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暗鬼を祓う大舌戦

お読みいただきありがとうございます。

今回は難産でした。

(こうしては居れぬ!)

アーメリアス王国宰相カカロ=モーリタを始めとする重臣たちはは執務室に急いだ。

我らの君主に入らぬ話をして国家を割るなどされたら堪ったものではない。

その思いからだった。



「・・・どれ程願い奉りても聞き届けては頂けませんか・・・。」

アーメリアス王国の若き王プリスは項垂れるばかりだった。

(これ程の英傑を何故このプリスにお授けになられなかった・・・。)

天の采配を恨み床に手をつく。

涙が滂沱となり流れ嘆き悲しむ。

そこにカカロが入室の許可を求めて来た。



「!! 陛下! 何事がございましたか!」

床に座り込み嘆くその姿は只事ではないと察した。

プリスが事の次第を説明すると一応はカカロも安心したが別な心配事が出来た。

(陛下がここまで心酔するとは・・・。ペンドラゴン卿の一言で陛下はこの国の舵取りを簡単に切りかねない・・・。)

ジークにはそのような考えなど微塵もない。

だが、暗鬼を生じている者にはジークはあまりにも大きすぎる存在になっていた。

アーメリアスを乗っ取りかねない存在として。



(こいつが宰相のカカロか・・・。プリス王の側近として政の補佐をしなけりゃいけねぇのに居もしない暗鬼に恐れている。こりゃあ重臣一同重症だろうな。核となる臣が居ねぇからおこる事だ。一度喝を入れにゃなるめぇ・・・。)



「ペンドラゴン卿、今日はもう遅い。客室をご用意しますので泊られて行かれたらどうですか?」

(おいでなすった・・・。)

カカロの申し出に内心ジークは毒づく。

(大方今夜中に俺を論破する場と人を設けるつもりだろ。そうして恥をかかせてアーメリアスに我ら在りと謳うつもりだろ。そうすれば自分たちの意見が通るもんな!)

「確かの仰る通り夜も更けております。ご迷惑でなければ一晩お世話になります。」

(受けて立ってやるよ・・・!)

こうしてジークは舌戦の覚悟を決めた。



朝早くからアーメリアスの重臣たちが部屋に来ていた。

(夜討ち朝駆けは兵法の基本だよな・・・。)

ジークはすでに起きていた。

その中でカカロが代表して訪問理由を述べる。

「いきなり大勢で押しかけて申し訳ございません。邪神討伐の英雄ジーク=ペンドラゴン侯爵のお話を聞きたくてこうして皆で押しかけた次第です。」

(良く言うぜ! 起き抜けを狙って恥をかかせようとしたくせに!)

早く帰りたいジークは早期決着の為に自分の方から切り出した。

「・・・カカロ殿、はっきり申しましょう。皆で論議する場を設けていただきたい。」

「!! で、では朝食の後、迎賓館に場を設けましょう。」

カカロにとっては願っても無い申し出だった。



「こちらでございます。」

女中の案内を受けてジークは迎賓館の大広間にやって来た。

そこには二十人を超えるアーメリアスの重臣たちが整然と並んでいた。

(彼が邪神討伐の英雄・・・。)

(何故このアーメリアスに・・・。)

重臣達はコソコソと話を交わす。

この中にはアーメリアスの宰相カカロもいる。

(陛下を口説きアーメリアスを降し属国にしようとしておるのだろうがそうはさせぬぞ!)

決意を胸にジークを上座に案内する。

「スイストリア王国の禄を食むジーク=ペンドラゴンと申します。」

今ここのアーメリアスの重臣たちの暗鬼を祓う大舌戦が始まった。



まずはカカロが一番手となって来た。

「本日は高名なるペンドラゴン卿がはるばるアーメリアスに参られたと聞いて重臣一同御高説をお伺いしたくここでお待ちしておりました。さて、ペンドラゴン卿。貴方はスイストリア王国ファザード王に何度も宰相や武官の最高位に就くよう再三にわたり乞われていると聞きます。そこまで見込まれているペンドラゴン卿の働きがどうしても解せませぬ。」

「? どういう意味ですか?」

「貴方の様な英傑をその幕僚に加える事が出来たスイストリアは正に魚が水を得られたようなもの。そして組まれたのがジルベルク帝国を包囲する大同盟。ところが結果はどうです? いくら冬間近とはいえあと一歩のところまで追い詰めながら兜を捨て武器をなげうって撤退をしてその後は自国に身をひそめる。卿がこれを知りながら指示を出したとなれば智者とは申されませぬ。皆はどう思われる?」

この時とばかりに一斉に重臣達から「そうだ! そうだ!」の声が上がる。

(ここで言い負かされるようではこいつらの暗鬼を祓う事など出来はしない。)



「では、お答えします。」

今度は場が静まりかえる。

「あの時に無理をすれば帝都を陥落させることも出来たでしょうがそうすれば多くの兵がいたずらに死んでいくことは明白。さらに興奮した兵は帝都にいる罪なき民にまで害をなしかねません。そのような事は我が主ファザード王の望むところではありません。」

「これはこれは奇妙な事を仰る。」

多分に嘲りの含んだ言葉をジークに投げかける。

「兵や民を慮るのは大いに結構! しかしそれは私情と言える! 天下万人の害を除くためにはその私情を捨て大義を成さねばならない! それを兵の損害を思い敵国の民にまで慈しまれるようでは大義を成し遂げられるのか!」

今度はジークが嘲りの表情を浮かべて言葉を発する。

「はははははは! 貴方たちの目にはそう映るのですか? 遥か天空を翔る大鳥の気持ちなど地を這う虫には分かりますまい。」

この言葉にカカロは激昂する。

「な、我らを虫と仰るか!」

「左様! 例えば人が病床の身であるとしよう。その者にいきなり栄養があるからと言って豪華な食事を与えれば何となります? その食事を上手く消化できずに間違いなく病状は悪化するでしょう。まずは消化の良いものを食し薬草を煎じて飲み臓腑の調子が整うのを待って体を徐々に回復させていくもの。先の包囲同盟がなぜ簡単に結成できたかを御存じないと見える。各国の兵力はどれだけのものかご存じか? その一軍を任せる事が出来る将がそれぞれの国に何人いるとお思いか! さらに帝国中央部まで伸びた兵站で兵糧の蓄えも武器も乏しくまるで重病人の様なもの。これで天然の要害や各所に設けられている要塞や砦を抜こうなど死にに行くようなもの。それを避けるは兵家の常です。撤退したのは体の回復を待つためです。」

ジークは一同を見まわしさらに言葉を続ける。

「そのような病床の身であるにもかかわらず互いに助け合い手を取る事で大陸統一に覇を唱えるジルベルク帝国と争う事が出来たのです。その結果ジルベルク帝国は北と南の大領を手放しアーメリアスから奪った領土を放棄しておるではありませんか。そして我ら病人のような国は健全なジルベルク帝国と互角以上に渡り合いながらも引いたのも理由があります。連戦連勝する事も出来たでしょうが、ただ一度の敗北で全てを失う事もあります。逆に連戦連敗ながらもただの一度の勝利で全てを手に入れる事もあります。あの難攻不落の要害群を雪の中で抜けるのは不可能です。これは兵法を少しでもかじった事がある者ならばすぐに分かる事。あの時の帝都攻略は正にこれに当たります。我らは連戦連勝しておりながら帝都を陥落させないのは帝国に連戦連敗でもたった一度の勝利を授け同盟との勝負を勝利で終わらせない為。大計とと言う物は目の付け所がございます。局所のみを論じられるのは軽率と言う物!」

「・・・・・・。」

黙るカカロを余所に別の重臣が言葉を発する。

「ならばお聞きします。ジルベルクは妖魔の軍団を抱えております。何らかの手を使い兵力を急増させて攻め入ってきた場合ジルベルク帝国包囲同盟の発案者として何か対策はありますか?」

「急増の兵ならば烏合の衆。恐れる事はありません。」

この言葉に重臣は口を歪める。

「ほぅ! これはおかしな事を仰る! この中央大陸の各国はジルベルクの手によって散々な目に遭わされて来た! 同盟とは切羽詰まって出来たもの! 他国の助けを求めながら恐れる事は無いなど言葉が過ぎよう!」

ジークの目に侮蔑の色が浮かぶ。

「ここに集まっている者に兵法を存じている者はいないのですか? 我がスイストリアの兵は勇猛果敢なれど精鋭の兵はわずか二千。そのような少数でジルベルク帝国の総戦力一万を相手に戦えるものではありません。だからこその同盟なのです。ましてや冬場にあの要害に籠もられたら手も足も出ません。だからこそ今は身を引いて時を待っているのです。 それに比べてここアーメリアスはどうですか? 兵は揃いも揃って精鋭揃い。大陸一の穀倉地帯を持ち兵糧も十分備蓄しジルベルクとの国境には砦をいくつもお持ちのはず。一国でも十分相手が務まりましょう! それに対し我がファザード王はこの精鋭全てを同盟軍に投入した事をご存じないのか! これをジルベルクを恐れる事が無いと申して何が悪い!」

「ペンドラゴン卿! 貴様は奇弁を持ってこの国に遊説しに来たのが目的か!」

大声をあげて威圧するような大男が意見を述べる。

「黙るがよい。ここは論議する場であって大声をあげて威圧する場ではない。論議する気が無いのであればこの場を立ち去るがよい。」

「ぐっ・・・。」

「ペンドラゴン卿! では、メルキアとは何者ぞ!」

「法を犯す者!」

「それはおかしい! 王たるものが法となる! にもかかわらず法を犯すものとはおかしい!」

「国を治めるには王とて法の下に居なければならない! そうでなければ国の治安は乱れる! 王がやった事だからと言って貴方たちはそれを見習い同じことをするのか! 例えば隣国のファーナリス法王国が落ちぶれたとしよう。プリス王がこれを力を持って押さえたなら貴方たちも同じことをするのか! 君主プリス王が落ちぶれたからと言って力を持ってその座から引きずり下ろすのか! 貴方たちの言い分は両親も無く仕える君主もいない者の言だ! 忠孝の道を弁えよ!」

とうとう誰も言葉を発しなくなった。

そんな所にプリス王が来た。

「何をやっている!!」



城内に側近たちの姿がいない事を訝しみ女中に問うたところ迎賓館でジークを弁論にて吊るし上げにしている事を知ったプリス王は激怒。

馬を単身走らせ迎賓館に来たのだ。

「お前たちは何をしているかと聞いているのだ!」

「陛下! これは・・・。」

「全てはアーメリアスの為にと・・・。」

顔を俯かせる重臣たちを見てプリスは泣きたくなった。

(私が迷ったばかりに重臣達の暴走に繋がってしまった・・・。)

それでも気持ちを切り替えて叱責する。

「ペンドラゴン卿は当代随一の英雄である! その英雄に向かい愚門難問ばかり投げかけ時を無駄にするとは・・・。お前たちはいつから口先だけで争う人間になった! 値千金の情報を生かすための策を授けに来てくれたのだぞ! 恥ずかしいとは思わないのか! ペンドラゴン卿、此度の失礼は私から謝罪します。申し訳ありません。」

そう言ってプリス王が頭を垂れる。

流石に仕える君主がここまでされては臣下としても謝罪しなければならない。

「申し訳なかった、ペンドラゴン卿・・・。」

代表してカカロが謝った。



場所はアーメリアス王城の客間。

ジークを対面にしてアーメリアス王プリスのみならず宰相カカロと騎士団長ミーチェも同席している。

「プリス王、君命も無く客将のなる訳にはいきません。」

「はい・・・。」

「しかし膝をつき頭を垂れてまで乞われたのですから少しだけ教えを授けます。」

「!」

この言葉にプリスは目を輝かせる。

「その教えとは!?」

「まず一つに『人は石垣、人は城』。これは人は国を守る城やその城を守る石垣の様なもの。故に人材こそ国の基であるという事です。今回の件で今の人材を蔑ろにすることなく、また、広く人材を登用しなさい。」

「はい。」

「二つ目に『人を以て言を廃せず』。身分が低いからと言ってその言を無視することなく内容が素晴らしいなら採用するという事です。」

「分かりました。」

「三つ目に『人の一生は重荷を負うて遠き道を行くが如し』。人生は不断の努力と忍耐とを以てしなければこれを立派に歩みとおすことが出来ないという例えです。」

「・・・。」

「プリス王、今回の一件で生じた暗鬼は祓われたと存じます。しかしまた暗鬼が心の生じたら今の言葉を思いだし乗り越えてください。」

「ご教授、痛み入ります。」

「では、私はこれで。」

そう言ってジークは颯爽と退室していった。


三国志の孔明の大論陣の様な事が書ければと思ったんですが凄く難しかったです。

上手く舌戦を表現できたか心配です。

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