね。……もう少し経験を積んでから、今度は自分で買って出直します」
「そうか」
経験積むってのがVRの方かMMOの方かは分からないが、曖昧に頷いておく。
このゲーム、値段は結構張るんだが……リアル事情は人それぞれか。
クリスはそのままメニューを開いてログアウト――しない。戸惑った様子で首を傾げている。
「どうした?」
「恥ずかしながら……ログアウトの方法が分からないんです」
「メニューを開いて、オプションを選ぶだろ?」
「はい」
「そしたら項目の一番下に……あれ」
「おいおい、何やってんだよアレン」
ログアウトのボタンが……無い。
オプションの項目を全部確認してみるけど、やっぱり無い。
一応、街の中ならどこからでも落ちれたはずだよな?
じゃあ次はメニューの項目を――と思った時だった。
――運営から召集が掛かりました。
初めて見るシステムメッセージと共に、視界が暗転した。