表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/86

再会

腰のヘルニアが痛くてたまりません・・・。

ジーク達が異邦人の探索を開始してから三日が過ぎた。

発見される亡骸は日増しに増える。

ただ、この日は女性の生存者が一人見つかった。

ただし心が壊れた状態で・・・。



「彼女に何があったんですか!」

あまりの異常さにタイガがジークに詰め寄った。

(またこいつかよ・・・!)

内心を隠すことなく顔に嫌悪の表情をジークは浮かべる。

だが、今回は無視するわけにもいかない・・・。

「姉さん! 私よ! 京子だよ! ここならもう大丈夫だから! 落ち着いて!」

「イヤ! イヤ! イヤァァァァァ!!!!」

「誰か! この子だけを別な天幕へ連れていけ!」

このジークの指示の元、兵達が狂乱状態に陥っている新たに発見された女性を連れて行く。

これにタイガが噛み付く。

「彼女に何をしたんですか!」

「俺らがしたわけじゃねえよ! 彼女はこの世界の残酷さの洗礼を受けちまったんだよ! ・・・この世界の魔物、豚人間<オーク>に凌辱されたんだよ・・・。」

「!? 何で、何で助けてくれないんですか!」

「この間、俺の睡眠時間削って説明しただろうが! この地域は老竜の破壊活動で致命的な損害を被ったって! 探索に動員できる兵の数は限られてくる! そうなると助けれる人数にも限りが出て来る! 此処にいる百名ですら決死隊なんだよ! お前らの世界で言うボランティア団体なんて存在しないんだよ!」

「でも!」

「・・・こっちも必死で探索してるんだよ・・・。」

「なら、俺たちも手伝います!」

「二次遭難って言葉知ってるか? 有難迷惑だ!」

ジークとタイガのいつものやり取りに再出発の準備が出来たと兵士が報告しにくる。

「俺らはまた探索に行く。いいか! 大人しくしてろよ!」



「ジーク様、正直これ以上は・・・。」

「分かってる! これ以上の生存は見込めねぇ! それでもいるかもしれねぇんだ! 生き残りが!」

現にこの日の探索ではすでに五人の異邦人の死を確認している。

ジーク達の探索は生存者の確保から亡骸の回収に移ろうとしていた。



(前に何かいる?)

敏感に気配を察したジークはすぐに行動に移す。

「お前ら後から付いて来い!」

矢が放たれるが如く飛び出した。



一人の少女が尻もちをついている。

綺麗な黒髪を腰まで伸ばしている。顔立ちも非常に整った少女だ。

だが、その顔も今は恐怖に歪んでいる。

目の前に食人鬼<オーガ>が迫っていたからだ。

必死に逃げ回ったのだろう。

手足に擦過傷が幾つもできてる。

そしてとうとう体力の限界が来て倒れた。

ジークは走りこんで来た勢いを殺すことなく駆ける。

すれ違いざまに背負っている大剣を一閃。

食人鬼<オーガ>の首が宙を舞う。



「大丈夫か!?」

声をかけた少女のお尻のあたりが湿っている。

恐怖のあまり失禁したのだろう。

少女に手を貸し立たせる。

安くはないマントを身に纏わせて失禁したことを隠す配慮をする。

数少ない生存者をジークはまた一人確保することが出来た。



助けた少女の歯がカチカチ鳴っている。

相当な恐怖を味わったのだろう。

(無理もねぇか・・・。)

だがその視線がジークを捉えると目を見開く。

「俺の名はジーク。言葉は分かるな?」

だが少女の目は驚愕に見開かれたままジークを見つめる。

そして口から言葉がこぼれる。

「・・・お兄ちゃん・・・?」



「・・・俺には妹は居ねぇ。」

だが、声と言い方に引っ掛かりを覚える。

(どこかで会った?)

記憶を掘り起こそうとしたときジークの後を追って兵たちが合流してきた。

肩で息をしている。

「ジーク様! 御身の立場をお考えください! 本来ならこんな場所で探索なんぞする立場ではないのですよ!」

「でも俺がいないと今回の探索はにっちもさっちもいかなかっただろうが。」

「それはそうですけど・・・。」

「とにかく生存者をまた一人見つけた。連れて帰るぞ。」

危険と隣り合わせの未開拓地をジーク達は帰路に着いた。



「探索を打ち切るってどういうことですか!?」

案の定タイガがジークに噛み付いた。

南部未開拓地で異邦人の探索を開始してから半月が過ぎようとしてる。

何かが殺された後はいくつも見つかるがとうとう亡骸が発見できなくなったのだ。

恐らく身に付けていたと思われる物が探索中に発見されたがほとんどがぼろぼろになった衣服の布ッ端だった。

身元の特定になるようなものは見つからない。

これらの事を説明してもタイガは納得せずに言い募る。

「他にも生きてる人がいるかもしれないんです! 探索を続けてください!」

「これ以上の探索で生存者の発見は見込めない。これまでの探索で五十人近い生存者を保護できた。だがその三倍以上の亡骸を確認した。殺害されたと思われる現場の数まで入れるとさらにその十倍。何よりこれ以上ここに留まれない理由が出来た。」

「何ですか!」

「兵糧、食い物が限界だ・・・。」

「・・・・・・。」

「以前説明した通りここから一番近いグレステレンは老竜の襲撃で国の体裁すら整えられないほど衰退している。その隣の妖精族領も同じだ。補給が効かないんだよ。俺の侯爵と言う立場が効くのは禄を食むスイストリア王国だけだ。そのスイストリアはこことは正反対の北に位置する。ここまで補給させるなんて出来やしない。近隣国のアーメリアス王国からやっと届いてる状況なんだ。補給もねぇ状態でこの大所帯を賄う事は物理的に無理だ。一旦グレステレンまで引き上げる。」

「そんな・・・。生きてるかもしれない人達がいるかもしれないんですよ!?」

「じゃあ、俺にどうしろっというんだ! せっかく生き残れたのに今度は飢えを味わいたいのか! 必死になってお前らの救出に奔走した兵たちに飢餓と言う無体を強いるのか! もうちょっと考えろ!」

「・・・・・・。」

「悔しいのは分かる。哀しいのも分かる。だが、これは決定事項だ! これ以上この危険な未開拓地域に非戦闘員を何人も抱えて留まれない! 補給も援軍も来ない以上撤退する! 分かってくれ・・・。」



一方その頃ある天幕。

女子の一団が一人の少女を前にして対話しようとしていた。

その中の一人が前に出てきていた。

瓜二つの顔立ちがそこにあった。

「・・・つぐみ。昔の事を聞きたいんだけど?」

「どういう風の吹き回しよ! 嘘吐きの私の声なんか聞きたくないんでしょ! だから学校でも家でも私の事徹底的に無視していたじゃない! それを見て周りが私を虐めても何も言わなかったのは何処の誰よ! なのに自分がいざ超常現象に巻き込まれて私の話を信じたくなったなんて都合が良すぎるわよ!」

「・・・後でどんな贖罪でもする。お願い。ユウ兄の事を、子供の時に起こった事を詳しく教えて?」

「忘れたわよ! ひばり姉さん達に散々罵られて!」

「つぐみ・・・。」

「十年以上も嘘吐き呼ばわりしてきてよくも簡単に掌返してそんな台詞言えるわね! 父さんも、母さんも、姉さんも、兄さんも、誰一人私のいう事信じてくれなかったじゃない!」

「お願い、私だけならどんな罰でも受けるから。みんなにユウ兄が行方不明になった時の経緯を話して聞かせてほしいの。」

「忘れたわよ! 仮に覚えていたって話してなんかやるもんですか!」

「つぐみ!」

「皆苦しめばいいのよ!」

「・・・つぐみ。」

姉妹の言い争いを制するように別な女性が前に出る。

「つぐみもひばりもそこまでにするんだ・・・。」

「お偉い生徒会長様が何の用よ!」

「! つぐみ! いい加減にしなさい! 私だけならともかくレイ姉に向かって!」

「いいんだ。ひばり・・・。」

このやり取りもつぐみと呼ばれた少女は親の仇を見る様に睨み据えていた。

その視線を真っ直ぐ受けて生徒会長と呼ばれた女性、剣崎麗が前にさらに進み出る。

「幼馴染の一人として何もしてやれなかった、しなかった私もつぐみから見れば怨嗟の対象だ。謝罪してもしきれない。だが、今は・・・。」

つぐみと呼ばれた少女は背を向けて天幕の端に行き毛布を被る。

「あんたたちなんか大っ嫌い! 話す事なんか無いわよ!」

「つぐみ・・・。」

天幕は気まずい雰囲気に包まれた・・・。



「昨日の晩、女子の天幕でなんか言い争いになったそうだが何があったんだ。」

兵達に出立の準備を任せてジークは異邦人の女子を集めて審問会を開いていた。

ジルベルクに帰るには相当数の日にちがかかる。

その間にまた騒ぎが起こされては堪らんと判断して聞き取りをする事にしたのだ。

「私から説明します。」

年長らしき女子が前に進み出て来る。

「私の名はケンザキレイと言います。」

「けんざき?」

ジークの眉根に皺が寄る。

「はい。簡単にレイとお呼びください。昨夜の騒ぎは一言で言えば姉妹喧嘩です。」

「・・・この状況で姉妹喧嘩かよ・・・。」

「仰ることは尤もですが実はその姉妹の片方がちょっと過去に特殊な経験をしているのです。」

「・・・・・・。」

ジークは沈黙する事で先を促す。

「双子の姉妹、アイハラヒバリとアイハラツグミと言うのですが、私を含めて幼馴染の少年がいたのです。その少年は小さい頃に行方不明になりました。」

「!!」

ジークの顔色が変わる。

頭の中にある言葉が浮かぶ。

(・・・お兄ちゃん・・・?)

ジークの変化が分からないレイは話を続ける。

「その幼馴染の少年がツグミの目の前で光ったかと思うと消えたそうなんです。その時の状況を詳しく聞けば今回の一件、そして帰還の方法も分かるのではないかと思って詳しい話を聞こうとしたのですが・・・。」

「・・・お前らの世界じゃそんな事が起これば超常現象として話題になるか狂人として扱われるかされたんじゃねぇか?」

「・・・その両方です。ツグミは狂人として扱われました。しかも行方不明になったのがスメラギザイバツのオンゾウシという事で世間からも家族からも散々にバッシングの嵐を受けました。その為狼少女なんてあだ名がつき嘘吐きの代名詞のように十年以上扱われてきました。彼女は心を閉ざしました・・・。」

「・・・そこまで説明されればその後は予想できる。今まで散々酷い仕打ちしてきたのに言ってたことが本当だと分かっていざ詳しい話聞こうとして拒絶されたんだろ?」

「・・・はい。」

ジークは女子の一団から距離を取っている一人の少女を見る。

恐らくこの少女がアイハラツグミだ。

否、相原つぐみに間違いない。

此方を、ジークをジッと見ている。

ジークは重い溜息をつく。

答えを述べるために。

「折角希望を見出したところ悪いが、お前らが元の世界に帰る事は出来ない。」

「・・・研究すれば可能性が出て来るのでは?」

「レイ、この世界には今までも何人もの異邦人が訪れている。」

「・・・・・・。」

「中には物理学者や数学者とかもいた。そういった何人もの学者の協力の元で世界最高峰の知能を持つ金色の民と言う十賢者が長年に渡り研究した。これが今から五百年以上も前の事だ。」

「五百・・・!?」

「天を支配し、大地を支配し、海を支配した。世界の理を支配した十賢者でも元の世界に送り返す事が出来なかったんだ。」

「では、他の人達は・・・?」

「必死にこちらの世界の言葉を覚え風習を知り、この世界で人生を終える。」

「そんな・・・。」

「残酷な事を言うようだがこの世界に頑張って馴染め・・・。」

そう言ってジークは席を立つ。

その後を相原つぐみがついて来ていた。



「そろそろ出てこい。」

ジークがそう声をかけると物陰から相原つぐみが顔を覗かせる。

「何か言いたいことがあるんだろ・・・。」

「・・・・・・。」

何も言わない相原つぐみが何か言葉を発するのをジークは待つ。

言いたいことが喉元まで出かかっているのだろう。

口を開けたり閉じたりしている。

だからジークの方から声をかけた。

「綺麗になったな。」

「!! やっぱりお兄ちゃんなんだね! 優人お兄ちゃんなんだね!」

「こんな最悪な状況下で俺に会うとは・・・。運がいいのか悪いのか・・・。」


誤字脱字がありましたらご報告お願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ