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難民の処遇

拙作をお読みいただきありがとうございます。

腰痛が我慢できなくて本日整形外科に行ってきました。

注射されたら痛みが嘘のようになくなりました。

ジーク達一行は妖魔の襲撃を何度か受けながら何とかグレステレンに到着した。

タイガ達難民を守るために決死隊に死者が何名か出ていた。

自分達を守るために目の前で人が死ぬという経験をしたためかグレステレンまでの道中は大人しいものだった。



執務室は静まり返っていた。

五十人ぐらいなら受け入れる事は出来る。

問題は意思疎通が出来ない事だ。

現状、ジークしか言葉が分かる者がいない。

エルミナが重い口を開く。

「ジークには彼らに言葉を教えてもらいましょう・・・。」

忸怩たる思いだろう。

南部復興計画の中核となる人物がこんな事で抜けるのだから・・・。



「お前らにこちらの言葉を教える事になった。」

タイガ達、難民扱いを受けている異世界の住人達には不安の色しかない。

覚えれるのだろうか?

もし、覚えきれなければ?

そんな不安がありありと浮かんでいる。

そんな中、ある一人の男子が手を挙げて発言を求めて来た。

「? 何だ?」

「スキルとかレベルとかそういったのってあるんですか?」

あっけらかんと放つこの言葉にジークの頭の痛みが増す。

(この期に及んでまだ現実と空想をごっちゃにしてやがる! こいつらを庇って死んでいった兵達が浮かばれねぇ!)

殴り殺したくなる衝動を何とかこらえてジークは叩き付ける様に答える。

「それってお前らの世界で言うところのゲームってやつの事を言ってるなら諦めろ! この世界は現実だ! いくら魔法が存在する摩訶不思議な世界だからって技を身に付けたけりゃ訓練あるのみだ! 魔法も然り! 誰かに師事して教えを乞い修業して手にするしかねぇんだよ!」

「! え? あ、はい・・・。」

自分の何がジークを怒らせたか分からない男子はその気迫に呑まれて尻込む。

そんなジークにまたタイガが噛み付く。

「そういう言い方は無いでしょう! 僕らはまだこの世界の事が・・・。」

無駄に正義感を振りかざすタイガがジークの逆鱗に触れる。

「そのお前らを庇って何人の兵が死んだと思ってる!」

殺意、怒気、死んでいった兵への悔恨、ありとあらゆる感情を込めたジークの叫びは流石にタイガを黙らせた。

「あれだけお前らの同郷の奴らが死んだって言ってるのにここが架空の世界と勘違いしてるようだから目を覚まさせてやったんだ! お前らを庇って死んでいった兵がいるって忘れているようだから思い出させてやったんだ! 何なら頬を一発引っ叩いて痛みがあるって事を教えてやろうか! そうすればそんな舐めた口は二度と聞けなくなるか! いい加減ここがお前らのいた世界と同じ現実だと分かれよ!」

何名がすすり泣き始めた・・・。



(つぐみ・・・。貴女はなぜそんな冷めた目でみんなを見てるの? 私達はそんなになるまで貴女の心を壊してしまっていたの?)

女子を取りまとめている剣崎麗はゾッとする思いがした。

剣崎麗は勘違いをしている。

相原つぐみは壊れているのではない。

この世界で生きていく覚悟を決めたのだ。

冷めた目で皆を見ているのは未だに覚悟が出来ていない事を見下しているのだ。



この日から早速授業が始まった。

生きるためにまずは読み書き、会話を覚えてもらわねばならない。

剣術や体術など護身の為に体を鍛えると疲れて授業に身が入らなくなることを恐れての処置でもある。

だが、何日かするとふざけたことを言い出す輩が現れた。

「俺、魔法覚えたいいんだけど?」

「俺は剣術!」

この様な事を言う連中にはジークは厳しく接した。

「そんなに言葉を覚えたくねぇなら外へ出てけ。授業の邪魔だ。」

こう言って問答無用で摘み出す。

その日は絶対に授業を受けさせない。

「真剣に覚えたい奴らだけ残れ。」

この一言を述べてまるで無人の教室で教鞭を振るう様に淡々と説明する。

一歩外に出れば言葉が通じない異世界。

金も無い。

衣食住すら施しで何とかなっている。

その後彼らがどれほど泣いて謝ってもジークは絶対許さなかった。

「バカやる時間があるなら一つでも単語を覚えろ。」

彼が覚えるべきことはまだまだあるからだ。



「魔法かなんかで簡単に言葉を覚える事が出来ないんですか?」

休憩時間にそんな事を言う生徒が現れた。

(なんとか楽しようとしてやがるな・・・。)

その性根を見抜いたジークは正直に教えてやる事にした。

「通訳の額冠って言う魔法の道具ならある。」

生徒の目が色めく。

口々に「そんな便利な物があるなら使えばいいじゃん!」などと非難が上がる。

性根が見えたので矯正にかかる。

「俺が持ってる訳ねぇだろ。仮に持っていたとしても一個や二個で何になる? それに何よりそんな高価な物おいそれと簡単に人に貸与なんかできるか。何よりこいつは通訳をするだけで会話が出来たり言語が理解できたりするわけじゃねぇ。」

「どれぐらい高価なんですか?」

「お前ら全員が一年普通に暮らせるだけの金になる。」

「それでも何とか手に入れる事は出来ませんか?」

「そんな金があったら南部の復興に充ててる。それより、そんな事が考えられるって事は余裕が出来てきた証拠だな。・・・教える量を増やす。」

凄みが効いたジークの宣言に生徒一同震えあがった。



厳しく教えているせいか当然ついて来れない者が出始める。

友達に教えて貰ったりと何とか授業に食らいついていく。

そんな中で相原つぐみだけはジークに直接指導を願い出ていた。

その為に会話から読み書きまで他の者より頭一つ抜き出ている。

皆はこの事を知っている。

ただ、誰も聞けない。

散々嘘吐き呼ばわりして虐めていたからだ。

この日もつぐみはジークの個人授業を受けていた。

これは悪い噂となる。



皆が揃っている教室で個人授業を受けに行こうとする相原つぐみを姉のひばりが呼び止める。

「つぐみ。ジークさんとの個人授業を控えなさい。」

つぐみはそれを見下す様にして鼻を鳴らし拒絶の意思表示をする。

「つぐみ! 貴女今皆から何て呼ばれてるか知ってるの!?」

「ビッチでしょ。」

何の事は無いと言わんばかりの態度である。

この態度に剣崎麗も注意する。

「そういう態度は感心しないな。」

睨むような視線をつぐみは年上の幼馴染に突き刺す。

「肉体関係を結ぶことで特別扱いを受けるようなそんな事してないわ。」

「世間体と言う物があるのよ!」

「何よ。ひばり姉さんはまた私が嘘をついてるって言うんだ?」

「! ち、違う!」

「違わないでしょ? 私の事そこの生徒会長様と一緒になって嘘吐き呼ばわりする事で不満とかを私にぶつける様に仕向けるつもりでしょ?」

「つぐみ! 私達はそんな事考えてない!」

「なら、何で信用しないのよ。ビッチじゃないって。」

「・・・・・・。」

「知ってる? そうゆうのって下種の勘繰りって言うのよ。」

「つぐみ・・・。」

「私はこの世界で真剣に生きていく覚悟を決めただけ。現実も見れないで未だ帰れるなんて夢想してる貴女達に時間を割かれたくないの。もうイイ?」

「つぐみ・・・。」

「つぐみ、君は帰る事を諦めたんだな・・・。」

「生きる覚悟すら決めることが出来ない生徒会長様に言われたくないわ。」

「つぐみ! レイ姉に向かってなんて口きくの!」

「邪魔だ!!」

相原つぐみの怒声が教室に響き今度こそ誰も止める事が出来なかった。



(どんなことを教えてるの?)

相原つぐみの姉、ひばりと幼馴染の剣崎麗は気になりジークの所に来ていた。

相原つぐみは当然不機嫌である。

「何しに来たのよ?」

「私達も一緒なら噂を払拭することが出来ると思ってな。」

「流石お偉い生徒会長様。余計なお世話よ!」

「つぐみ・・・。」

「話の流れから授業を受けるのはこの三人で良いのか?」

このジークの発言につぐみは顔色を変える。

「違う! この二人はこの世界で生きていく覚悟すら決めていない人達よ! こんなのと一緒にされたくない!」

「・・・という事だが?」

つぐみの後ろに控えているひばりと麗は大人しく見学を申し出た。

「まぁ、見学だけならいいか・・・。」

そう言ってジークはつぐみの指を咥える。

この行動に見学を申し出た二人が驚いた。

「何をしてるのよ!」

姉ひばりの大声につぐみは顔をしかめてジークはジロリと睨む。

「発音時の舌の形を覚えさせてるんだが?」

「え?」

「つぐみ、そろそろこちらの言葉で自己紹介ぐらいできるか?」

「はい!」

「やってみろ・・・。」

『私の名は相原つぐみです。この世界とは異なる世界から来ました。今はグレステレンでお兄ちゃんのお世話になってますが頑張っていっぱい言葉を覚えていつか必ずお役に立ちたいです!』

『だいぶ滑らかに話せるようになったな。』

『先生が優秀だからです!』

『つぐみのやる気が本物だからだよ。』

そうしてジークは優しくつぐみの頭を撫でる。

このやり取りをひばりと麗は呆気にとられて見ていた。



難民として扱われる彼らが言葉を完全に覚えるのはまだまだ先の話である。

そしてこのグレステレンにはジルベルク帝国の手の者が迫ろうとしていた。

誤字脱字がありましたら教えてください。

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