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勇者堕天

本日二回目の更新です。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ルーフェンはいつもの悪夢を見て目を覚ました。



「ルーフェン! 大丈夫!?」

相方だったミシェル=ハーツが部屋に飛び込んでくる。

ルーフェンは歯の根が合わずガチガチと鳴らす。

両腕を斬り飛ばされた時の悪夢を見る度にこうしてベットをのた打ち回る。

「ルーフェン・・・。」

『曇天』と呼ばれた神格位の勇者の姿は見る影も無かった。



「ルーフェンの容体は如何だ?」

メルキア=ジルベルクは元勇者一行の神官戦士であるユノ=フローロに近況報告をさせた。

「・・・いつもと同じです。悪夢にうなされ部屋に閉じ籠りっ放しです・・・。」

「・・・・・・。」

メルキアは頭を抱えたくなった。

神格位を持つにもかかわらず、一方的にジークにやられたと聞いたのだ。

今まで我が儘を許して来たのは何の為なのかと問いたくなる。

そんな中ある遺跡からルーフェンに打って付けの遺産が見つかったのだ。

メルキアはルーフェン再起の起爆剤を探していた。



「すごい・・・。本物の手みたい・・・。」

ある遺跡から発掘された古代魔法文明が作成した義手である。

金属の光沢を放つ以外普通の手と何ら変わらない。

「これをルーフェンに与える。だが、心が粉砕された今のルーフェンには与えられん。」

「・・・・・・。」

ユノ=フローロは当然と思いジルベルク帝国皇帝の話に耳を傾ける。

「そこで一計を案じる。虚報の計だ。お前たちの仲間のブレミース=イモスをスイストリアが晒し者にして徹底的に辱めたという事にしてルーフェンに話せ。」

「・・・。」

「それで再起できなければ所詮それまでの男。諦めもつく。」

「・・・必ずや再起させて見せます。」

ユノ=フローロは恭しく礼をした。



「そんな打って付けの遺産をいただけるならルーフェン再起も夢じゃないわ!」

ユノ=フローロはジルベルク帝国宮殿でのやり取りを仲間だったミシェル=ハーツに話していた。

「でも、今のルーフェンには与えないって・・・。だから、ブレミースを辱める事にしたの。」

「辱める?」

コクリとユノは頷く。

「ブレミースの亡骸は首と共に骨になるまで晒して徹底的に辱められたという事にするって・・・。」

実際はジークが首も亡骸も丁重に弔っている。

自惚れた神格位に付き合った哀れな老人として。

「此処までして再起しないのであれば所詮それまでの男だって。」

「・・・・・・アタシから話すわ。ついでに惨い物の準備を陛下にお願いして。」

虚報とはいえ仲間を辱める発言の役をミシェルが買って出た。



「ルーフェン、入るわよ?」

ミシェルがルーフェンにあてがわれた部屋に入る。

当のルーフェンは虚ろな目でミシェルを見ている。

今ではミシェルの介護が無ければ生きていけなくなった。

「ルーフェン、辛いけど話さなければいけない事があるわ・・・。」

ルーフェンは返事をする事無く、ただ、ミシェルを見る。

「ブレミースの亡骸が辱められたって・・・。」

ルーフェンの体がピクリと反応する。

(これはいけるかな?)

ミシェルは淡い期待を抱く。

「首と共に亡骸も晒されて、ひどい状況だって。骨になっても晒されたまんまなんだって。・・・助けに行かない?」

「・・・・・・こんな体で何ができる・・・。」

「陛下がね、ルーフェンにその気があるなら協力するって・・・。」

「協力?」

「古代魔法文明に作られた魔法の義手が発掘されたの。まるでブレミースがルーフェンに頑張れって言ってるみたいじゃない?」

「!!」

「五日後此処を出発するからそれまでに決めておいて・・・。」

そう言ってミシェルは部屋を出て行った。



いつも叱られていた記憶がある。

今にして思えば身を案じてのものだったのだと分かる。

だが、もうその声は聞こえない。

自惚れから圧倒的格上に挑み惨敗したのだ。

両の腕を斬り飛ばされた。

両耳も失った。かろうじて聴力はまだ残っている。

体にはその時の裂傷が残ったままだ。

いつも自分の身を案じてくれた老魔術師はもういない。

自分たちを守るために死んだ。

自分たちを逃すために死んだ。

その亡骸が辱めを受けている。

助けたいと思った。



ドクン



ルーフェンの胸の中で何かが蠢いた。

もし、ジークがこの場にいたらこう叫んでいたろう。

「堕天」と。



「陛下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ジルベルク帝国宮殿にルーフェンの姿があった。

「俺に、俺に力を! 俺に力をくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

目を血走らせメルキア=ジルベルクに詰め寄る。

この異様な様を見てメルキアはゾッとする。

目覚めさせてはいけない何かが目覚めたのではないかと。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

晒された躯にルーフェンは慟哭する。

いつも叱ってくれた老魔術師。

いつも身を案じてくれたあの声は二度と聞く事が出来ない。

「ジーク=ペンドラゴン!! 貴様を必ず殺す!!!!!」

血の涙を流さんばかりに慟哭する。



ユノ=フローロは後悔した。

ミシェルから頼まれたものを陛下に頼み用意してもらった。

ブレミースに年恰好が近い人間の亡骸。

それも白骨化するために肉を削ぎ死体を辱めたと聞く。

その偽のブレミースの亡骸を前に天に向かい慟哭するルーフェンが何か別の者に生まれ変わったような気がする。

私たちはひょっとしてやってはいけない何かをしたのではないかと恐怖に絡め取られた。



(ルーフェン・・・。ごめんね。)

ミシェル=ハーツは心の中で謝罪した。

こうでもしないと一生あのままだっただろう。

そう言い聞かせる。

それでもこうして以前のように外に出てきた。

ミシェルは気づかないでいた。

ルーフェンの変貌に・・・。



「次だ・・・。」

場所はジルベルク帝国の軍事鍛錬場。

ルーフェンはここで鈍った体を鍛えなおしていた。

だがやり方が異常だった。

「ルーフェン殿! これ以上はダメだ! 兵が持たん!」

「次ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!」

一対一の対戦をありったけの兵と延々繰り返していた。

そこにこの狂気の声である。

兵達は二歩も三歩も後ろに引いた。



「ルーフェンよ。再起してくれたのは嬉しいが、何事にも限度と言う物があるぞ。」

メルキア=ジルベルクの元に苦情の山が届いたのだ。

特に軍部からの苦情は苦情とは言えない。

被害と言えた。

一日に百人以上の人間を使い物にならない位叩きのめすのだ。

この狂気に歯止めをかけるべくメルキア自らが諫めに来たのだ。

此方を見ようともしない。

良く見ると何事かブツブツと呟いている。

耳をそばだてる。

「まだだ、まだ足りない。まだ必要だ。強さが。どうすれば。どうすればあの領域にいける。強さが足りない。まだ欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。」

メルキアは後悔した。

だが、もう遅い。

狂気を解き放ってしまった・・・。



ルーフェンはユノをがっちりとベットに押さえる。

「ルーフェン! 正気に戻って!」

「? 何を言ってるんだ? 俺は正気だ。だからあの神殺しと同じことをして強くなろうとしてるんじゃないか。」

そう言ってズボン脱ぎ下着をおろす。

「! ルーフェン! いや! 止めて! こんなのが初めてなんて嫌よ!」

「強くなりたいんだ。ユノ、協力してくれるって言ったじゃないか。」

「こんなのは違う! 止めて!」

「あの神殺しがたくさんの女性を囲うのは強くなるためかもしれないじゃないか。同じことをすればきっと俺も強くなる。ブレミースの仇も討てる。」

「ルーフェン! お願い! 正気に戻って!」

「俺は強くなる・・・。」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



「ルーフェン・・・、どうしちゃったの・・・?」

「あぁ、ミシェル。君も協力してくれるんだね?」

ルーフェンのベットには凌辱の限りを尽くされたユノが横たわっていた。瞳の焦点があっていない。

「あの神殺しと同じことをすればきっと今より強くなれるんだ。」

「同じこと?」

「あぁ、あんなにも女を囲うのは強くなるためだと思うんだ。だから俺も女を囲う事にした。手始めにユノ、次はミシェル。後は目についた次第順番かな。」

穏やかな表情で恐ろしいことを言い募る。

ミシェルが一歩後ろに上がるとルーフェンは即座に反応した。

ミシェルの背後を取り羽交い絞めにする。

「!! 凄い! 体がこんなに軽いなんて! やっぱりあの神殺しと同じことをすれば俺は強くなれる! この凌辱と言う力でジーク=ペンドラゴンの何もかも凌辱してやる!!」

言葉遣いが先ほどから統一されていない。

ミシェルの中に恐怖が生まれる。

「ルーフェン! お願い! 正気に戻って! 処女ならあげるから! こんなのは嫌よ!」

「ミシェルは処女なんだね! ユノもそうだった! 処女だったんだよ! きっと処女を凌辱する方が強くなれるよ! ありがとうミシェル! 僕が強くなるために処女を取っておいてくれて!」

そう言ってミシェルをベットに押さえつける。

ユノ同様に強姦するために。

「いや! 止めて! ルーフェン!」

「また俺は強くなるぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

「イヤぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



日に日にルーフェンの常軌は逸していた。

最早誰にも止められなくなった。

そして帝都からルーフェンは二人に従者を連れていなくなる。

従者の名はミシェルとユノ。姓など無い。

生きた道具と成り果てたのだから・・・。

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