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殺人剣と活人剣

 ある日の夕刻、ロッツフォードの村に一組の男女が来た。身なりから騎士と見て取れる。その一組はまっすぐ伯爵宅へと向かっていった。



「父上、ただいま戻りした。」

「お帰り、エヴァン。クローディアもお疲れさま。」

「お心遣い、ありがとうございます。」

ソルバテスは自室で二人を出迎えた。

男の名はエヴァン=ロッツフォード。ロッツフォード家の次男であり騎士隊の一人でもある。女性はクローディア=オルガー。ロッツフォードに使える数少ない騎士である。二人は人材確保の為に王都にて奔走していたのだ。

「それでどうだった? 来てくれる人はいたかな?」

「・・・申し訳ありません。人材の確保は出来ませんでした・・・。」

「やはりこんな辺鄙な所には来てくれないか・・・。こっちはクアートで一人確保できたよ。」

「本当ですか!」

「あぁ、戦役大陸から来た腕利きを雇えたよ。」

「それは何よりです。こちらは人材の確保は出来ませんでしたが一つ耳寄りな情報を入手しました。」

クローディアのこの言葉を聞いて伯爵は席を勧める。

お互いに椅子に腰掛けながら話を進める。

「それでどんな内容なんだい?」

「何でもストームブリンガーという字を持つ戦役大陸でも最強の一角に数えられる人物がこの中央大陸に渡ってきたというのです。」

「・・・・・・。」

この言葉に伯爵は「うん?」と眉を顰める。

「身の丈ほどの大剣を使い、諸々の武器に精通しており高位の魔法使いでもあるとか。軍の指揮もとったことがあり、斥候職としても優秀との事です。黒一色の装備を好み金髪金眼という様相らしく目立つことこの上ないそうです。」

「・・・・・・。」

伯爵の表情はドンドン固まっていく。

「クアートに入ったまでは確認が取れたのですが、その後何処に行ったのかがようとして知れないのです。人格にもよりますがこれほどの人物に来てもらえればロッツフォードも安心できるのですが・・・。」

ドンドン表情が硬く、否、引きつり始める伯爵に流石に怪訝に思いエヴァンが声をかける。

「父上? どうかされたのですか?」

「・・・その最強の一角とやらだけど・・・、いま家の領内で先生と呼ばれているよ。」



「初めまして、エヴァン=ロッツフォードといいます。ロッツフォード家の次男です。以後お見知りおきを。」

中肉中背ながらがっしりした体をしている。日々の鍛錬を欠かさなかったのだろ。

「初めまして、私はクローディア=オルガーと申します。ロッツフォードの騎士隊に所属しております。」

女性ながら背が高い。足運びや体のこなしに隙がなかったことを考えれればこちらはそれなりに腕がが立つとジークは見て取った。

この二人は自分たちがいない間にゴブリンロードによる襲撃の一件を聞かせられ相当あわをくったのだ。仕入れた情報の主が自分たちの領地にすでにいる事、その主がゴブリンロードの襲撃をほぼ一人で解決したこと、更にそれがジルベルク帝国の策動だと見抜くなど驚くべき情報の数々を聞かされたのだ。

そこで先生とまで呼ばれるようになった人物に失礼に当たらない時間を見て挨拶に来たのだ。

「俺はジーク。まぁ、気分が乗ったんで伯爵の依頼を受けさせてもらった。そんな気分しだいで依頼を受ける偏屈な奴だがこれからよろしく。」

エヴァンと握手をするジークを見てクローディアは苦笑した。

(自分のことを偏屈と言うんだから相当偏屈なのかもね)

こうしてジークはロッツフォード伯のもう一人の家族、エドワードの弟君エヴァンとクローディアという長身の美女と対面したのだった。



「何でこうなった・・・。」

最近はこれが口癖になりつつあった。

時は夕刻、本来であれば夕食までの間、希望者に賢者として講座を開いている。

こう見えてジークは賢者としても非常に博識なのだ。その講義もほとんどは魔術師のエドワードとミーナしかいない。講義には精霊魔法のことも取り扱うようにしているのでヴィッシュもその日ばかりは参加している。たまに神官のジュリシスをはじめとする少数の希望者もいるが・・・。

 とにかくそんなある日、夕刻時にも関わらずにエヴァンが「一手指南いただきたい」と言ってきたのだ。

 押し問答するのもめんどくさいため、視線で「少しだけならいいよな?」とエドワードとミーナに許可を取りさっさと片付けようとしたのだ。

だが、これが間違いだった。「もう一度」「もう一度」と何度も食い下がるのだ。

流石にエドワードが割ってはいる。

「エヴァン、いい加減にしたらどうだい? 本来であれば僕たちの講義の時間なんだよ? どうしても稽古をつけてもらいたければ明日にしてもらいなさい。」

この言葉に悔しそうにするエヴァンをみてミーナが確信を突く発言をした。

「・・・ひょっとしてヴィッシュに勝負して負けたの?」

「ヴィッシュとなんか因縁でもあるのか? それとも好敵手とか?」

「どちらかと言うと好敵手でしょうか。でも、ヴィッシュはそう思っていないみたいですけど・・・。好敵手としても男性としても。」

これを聞いてエドワードも「あぁ、そういえばそうだった」と言う顔になる。

「気になってたことがあったんだ。スィーリアとは幼馴染とか言ってたよな? それってヴィッシュだけなのか?」

「いいえ、私たち全員が幼馴染です。スィーリアも伯爵も身分の違いをあまり気にせず領民に接しますから、自然と仲良くなったんです。」

「てことは、エドワードの兄ちゃんもエヴァンの兄ちゃんも?」

「えぇ、私たちも幼馴染ですよ。」

「・・・ひょっとして、幼馴染の好きな女に叩きのめされてその悔しさのあまり少しでも稽古の時間をとろうと時間帯を気にせずに俺の所に突撃してきたのか?」

これが引き金となってエヴァンは涙声で話し始める。

「だって・・・、つい此間まではそんなに・・・そんなに差はなかったんです。でも王都に言ってる間に・・・彼女は・・・彼女は数段強くなっていて・・・ぜんせ・・・全戦全敗して・・・そしたら、ジーク殿のことを・・・ジーク殿のことを嬉しそうに話しながら・・・稽古をつけてもらってるって・・・そしたら・・・そうしたら・・・もう・・・いてもたってもいられなくなって・・・!」

これを聞いて一同は呆れた。男の嫉妬である。

ミーナが容赦なく切り捨てた。

「そんな個人の事情で周りを振り回さないでください。先生は朝は剣の稽古、日中は未開拓地の探索作業、夕方は講義と忙しいんです。」

「つい此間、似たようなことで俺を振り回した事忘れてねえか?」

「あの時はあの時、今は今です。」

この神経の図太さに感心しながら、エヴァンに助言することにした。

「どうしてこう一足飛びの強さを求めようとするのかねえ。俺に言わせりゃそんなモン本当の強さとは呼べねえよ。俺から見てお前らはただただ剣の腕だけを求めてるように見えるぜ。そうなっちまったらもうただの人斬りだ。騎士でも戦士でも剣士でもねえ。人を斬る修練でも積みたいのかお前らは。お前らにゃあ、そんな風になってもらいたくねえんだよ。一歩一歩、少しずつ強くなって貰いてぇんだよ。俺もそういう一足飛びの強さを求めたことがあったよ。そして運悪く手に入れちまった。その結果が今の俺だ。剣鬼・剣魔の類だよ。ただひたすら人を斬り、物を壊すことしか出来ない修羅になっちまった。何もかもを切り伏せるしかできないそんな存在になりてえか? 悪鬼の如く恐れられ続けることにお前ら耐えられるのか? ただひたすらに強さを求めた結果、俺はいろんなものを失ってきた。お前らは失い続ける覚悟があるのか? ねえだろ? なら、俺のように破壊や殺戮の殺人剣は求めるな。少しずつでいいから仲間と一緒に強くなっていけばいい。そんな互いを活かす剣を、活人剣を修めて欲しいんだよ。」 

そうして自分の後ろを、出入り口をみつめた。そこにはスィーリアと蒼薔薇の面々がいた。



あの後、エヴァンは朝の稽古にちゃんと参加することを約束し帰宅した。

「すまない。稽古をした後の様子が変だったから後を追ってきたんだ。」

場所を旅人の安らぎ亭の飲食店部に移した。結局この日は講義が出来なかったのだ。ヴィッシュのこの言葉にジークが言葉を返す。

「別にお前さんが悪いって訳じゃないし気にするなよ。」

首を左右に振りヴィッシュは否定する

「はしゃぎすぎていたんだ。反省するべきだよ。それにさっきのご高説は耳に痛かった。」

「私は正式には騎士隊に入ってはいないが考えさせられる話だった。」

スィーリアの言葉を受け、ヴィッシュをはじめとする蒼薔薇の面々はどこかバツが悪そうにしている。

「ある剣の流派の言葉だ。まず十年かけて自分の強さを量れるようになること。」

唐突にジークが語りははじめた。

「更に十年、つまり二十年かけて初めて相手の強さを量れるようになる。そこから更に十年、都合三十年かけて自分がどれだけ弱いのかを知らねばならないとある。

俺はこの自分の強さ、相手お強さ、自分の弱さを推し量るすべを戦役大陸で三十年もかけずに歪んだ形で身に着けちまった。そんな俺のご高説じゃあ意味は届きにくいかも知れねえけどな。それでも届いて欲しいんだよ。俺のような殺戮と破壊の殺人剣じゃなく、何かを守れる、互いを高めあう活人剣を修めてほしいって。」

こうしてこの日はここでお開きとなった。



「ここに来るのも日課になりつつあるな。」

「!! ジーク!」 

突然声をかけられスィーリアは驚いた。暗闇に染まろうとしている丘にジークとスィーリアがいた。

「気配を消して現れるな! 心臓が止まるかと思ったぞ!」

「悪い、悪い。でも癖みたいなモンなんだ。勘弁してくれ。」

むくれるスィーリアをなだめているとスィーリアがジークの側による。

「さっきの説明だがちゃんと皆に届いたと思うぞ。」

「いきなりなんだ?」

「・・・不安だったんじゃないか? 自分の言葉がきちんと届いたかどうか。」

「・・・・・・。」

「クアートからここまで来る間に戦役大陸のことを聞いた。戦役大陸にいづらくなったからと言ってたけど、さっきの話を聞いて本当は活人剣として中央大陸でやり直したかったんじゃないのか?」

「・・・・・・。」

「もしそうなら、ジークの言葉は皆に届いていると思うんだ。少なくとも私には届いたぞ。」

「・・・俺自身、何で戦役大陸を離れたのかが良く分かねえんだ。居続けることも出来たはずなのに、俺は今ここに居る。なぜ中央大陸に渡ってきたのかだってよく分かってねえんだ。今、何をすべきか。これから何をすべきか。俺は何一つまだ決めちゃいねえんだ。こんなんだから師匠の言いつけすら守れちゃいねえんだ。」

「師匠の言いつけ?」

「あぁ、本当に強くなりたくば敵を作るな。そう言われた。」

「・・・・・・。」

そうしてスィーリアをまっすぐ見つめる。

「だけど、今分かったよ。いや、違うな。教えてもらったんだ、スィーリアに。ここからもう一度やり直すんだ。活人剣として。」

ドンドンスィーリアの顔が赤くなる。

「ありがとう、スィーリア。」

とびっきりの笑顔に数瞬魅入った後、直視できなくなり顔を背けるスィーリアであった。

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