流星
拙作を読んでいただきありがとうございます。
「エルミナ代表、この資料を確認しておいてくれ。」
ジーク、元グレステレンの家臣、妖精族領から来た人材、エルミナ、これらの面子で今後の南部復興の計画とそれに基づく資料を作成してた。
最低でも十年はかかる。長期的な計画を練らねばならない。
ジルベルク帝国は独自の考えがあるらしく復興は自分たちの国力で賄うと言って来た。
(腐っても鯛ってか。これだけの事が起こったのに独力で解決しようって言うんだから大したものだ・・・。)
若干呆れながらも負担が減った事をジークは内心喜んでいた。
老竜の侵略であらゆる分野に損害を受けた中央大陸南部、旧グレステレン国内と妖精族領をジークは定期的に巡回している。
何せ南部未開拓地に隣接しているのだ。
住人達に日増しに不安が募る。
その不安を払拭する為に邪神討伐や竜殺しの威光で安心を植え付けようというのだ。
勿論、治安維持の為に兵の配置もしている。
だがそれも焼け石に水だろう。
南部未開拓地の妖魔が活性化しはじめたからだ。
報告によれば多くの頭を持つ蛇<ヒュドラ>の存在が確認されている。
(どうしてこうも悪い事が重なる!)
ジークは平静を装いながら内心で盛大に罵りの声を上げていた。
それでも討伐せねば住民に不安が広がる。
旧グレステレンの兵を伴ない討伐に向かった。
(ちっともはかどらねぇ・・・。)
ジークは頭を抱えたくなった。
一つの書類をかたずけると三つの案件が登って来る。
エルミナにも疲労の色が濃く見える。
復興に携わる事になった家臣一同も同様だ。
「お茶にしよう・・・。」
効率を上げるためには休憩も必要だ。
ジークのこの言葉に一同にどこかホッとしている。
「ペンドラゴン卿は大丈夫ですか?」
「何が?」
「・・・何かが・・・。」
エルミナの質問の内容が要領を得ない。
(俺ってそんなにやつれてるか?)
鏡を見たくなった。
とりあえず最近の自分の行動を再確認する。
旧グレステレン国内と妖精族領の視察。
多くの頭を持つ蛇<ヒュドラ>退治。
連日深夜まで行う会議。
復興に関する資料作成。
スイストリアへの報告。
・・・あまり休んでいない。
(それを言ったらみんな同じだろ・・・。)
エルミナの目の下には薄らと隈が出来ている。
恐らく自分も似たようなものだろう。
ひょっとするとより悪いかもしれない。
誰も一言も発しない。ただ、皆お茶を飲む。
なんとなく気まずい中でスイストリアから使者が来た。
スイストリアの近況報告書を携えた元高級娼婦ヴァイオレットである。
「帰った時でもいいだろうに・・・。」
報告を持ってきてくれたヴァイオレットの行為に苦笑交じりに応じる。
きっとあまり帰ってこれない自分の身を案じて様子を見に来たんだろう。
近況報告はその言い訳だ。
ジークの今の姿を見てヴァイオレットは眉間に皺をよせている。
「・・・キッチリ休暇を取ったのはいつ?」
「・・・覚えてねぇ・・・。」
このジークの返答を聞いてヴァイオレットはジークの手を取り執務室から連れ出そうとする。
「半日借りるわよ。」
有無を言わさぬ強引さでジークを部屋へと連れ出した。
まだ、日は高い。
ベットには何も纏っていないヴァイオレットが肩で息をしながらジークの体にしなだれかかっている。
呼吸が整うとヴァイオレットは身を起こし自らの膝にジークの頭をのせて昼寝をさせる事にする。
ヴァイオレットは何も言わない。
ただ、ジークの心を癒すにはどうしたらいいかを一生懸命考えて実行に移している。
その心意気が嬉しいジークもなすがままにヴァイオレットに従う。
少し休み過ぎたかもしれない。
十分昼寝をしたおかげか頭もスッキリしている。
そんなジークの頭や頬をヴァイオレットは優しくなでる。
「顔色、だいぶ良くなったわ。さっき見たとき死ぬんじゃないかと思うぐらい悪かったもの・・・。」
「ホント良い女だよ、お前は・・・。」
キチンと休日を設けて交代で休みを取る。
当たり前の事だが実行していなかった。
それだけ仕事が山積みなのだ。
それでも半日休暇を取って心身ともにリフレッシュしたジークが強行採決した。
倒れられた方が迷惑。
この言葉に誰も何も言えなくなる。
実際に体が悲鳴を上げていた。
頭が休息を求めていた。
(復興に携わる面子をもう少し増やさなきゃいけねぇか?)
ジークはまた、人材確保で頭を悩ませることになる。
だが、これはすぐに解決することになる。
「アーメリアスが?」
翌日アーメリアス王国から使者が来た。
今回の復興に携わる事で万が一似たような事が起きても対応できるように家臣たちに経験させたいというので人材の派遣を決定したとの事。
後は現場からの許可を得るだけ。
旧グレステレン王国の重臣であるヴェスガンや妖精族領の代表であるエルミナに話を通しアーメリアスの家臣の派遣を容認することにした。
人手はあればあるほど助かる状況なのだ。
これを受けてスイストリア王国とファーナリス法王国も見習って、幾人かの家臣を派遣することになった。
本格的な復興の道筋がようやく見え始めて来た。
そんな中で気味の悪い出来事が起こる。
「ジーク! 表に出てきて!」
エルミナが悲鳴交じりにジークを呼ぶ。
何事かと思い夜分に表に出てみると信じられない光景が広がっている。
夜空一面に流星が流れているからだ。
ジークはこの現象を戦役大陸でも経験している。
傍にエルミナ代表がよって来る。
「ジーク! 貴方天文にも詳しいって聞いた事があるわ! これって吉報なの!? それとも凶報なの!?」
不安に押しつぶされそうなのだろ。
ジークの服をギュッと掴む。
そんなエルミナを慮りジークは言葉を濁そうとした。
だが、エルミナは答えを求めた。
「ちゃんと答えて! これ以上何かあったら妖精族領を始め中央大陸は混乱の極致に追いやられるわ! 貴方が知っている事をちゃんと教えて!」
いつの間にかみんなジークの周りに集まって来ていた。
各国から派遣された家臣たちも同様に答えを求めた。
眼には決意が表れていた。
これ以上民を犠牲にしない。
そう言っている。
ジークも覚悟を決めて話す事にする。
「門が開いたんだ。」
「もん?」
ジークの発言を代表するようにエルミナが受ける。
「そうだ、門だ。次元を超える門。異世界へ通じる門。現れるのは神か悪魔か魔神かはたまた異世界の住人か。戦役大陸に居た時は悪魔の群れが現れて小さいながらも国が一つ滅んだ。周囲の国々が停戦協定を結んでこれに対応してやっと討伐できた。一年以上の期間を設けた戦争だった。相対した国々は疲弊の為に次々とその後滅んでいった。今ではこれは有名な話になって戦役大陸では夜空を流星雨が覆うとき戦を止めて一致団結して事に当たるって盟約まで出来るぐらいだ。」
エルミナの顔は真っ青になる。
何故なら流星雨が中央大陸の南部に集中して落ちているからだ。
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