初めまして
拙作を読んでいただきありがとうございます。
本日も無事更新できました。
帝国二大美姫はスイストリアの王城に入った。
謁見の間でスイストリア王ファザード=リレファンド=スイストリアに面会する。
「ジルベルク帝国ウェスランド家が長女レオノと申します。」
「同じくジルベルク帝国ウェスランド家が次女ユーディットと申します。」
謁見の間から「おぉ」という感嘆の声が上がる。
それほどまでの美姫なのだ。
「遠路はるばるよく来てくれた。私がスイストリア王ファザード=リレファンド=スイストリアだ。」
二人を見てファザードも得心がいく。
(確かにこれだけの美姫なれば上手く策動すれば仲を裂く事も可能だろう。)
「貴女がたは我が国が誇る英雄ジーク=ペンドラゴン侯爵に預ける事とする。」
この発言を受けてレオノは内心舌打ちする。
(スイストリア王は私達に靡きもしない。籠絡は無理ね。)
当初の予定通りジークを籠絡する事をレオノは決意する。
一方でユーディットは顔色が優れない。
長旅も理由の一つだがやはりジーク=ペンドラゴン侯爵の元に来るのが怖かったのだ。
(この中の誰がジーク=ペンドラゴン侯爵なのだろうか・・・。)
その考えを見透かす様にファザード王が告げる。
「ペンドラゴン卿は国内の視察からまだ帰っておらん。二、三日中には城に来るのでその時に紹介しよう。」
ユーディットはホッとする。
ユーディットの中ではジークはすでに悪人になっている。
悪徳に塗れた醜悪な男なのだろうと思いきっていた。
レオノとユーディットは数日スイストリア王城で過ごしていたが庭園でのお茶会に招かれた。
ジーク=ペンドラゴン侯爵と面会させるためである。
「そこの貴方、道を教えていただけますか?」
ユーディットは時間ギリギリまで自室に籠っていた。
正直に言えば庭園でのお茶会など行きたくない。
何人も女を侍らせるジーク=ペンドラゴン侯爵などに会いたくもない。
だが、いかねばならない。
スイストリア王城の女中が案内を申し出たが「一人で行ける」と頑なにこれを拒否した。スイストリアに来てまだ日が浅いユーディットは当然迷う。
そこにたまたま冒険者らしき格好をした夜陰の如き者が通りかかった。
これ幸いと声をかけたのである。
頭からつま先まで黒一色のいでたち。
マントのフードも目深に被っていて顔もよく見えない。
背格好から男と見て取れるがそれ以外の情報が無い。
相対してもただ軽く会釈をされた。
フードも取らない。
スイストリアの密偵かと思ったがそれにしては装備が重戦士のそれだ。
おそらくスイストリアお抱えの冒険者なのだろう。
「私はジルベルク帝国ウェスランド家が次女ユーディットと言います。庭園でのお茶会に誘われたのですが道に迷ってしまいました。教えていただけますか?」
自己紹介を兼ねて用件を述べると夜陰の如き男が案内を申し出る。
「私も庭園に行くところです。ご案内しましょう。」
そうして先を歩く。
これにユーディットは不満を覚える。
「その前に貴方は何者です! 人質の身なれどジルベルク帝国貴族でも最古の血筋ウェスランド家が次女ユーディットです。事情が無ければフードを取りなさい!」
この言葉に夜陰の如き男は一瞬動きが固まる。
その後クツクツと笑う。
「何が可笑しいのです!」
「失礼。妻と初めて会った時の事を思い出しまして。初対面で妻も同じような事を申したものですからつい懐かしくなり笑ってしまったのです。他意は有りません。」
そうしてフードを外し、面を見せる。
ユーディットは息をのむ。
金色の髪に金色の瞳。
ユーディットはその澄んだ瞳に魅了される。
左頬に大きな傷跡があるがそれさえも絵になる美丈夫がいる。
見<けん>が強いが人を惹きつける何かがある。
しばし見とれたが何とか言葉を紡ぐ。
「あっ、て、庭園への案内をお願いします・・・。」
「では、私の後に付いて来てください。」
「そ、その前にお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ユーディットとて女である。
美男子が嫌いなわけがない。
だが、名を聞いて後悔する。
「初めてお目にかかります。スイストリアの禄を食むジーク=ペンドラゴンと申します。」
「おや? 婿殿はユーディット嬢を迎えに行ってくれたのかな?」
杖を片手に椅子に座る人物が茶々を入れる。
顔に痣がある。
「ロッツフォードよ。くつろぎ過ぎだぞ。」
ユーディットは驚く。
ファザード王のみならずスイストリア王国の筆頭貴族ソルバテス=ロッツフォードまでいるのだ。
姉のレオノも恐縮している。
だが、自分に比べればまだいいだろう。
何しろ誑かす相手に付き添われて来たのだから。
事情を知らないレオノは妹のユーディットに問いかける。
「ユーディ、そちらの素敵な殿方は?」
茶化すような問いかけに至極真面目に答える
「・・・ジーク=ペンドラゴン侯爵様です。レオノ姉様。」
「!! そ、それは失礼を! 私はこの度の和睦の調印を経てここスイストリアに赴いたジルベルク帝国ウェスランド家が長女、レオノと申します。以後よしなに。」
「・・・改めて自己紹介いたします。ジルベルク帝国ウェスランド家が次女ユーディットと申します。姉共々お願いします。」
二人揃って頭をさげる。
「お初にお目にかかります。スイストリアの禄を食んでいるジーク=ペンドラゴンと申します。お二人が不自由無く過ごせるよう出来るだけ取り計らいます。」
こうして冬の最中、ガラス張りの庭園でのお茶会が始まった。
レオノもユーディットとも気が気でない。
ジークが噂とは大違いだからだ。
一言で言えば隙が無い。
その為声がかけ辛い。
だが、そんな雰囲気を吹き飛ばすことが起こる。
入口の方を見たジークがとても穏やかに微笑むのだ。
レオノもユーディットも心を鷲掴みにさえる。
だが、ジークの視線の先には三人の妊婦がいた。
「身重の体であまり出歩いて欲しくないものだ。」
ジークは小言を言いつつも嬉しそうに妊婦をエスコートする。
三人を綿入れをふんだんに使った長椅子に座らせる。
その内の一人が挨拶をする。
「初めまして。スイストリア王ファザード王の妻セラフィアと言います。身重故このような形で挨拶することを許してください。」
レオノもユーディットも更に驚く。
王妃が身重の体でこのお茶会に参加しているのだ。
残りの妊婦もレオノたちに引けを取らない美女だ。
それぞれが自己紹介をする。
「初めまして。ジーク=ペンドラゴンの妻、スィーリアと申します。王妃様同様身重の体ですのでこのような挨拶にあります。ご容赦ください。」
「初めまして。ジーク様の愛妾の一人、マリアンヌと言います。私もご覧の通り身重の体ですので礼に沿わぬ挨拶となりますがご容赦ください。」
ユーディットは吟遊詩人が謳う邪神討伐の歌の主人公がここの揃たことに感銘を受けた。
絵になる。
その一言に尽きる。
マリアンヌに至ってはスイストリアの生きた宝石と言われている。
自分たちがジルベルクの二大美姫ならスイストリアの二大美姫はこの二人だろう。
そう思っているとさらに入室するものがいる。
此方も自分たちに負けず劣らずの美女である。
入って来たのはソルバテス=ロッツフォードの後妻ヴィヴィアンとその身を案じて付き添って来たフェルアノとアクアーリィである。
美貌では決して見劣りしてる訳では無いが自分たちに足りない何かが有り帝国二大美姫の存在が霞む。
レオノの中に焦燥感が募る。
(日ごろからこれだけの美女を侍らせているの!? 私たちが付け入る隙なんて無いじゃない!)
籠絡の相手は愛する妻のお腹を優しくさすっている。かと思えば愛妾のお腹もさすり耳を大きなお腹に当てる。慈しむその姿にレオノもユーディットも何も言えなくなる。
「ペンドラゴン卿、レオノ嬢もユーディット嬢も卿の行いに呆れているぞ?」
君主ファザードがたしなめる事でジークは名残惜しそうにスィーリア達の元を離れる。
「ホント、うちの娘婿は愛妻家だねぇ。」
義父ソルバテスも呆れる。
眼と鼻の先にいるにもかかわらずその距離を惜しんでいるジークに呆れているのだ。
(こんなにも妻を慈しむのに何故女癖が悪いのか理解できない・・・。)
ユーディットは混乱していた。
今まで聞いてきた事。
考えてきた事。
全てが裏切られた。
そこでハッと気づく。
(私、魅了され始めてる?)
自分の中にある感情に恐怖する。
何人もの女性を侍らかす男など嫌悪の対象なのに魅入られている事に。
一方でレオノもどうしたらいいのか分からなくなっていた。
言い寄られたことは幾度もあったが言い寄った事など一度も無い。
どう話しかけたらいいか分からない。
(これ程の男を籠絡なんて出来るの!?)
こうして幾人もの初めての挨拶が終わった。
推敲してから投稿しておりますが思い込むと誤字脱字に気が付きません。
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