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即位

「では、ジーク殿は未だ天使の輪<エンジェル・ハイロウ>に籠もっているのか?」

ファザード=リレファンド=スイストリアはジーク=ペンドラゴンが義父、ソルバテス=ロッツフォード伯爵に問いかけた。

王領スイストリア奪還から十日が過ぎている。

「はい、どうもフブカを取り逃がしたのは自分の所為だと思っているようでして・・・。」

「そのような事など無いと言うのに・・・。」

ファザードは深くため息をつく。

「妻である私ですら知らなかった転移の魔法陣の事をジーク様が知りようなどないわ・・・。」

元王妃、マリアンヌも追随する。

マリアンヌはファザードの妻セラフィアの教育係として王城に留まる事になった。

元側室ヴィヴィアンも手伝う事になっている。

場所は王城スイストリア。

この度の征伐で残念ながらフブカの首級を上げることはできなかったが、この国から追い出すことは出来たと思われる。悪しき猛毒をやっと取り除けたのだ。

これでスイストリア王国は一枚岩になったのだ。

その最大の功労者の一人にジークの名が挙がっている。

だがそれをジークは辞退した。

「恥になる。」

この一言を残しロッツフォード領にある天使の輪<エンジェル・ハイロウ>の中に閉じ籠ってしまった。

後顧の憂いを何が何でも断つ為に戦までして追いつめた先で転移の魔法陣で逃げられたのだ。このことがよほど悔しかったのだろう。

言外に、

「首級を上げる事が出来なかったのにどうして褒美を受け取れましょうか?」

という意味を乗せているのだ。

「出来ればジーク殿に城の普請を頼みたいのだがな。」

「何より此度の征伐の第一功者であるジーク君を除け者にして他の者達を評する事もできません。ホントに困った娘婿です。」

だが、この時ジークは暗躍をしていた。



「ジーク様! ジーク様! 読み通りでした! 愚劣王はジルベルク帝国に逃れておりました! 名に恥じぬ愚かさで帝国にて再起を計るようです!」

この知らせをカティアから聞き腰かけている椅子の肘掛がミシミシというほど握りしめた。

ジークは愚劣王フブカの行き先を探していたのだ。

(城の普請で時間が取れる。その間にジルベルク帝国に色々準備をしてもらって即位式を目標に王位の簒奪を狙うつもりだろうがそうはいかねぇ!)

ジークには天使の輪<エンジェル・ハイロウ>のみならずいくつかある切り札の一つををここで切るつもりでいた。

天使の輪<エンジェル・ハイロウ>は「天空要塞」である。

要塞とは戦略上の要所に設けた防備施設だ。

「何」の防備施設かという事になる。

ジークはその「何」を持って来るつもりでいた。


ジークは根負けした。

義父ソルバテス=ロッツフォード伯爵とその愛娘であり自分の最愛の妻であるスィーリアを始めとして、フェルアノやアクアーリィ達、銀の乙女と眷属、全員に征伐の第一巧者として城に登るように説得されたのだ。加えて新しく王城の普請まで頼まれたのだ。

「頑張れば頑張るほどスィーリア達といちゃつくという一番の褒美から離れるのは何故だ!?」

天使の輪<エンジェル・ハイロウ>にジークの悲鳴が響いた。



触れが出されていた為にジークが天使の輪<エンジェル・ハイロウ>をロッツフォード領に持ってきた時は騒ぎにならなかった。それどころか領民に高みの見物を決め込まれた。

だが王領スイストリアではそうはいかなかった。

触れは出されていたが騎士の詰所に「大丈夫なのか!?」と何人も押し寄せてきたのだ。

ちなみに触れの内容は次の通りである。

「この度の征伐でフブカは逃亡した。民を苦しめ続けたこの国賊はあろうことかジルベルク帝国に逃げ込んだ事が判明した。この国を売った正真正銘、本物の売国奴・愚劣王フブカから王領スイストリアを守りスイストリアの新しき象徴として城を移築する。なお、この城は移動させることができる古代魔法王国時代に建造されたものである。その際に空を覆い陰りとなるが心配せぬように。」

この様な内容を王領中に触れて回ったのだ。

五日後、王領に城が降りてきた。



天空要塞が守っていた城がジークの切り札の一つである。本当はソルバテス=ロッツフォード伯爵の自宅にと考えていた。

中央大陸の上空を彷徨っているのをジークが「天使の輪<エンジェル・ハイロウ>」内に施された魔法陣を使い赴き、制御下においてた。その城を丸ごとスイストリア王城にしようと言うのだ。

万が一に備えて避難先としてロッツフォード領の天使の輪<エンジェル・ハイロウ>に行くことが出来る様に転移用の魔法陣も設置してある。

そうそう簡単に空を飛べる訳ではない。飛ぶ必要もない。何より空中に居続けるのも限界に達していた所なのだ。守っていた天空要塞「天使の輪<エンジェル・ハイロウ>」ですら地上に着陸していたのだから、本丸である天空城<エアロ・キャッスル>も限界にきていたのだ。

この城は前の持ち主の趣味も良かった。

質実剛健ではないが必要以上に華美な装飾はない。

古代魔法王国時代の貴重な美術品がいくつもある。

なお、ジークが全て探索済みである。

危険な罠がない事、門番たる魔物の類は排除済みである事、など報告済みだ。

そして貴重な魔法の品は研究したいので全て貰っている事。

城にあった金貨の類は新生スイストリア王家に寄贈する旨を伝えてある。

戦費がかさんでいたためこの申し出は渡りに船だった。

美術品は鑑定は出来るが興味がない。

そんなジークからの申し出だった。

最も、ジークの個人資産はとっくに中央大陸随一であるが・・・。

とにかくこの新しいスイストリア王城への引っ越しが始まった。



スイストリア王国中を巻き込んだ征伐戦争終結から二月。

即位式が行われることになった。

ファザード=リレファンド=スイストリアの即位式である。

多くの民の祝福を得て即位した。

だが、この即位式に異を唱えるものがいた。

遠い異国の地で・・・。



「ワシはまだ健在じゃ! 簒奪者どもにいずれ目にもの見せてくれる!」

ジルベルク帝国がただの飾りの為に置いているに過ぎないフブカである。

必要最低限のもてなししかしていない。

これは三バカと呼ばれる元宰相のベリガン、元宮廷魔術師のガンド、元騎士団長のアモンデスも同じである。

事が終われば、スイストリア王国への侵攻と言う名目と準備さえ出来れば斬られるなど考えてもいないだろう。

むしろ、ジークの関心を引く材料にされているなどとは露程も思っていまい。



大陸統一の覇を唱えるメルキア=ジルベルクと愚劣王フブカの運命が交わりジークへとつながる糸が太くなる。

例えどれほど愚かでも王を引きずりおろし国外へ逃亡させるのだ。

ジルベルク帝国皇帝メルキア=ジルベルクはジークを何が何でも己が幕僚に加えたくなった。

この糸はメルキア=ジルベルクが狂いだす糸口になる。


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