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異邦人

流星雨が確認された翌日、夜が明けきらないうちにジークは調査の為の決死隊百名を連れて南部未開拓地へ出陣した。

最初はジーク一人で赴くことにしていたのだが立場がそれを許さなかった。

今、南部未開拓地に隣接する旧グレステレンと妖精族領の存亡はジークの双肩にかかってると言っても過言ではない。

ジークと言う存在はなんとしてでも失う訳にはいかなった。

その為、いざとなれば身を盾にする覚悟を決めた者達を決死隊として招集したのだ。

ジークを先頭に決死隊は流星雨が幾つも落ちた南部未開拓地にこうして向かったのである。



(まさか、またここに来るとはな・・・。)

ジーク一行は老竜の狩り場となっていた大平原に来ている。

此処を基地として探索する事にしているのだ。

(さぁて、鬼が出るか蛇が出るか・・・。)

不本意ながらも南部未開拓地に探索の手を入れる事になった。



「いいか! 必ず三人一組で行動しろ! 絶対単独行動はとるな! ただでさえ危険な未開拓地なんだ! そこに悪魔か魔神がいるかもしれない! 危険の度合いは戦争より上だ! だが、俺がいる! 悪魔でも魔神でも俺が切り伏せる! とにかく周囲への警戒を怠るな!」

ジークの宣言の元、探索隊は未開拓地に侵入した。



(穏やか過ぎる・・・。)

鳥や虫の鳴き声が普通に聞こえる。

悪魔や魔神が現れると感じる瘴気の類は感じられない。

ジークは心の中にある意味で致命的な敵を想定した。

(今の状況で「難民」なんざ現れたら南部は本当にパンクする!)

ジークの言う「難民」はすぐに見つかった・・・。

「ペンドラゴン卿! 斥候の者からの報告です! 前方にどこかに所属していると思われる一軍を発見しました!」



現場は混乱していた。

斥候の者達が危険はないと判断して呼び止めた所言葉が通じないのだ。

皆着ている物も大きさは違えど型は同じものだ。

この様に制服を着るのは軍関係者ぐらいなものだ。

だが、様式が見た事が無い。

少なくともここ、シーディッシュ中央大陸では見かけない物だった。

「ペンドラゴン卿なら何か知ってるかもしれん! 急いでお連れしろ!」

見た事のない服をまとっている者達に槍を突きつけながら兵たちは各々の仕事に取り係る。



(言葉が通じない人型ってだけで決定だ! 今回の流星雨は異世界の住人がこっちの世界に渡って来たんだ! どうしてこう悪い事が重なる! 今の南部に難民を受け入れる余裕なんざねぇってのに! 先祖の供養が足りねぇからか!)

心の中で散々罵りの声を上げながら、ジークは異世界の住人と面会した。



「Can You Speak English?」

異世界の住人を見てジークは頭を抱えたくなった。

(こいつら間違いねぇ・・・。日本人だ・・・。)

戦役大陸では非常に嫌悪されている有名な存在である。

彼らは時に有効な知識をこの世界にもたらしたが、同時に害悪をももたらした。

特に目の前にいる十代と思しき連中は特にその害悪をもたらす。

「普通に日本語を言え。俺がとりあえず通訳する。」



「意志相通できる人がいて助かりました! 俺、アマノガワタイガって言います! タイガって呼んでください!」

如何にも正義感が強そうな少年が挨拶をして来る。

(左様で・・・。)

ジークはこの手合いが大っ嫌いだった。

いつも混乱を引き起こすのはこういった正義感の塊のような奴だからだ。

心の中で舌を出しながらジークも挨拶をする。

「ジークだ。」

だからただ、この一言である。

ジークはこの「男子生徒」を無視して周りを見る。

周囲には一喜一憂する馬鹿どもが居た。

「ないせいチートキタコレ!」とか「テンプレですね! 分かります!」など騒いでいる。

一方で重く沈んでいる者達もいる。

さめざめと泣くもの、現状に理解できずに呆然とする者、様々である。

(こいつら皆殺しにして無かったことにすれば楽になるかな?)

ジークの選択肢の中に見なかったことにして皆殺しにすると言う項目が出来た。



見つけた十余人を基地に連れ帰る。

タイガとかいう男子に途中声をかけられたがジークは無視をした。

たが、「休憩しないといけない!」「女の子達がいるんだ! 歩くペースをおとせ!」など、しつこいためにジークは立ち止まり説明する事にした。

かなり怒気を込めて。

「いいか? クソガキ? お前らみたいに平和ボケした日本人には想像がつかないほどここ南部未開拓地は危険なんだよ! とりあえず奇襲が効かない見通しのいい場所に早く行かないとお前らの想像を超える化け物に襲われるんだよ! 急がなきゃいけないんだよ! 分かれよ! それ位!」

この苛立ちが頂点に達しているジークの神経を更に逆撫でする者がいた。

ある男子だ。

「ふふーん! いいのかな? そんな態度を取って? 僕たちの持つ凄い知識でこの世界に改革をもたらす事も出来るんだぞ? もっと丁寧な対応を心掛けたまえ!」

当然このセリフをジークは斬り捨てる。

「テメェは考えもせずに喋くるのを止めろ! 何で俺がお前らの言葉を知ってると思ってるんだ! テメェらが初めてじゃねぇからだよ! 何人この世界に来たと思ってるんだ! テメェの頭の中にあるのは農業に関する事か? それとも拳銃に関する事か? 別の何かか? 農業に関する事なら当然テメェは農地や作物に詳しいんだろうな! 冷害をどうすれば防げるか教えてくれよ! 拳銃に関する事ならテメェは銃加工技師<ガンスミス>なんだろうな! どうなんだ! 答えろ!」

「・・・・・・・・・。」

黙り込む男子を無視してジークは異邦人全員に釘を刺す。

「俺らはお前らを見殺しにしても文句は言われねぇ立場にいる。お前らを助けたのは人道的な配慮からだ。五つ六つのガキじゃあねぇんだ! いい年こいて、あれも嫌だ、これも嫌だ、そんな事を言うなら自分一人で何とかしろ! 俺らの手をこれ以上煩わせるな!」

この後口を開くものは誰も居なかった。



「ペンドラゴン卿、彼らをどうします?」

「とりあえずどっかの天幕に全員ぶち込んでおけ! そして四方八方から見張りを立てとけ! 戦役大陸で大混乱が引き起こされた事があった! その中心に居たのがあいつら「学生」と呼ばれる存在だ! くだらねぇガラクタの為に四つの国が戦争した事もあったんだぞ!」

「くだらないガラクタですか?」

「応とも! その為に何人死んでいったことか! 他にも色々やらかした! 辞書一冊が出来る位馬鹿な事をしでかしたんだよ! 特に農地に関する事は致命的だった! 何がノーフォーク農法だ! 気候や土地の状況を確認してからやれってんだ! 試験的にやるならいいさ! その後大々的にやればいい! それなのに耳触りのいい言葉ばかり並べるから言われた方も乗り気になる! 何が農業に革命をもたらすだ! 結果どうなったと思う? 大失敗さ! 原因は自分たちの世界とこっちの世界の植物の違いに気が付かばかった事だ! 奴らの世界で言うところのクローバーとこっちの世界のクローバーはまるっきり別な品種だと分かったんだ! 気が付いた時には手遅れになっていた! 大量の餓死者が出る大惨事を招いたんだ!」

「・・・・・・。」

「奴らがどうなろうが構わん! だが奴らの知識で巻き込まれて犠牲が出るのはまっぴら御免だ! 逃亡者が出ない様にしっかり見張っておけ!」

「了解しました!」



天幕に十把一絡げに入れられたタイガ達は戸惑っていた。

「男子と女子・・・、一緒なの?」

「幾らなんでもその可能性は無い。」

「でも、あのジークとか言う人、本気みたいだぜ? ここまでに来る際に聞いたろ? 俺らが初めてじゃないって。その証拠に日本語話してたじゃねぇか・・・。」

「だからと言って男女は分けるべきだ! 俺が話をつけて来る!」

そう言って天幕を出ようとすると見張りの兵に止められる。

言葉が通じないせいかどんどん言い合いが激しくなる。

兵が槍を構えたことでタイガは天幕の中に戻る事にした。

だが、諦めきれないタイガは何度も外に出ようとして兵と度々衝突しとうとう大騒ぎとなった。



「このクソ忙しいのにお前らは大人しくするって事ができねぇのか!! 今、お前らのお仲間が周囲に居ねぇか総動員で探して回ってるんだ! お前ら以上に辛い立場にいる連中を助けなくちゃあいけねぇんだ! 雨風を凌げるだけでもありがたいとは思えねぇのかよ! いいか! 今は非常事態なんだよ! いい加減分かれよ! ここで言い争う時間すら惜しいんだよ!」

「それは分かります! だけど・・・!」

「分かっちゃいねぇよ! だからこんな騒ぎを起こしてるんだろが!」

タイガと言い争うジークの傍に三人一組の兵がやって来た。

ジークと何事かを二言三言話した後去っていく。

ジークの顔は痛恨事に歪んでいた。

「何か、あったんですか?」

気になったタイガが声をかける。

「・・・五人死骸で見つかった。ほとんどが食い殺されて現状を留めていなかったそうだ・・・。」

この言葉に学生たちに動揺が走る。

自分たちの友達がいるかもしれない。

そう思うと落ち着けない。

「・・・誰か分かりますか?」

「お前ら学生は生徒手帳とか持って歩かなきゃいけねぇのに誰も持ってなかった! 何処の誰かなんてわかりゃしねぇ! それでもケイタイデンワってのを持ってた。身元の確認の役には立つだろう・・・。」

「!! 見せてください!」

「それ所じゃねぇって言ってるだろうが! 今は一人でも多くのお前ら異邦人を探し出して保護したいんだよ! いい加減分かれよ!」

「あの・・・。」

「なんだ!」

声を上げた女性にジークは睨みを効かせる。

これ以上引っ掻き回されたくない為だ。

「!! い、いえ、その・・・。」

それでも何か言い募ろうとする女性に敬意を表して威圧だけは解除する。

自分にかかるプレッシャーがなくなった事でその女性は意見を述べる。

「私達で出来る事をしたいのですが・・・。」

「無い。」

ジークはバッサリと斬り捨てる。

「そ、そんな事ありません! さっき言ってた携帯電話の取り扱いなら私達の方が得意です! 是非身元確認のお手伝いをさせてください!」

「分かっていねぇようだなお嬢さん? その為にあんた等の警護にさらに人を割けって言うのか? これ以上人手を割けれるかぁ! いいか! お前らにとってここは摩訶不思議な世界かもしれねぇがこの世界でもお前らの世界同様死んだ人間は生き返らないんだよ! ただでさえここは中央大陸の南部未開拓地って言う危険地帯なんだよ! 警護の人数なんかいくらいても足りねぇんだよ! 今ここを魔物に襲撃されたらお前らと言うお荷物を守るために何人の兵が死ぬと思ってるんだ!」

「・・・・・・。」

天幕内は静まり返る。

(ガキ相手に大人げなかったか・・・。)

反省したジークは大きく深呼吸して気持ちを切り替える。

「お前らは事情が分かってねぇから当然の事として自分たちの世界の常識をぶつけて来るが、こっちにはこっちの常識がある。この世界がどれだけ危険か教えてやりてぇがさっきも言ったように人手がとにかく足りねぇんだよ。そんな中これ以上騒ぎは起こさないでくれ。人の命を優先しないといけないんだ・・・。そんな状況下に置かれてるんだよ・・・。分かってくれよ。頼むから・・・。」



夜の帳がおり始める。

こうして探索一日目は終了した。



死亡が確認された異邦人は八名。

まだまだ増える事になる事になるだろう。


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