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狂戦士

本日更新三回目です。


(なんだ? 風が騒ぐ? 空気が穢れる? なんだ! この異様な気配は!)

ジークは今ジルベルク帝国からもぎ取った領地の最前線で春以降に行うべく普請の下見に来ていた。

そこに異様な気配を感じた。目には見えない。だが、確かに存在する。

現に風が騒ぎ、大気が揺れている。しかも穢れが「視える」。

(まさかあん時のクソガキが「堕ちた」んじゃねえだろうな!?)



ジークは魔法の道具袋から装備を次々取り出し、身に纏っていく。

滅びの魔剣を始めとする邪神討伐に使った時の装備だ。

この異様な気配を感じたのだろう。

共として来ていたクローゼとクローディアがジークの元にやって来る。

「我が君!」

「ジーク様!」

「気を付けろ! おそらく帝国の『曇天』が『堕ちた』!」

「御意!」

「はい!」



堕天もしくは堕ちる。

神格位が歪められると発生する現象を指して言う。

最も通りがいいのは「邪神になる」。



「ははははははは、久しぶりだな! 神殺しぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

「随分と様変わりしたなクソガキ!」

ジークは歯軋りした。

神格位が異様なほど歪んでいる。

(いったい何があった!?)

問いたださずにはいられなかった。

今、目の前にいるのはひょっとしたらもう一人に自分なのだから。

「てめぇ、何があった!?」

この質問にニタニタ笑っていたのに急に真面目な顔つきになる。

「お前の胸に聞いてみろ・・・。」

「分かるか! んなもん!」

ジークは話にならないとみてルーフェンの連れに話を向ける。

「おい! 何があった!? 神格位の歪みが尋常じゃねぇ!! こんなの戦役大陸でもめったに居ねぇぞ!! 邪神化一歩手前だぞ!?」

ジークのこの怒声にミシェルが答える。

「わかんないわよ! 私たちはただ、ルーフェンが再起してもらいたいから遺跡から発掘された義手をあてがっただけよ!」

「こっちはその義手を手に入れる経緯を聞きてえんだよ!!」

「・・・嘘をついたんです。」

「ユノ!」

「貴方が討ち取ったブレミース=イモスは丁重に葬られました。私たちはそれを謀り、ブレミース=イモスの年恰好が似た死体を辱めて白骨化させたのです。そして晒し者にしました。」

このユノの説明だけで十分だった。

「もういい! 分かった! それだけで十分だ! だからここまで歪んだんだ! そいつが司る神格位は人道だ! そこまで外道なことすりゃそりゃ歪む! 分かるか! そいつが狂ったのはお前らの所為だ!!」

「・・・そんな・・・。」

「・・・・・・。」

ミシェルとユノは絶望した。愛していた人をここまで狂わせてのが自分達だとは思わなかったのだ。義手の所為と思っていたぐらいなのだ。

「オイオイ、俺を抜かして何喋くってるんだよ!?」

割って入ったのは当のルーフェンだ。

(クソッタレ!! 眼が完全にイッテやがる!!)

ジークですら引くほど狂気が滲み出ている。

「話すなら僕も混ぜてほしいな?」

「・・・てめぇ、さっきから言葉遣いが一致してねえぞ。」

「良いからさっさとやろうよ。お前を殺す。」

「いきなり来てのたまう台詞がそれよ・・・。俺を殺す理由は両腕の恨みか?」

「両腕? 何の事だ? 俺がお前を殺す理由は・・・。何だっけっか? もう面倒くさいなぁ。」

ルーフェンはいきなり襲い掛かって来た。



(速い!)

しゃがむ要領で長剣<ロング・ソード>の横薙ぎを咄嗟に躱す。

足腰にタメを作り跳ね上がりながら滅びの魔剣を上段から打ち下ろす。

今度はルーフェンが躱す。

以前見た武の才は欠片も無い。

(武術も武道もへったくれもありゃしない! 手負いの獣だってもちっとまともに動くぞ!?)

とにかく動きが出鱈目なのだ。

予測がしずらい。

(こりゃあ長丁場になるか?)



ジークの中に焦りが浮かぶ。

(魔剣の剣風を受けてなんで無傷なんだよ!?)

ジークの魔剣は滅びの力が込められている。

その為に斬撃を放つ際に生じる剣風には滅びの呪いが込められている。先ほどからその剣風を浴びているのに一向にその効果が現れないのだ。

(なら、直撃させる!!)



「ほうら! 僕は強くなった! ミシェルやユノの処女を食ったからね! 他にも村娘を襲ったよ! 気持ちいいぐらいの悲鳴を上げてさ! 最高だったのは結婚式! 参加者全員の首を刎ねて花婿の両手両足を斬り飛ばして目の前で花嫁を犯してやったんだ! 凄く興奮した! その後はきっちり殺したけどね。あんたの真似して眷属にしようとしたら舌噛み切って自害しようとすんだモン。興ざめしちゃった。殺したけどね。だから俺は自分の眷属が欲しい。お前の眷属全て俺にくれ。」

「! イチイチ言葉使いが違うのがうぜぇえ!!!」

素早く間合いを詰めながら連撃を繰り出す。

ルーフェンはこれらをすべて躱す。

だが、これこそがジークの狙いだ。

(この連撃の隙を突くだろうよ!)

この期待は裏切られる。

一気に間合いを離される。

(カン働きも動物並みかよ!!)

今度は逆にルーフェンが攻めたてる。

躱しきれない一撃が皮一枚だが斬っていく。

「あはははは! 神殺しのくせに躱せないんだ!」

「そうか・・・。そういう事か・・・。」

(奴に俺の攻撃が届かないんじゃない。俺の攻撃が温いんだ。これを実力の差と勘違いしてたんだ。心のどこかで救おうなんて思うなんぞ偽善もいいところだぜ・・・。)

ジークは構えなおした。

「ルーフェン=ウェイン。今から殺す。」

ジークの大剣が空を切り裂く。

「!!」

ルーフェンは驚く。

今までの攻撃に感じなかった明確な殺意を感じたからだ。

ここからは一方的にジークが攻めたてる。

袈裟斬り、逆袈裟、横薙ぎ、次々と斬撃を放つ。

袈裟斬りで武器を弾き飛ばす。

逆袈裟で体制を崩させる。

横薙ぎで両腕を斬り飛ばす。

最後に心臓に突きを入れる。



ルーフェンは信じられなかった。

自分は強くなったのに。

神殺しを追いつめてたはずなのに。

気が付くと武器は弾き飛ばされた。

必殺の一撃を躱したがために体制を崩した。

何時ぞやのように両腕を斬り飛ばされた。

心に絶望が広がった。

その瞬間胸が熱くなった。



「ごふっ!?」

ルーフェンの口から血がこぼれる。

ジークが剣を引き抜くと血が噴き出る。

明らかに致命傷だがジークは念には念を入れて首を刎ねる。



こうして人道の神格位を持ちながら堕天した狂戦士に黙祷をジークは捧げた。



「お前らはどうする?」

ジークのこの問いにミシェル=ファーツとユノ=フローロは武器を捨てて両手を頭の上に組み跪いて投降の意を示した。



「阿呆だろ・・・。お前ら・・・。」

事の仔細を聞いてジークは罵倒の言葉を口にした。

「神格位の事なんも知らないで今まで生活してたのが信じらんねぇ。普通真っ先に調べないか? 神格持ちってことで頭撫でられて鼻の下伸ばしてたんだろ? どうせ。」

「・・・返す言葉もありません・・・。」

「そんなにも大事な事なんて知らなかったのよ・・・。」

ジークは重い溜息を吐いた。

「とにかくこれからが問題だ。」

「どういう事?」

ミシェルが何の事かと問う。

ジークは可哀想なものを見る様に言う。

「お前ら二人以外でルーフェンと関係を持った奴はいるか?」

この質問にユノが首を振る。

「いましたが、もういません。」

「?? ・・・! まさか!」

「そのまさかです。全員の首を刎ね、その生き血を飲みました・・・。」

「殺したとは思っちゃいたが生き血をすすることまで読めなかった。そりゃあそこまで歪むよ。」

「それがどうかしたの?」

「お前ら無属の眷属になっている・・・。」

「無属の眷属?」

クローゼとクローディアが憐れむような視線を投げかける。

「神格位を持つと眷属を作れるようになる。眷属はその神格位に準じて霊格を得る。だが、稀に神格位を持つ者の眷属でありながら正確な眷属化をしなかったため霊格を得ることが出来ずにこの世に顕現する者がいる。それが無属の眷属だ。」

「・・・つまりどういうことですか?」

「このまま何もせずにいればルーフェンの様に狂う。」

「!? 死ぬんだったら人のまま死にたい・・・。」

「そんな・・・。いえ、天罰かもしれませんね・・・。」

「助かる術は有るわよ。」

クローディアが口を開く。

「クローディア殿!?」

クローゼが目を見開く。

「方法があるなら教えて! 罪を償わなきゃいけないから。」

「ミシェル! 私にも教えてください。贖罪をしなければなりません。」

この二人に発言にジークが答える。

「・・・簡単なのは誰か神格位を持つ奴の正式な眷属になる事だ。」

「それって・・・。」

「ペンドラゴン様の眷属になるという事ですか。」

「別に俺に限らなくてもいいだろ。戦役大陸行って来い。探せばいるから。」

「我が君、それはあまりにも酷では? 見つかる前に発狂するかと・・・。」

クローゼがたしなめる。

これを聞いてミシェルが背を伸ばし姿勢を改める。

「・・・分かった。ジーク様の眷属になる。」

「ミシェル! 本気何なの!?」

「ええ、本気よ。ユノだって見て来たでしょ? ルーフェンの凶行。」

「・・・・・・。」

「私たちは無知であったがために沢山の不幸をまき散らした。その責任を取らなきゃいけない。ユノ、あなたはどうする。」

「・・・私も責任を取ります。贖罪をしたいです。」

「俺の意思を尊重しろ。なんで俺がお前らを眷属にしなけりゃいけねえのさ・・・。」

「私たち二人には奥さんに出来ないような事をすればいいじゃない。」

「例えば?」

「その・・・あの・・・。」

急にもごもごし始めるミシェルをジークが訝しむ。

「とにかく私たちは奥さんにしたいけどできないような事するための眷属のすればいいじゃない!」

「何で怒んだよ・・・。」

このまま放っておくと堂々巡りに成りかねない為、クローゼが間に入りミシェルとユノを眷属にする予定となった。

ジークがスィーリアの許可が無い限りしないと頑として譲らなかったためだ。



スイストリア王国に一つの墓が出来た。

ルーフェン=ウェインを火に葬し弔った。

墓標にには氏名もきちんと刻まれた。



狂戦士ここに眠る。


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