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背水の陣

本日二度目の更新です。

「フブカ様、ご安心ください。敵は確かに連戦連勝しておりますがその実態は極めて危ないものをいくつもはらんでおります。まず一つに長期にわたる遠征で兵は疲れ切っております。兵数も一千と決して多くはありません。これは兵を統治に使わねばならないからです。そして今のロッツフォード軍は義勇兵などと同様に下賤の民が集まってできたもの。誉れ高き騎士など一人もおりません。恐れることはありませぬ。目の前のロッツフォード軍一千を蹴散らせば瞬く間に各領地を取り戻せます。」

何を根拠にしているかは分からないが自信満々で騎士団長アモンデス=ヘルバーニはフブカ=スイストリアをなだめていた。

王領スイストリアをロッツフォード領でグルリと囲まれ、さらにスイストリア王城の目と鼻の先におよそ一千の軍で陣をしいているのだ。

これを見て逃げ場をなくした事も手伝い狂乱状態になっていたのだ。

「アモンデス! 本当に大丈夫なのか!? ワシはこのスイストリアの王だぞ!? 嘘偽り申すなよ!?」

「勿論でございます。指揮も私が直々に執る近衛騎士団でございます。必ずや勝利をこの手に掴んでご覧にいれます。」

こうしてフブカを落ち着かせたアモンデスは執務室を後にした。



「ご苦労だったな・・・。」

宰相ベリガン=ヨルバーニがアモンデスを労う。

当初はベリガンが狂乱状態のフブカを宥めていたのだが手に負えなくなり武門のアモンデスなら直に戦に係わる分、自分よりは現状を上手くごまかし宥められると思ったのだ。

そのベリガンに不思議そうにアモンデスは返答する。

「何をおっしゃる? 私は事実を述べたまでの事。労などありませぬ。」

おまえ頭は大丈夫か!?

ベリガンは叫びそうになった。

部屋のすぐ外で待機していたため部屋の中での会話は聞こえていた。

何一つ根拠のないことを並べててていたのはフブカ王を落ち着かせるための言葉と思っていたが事ここにいたり本気でそう思っていることが分かったのだ。

戦慄した。

このような男に騎士団長という職を任せていることに。

そして確信した。

この地でわが身が終わる事に。



「敵は家が長期の遠征で疲れ切っていると思ってるんだろうなぁ・・・。」

ジークの読みは当たっている。それだけではない。スイストリア王城は自分たちがものの見事に掌の上で踊らされていることに気づいてもいない。

まず、兵は一千以上集めることができる。

最大動員をかけ、義勇兵を募れば一万を超える軍となる。

だがあまりに圧倒的な軍陣をしけば降伏するという選択を取られてしまう。

人道的な行いをしてきているため降伏するという選択肢を取られると受け入れざるおえない。

ジークはそれを避けたかったのだ。

何が何でも後顧の憂いを断つため今の王領スイストリアにこもっているフブカ一派にはここで滅んでもらわねばならない。

ただ気がかりなのは女中などの戦に係わらない貴族以外の者達だ。

そのため城に攻めるのではなく城から出てもらい自ら退路を断ち決死の覚悟で挑んでもらわねば困る。だがこれはすんなり解決するだろう。敵の主力は近衛騎士団だ。籠城戦などより騎馬で突撃をかける方が得意な部隊だ。まして率いるのが脳みそが有るかも疑わしいあのアモンデス。野戦になることをジークは確信していた。

他のも討伐した領地の統治問題がある。最も問題とは言えない。なぜなら民たちが率先してロッツフォード軍に自警団を結成するなどして協力を申し出て来てくれるからだ。むしろ警邏の負担が減っているぐらいなのだ。

民と良好な関係を築き上げ今後の統治にも問題は起こらないだろう。

そして軍容は兵農分離により元は一般人ながら職業軍人として訓練を積んだ者達だ。

騎士の出自というだけで威張り腐る貴族とは訳が違う。

自分たちの手で自分たちの国を守るという思いはフブカ一派の騎士などよりはるかに強い。

故に身に付ける技は騎士のそれに匹敵する。それこそ馬上槍による一騎打ち<ジョスト>などでなければ遅れを取ることはない。

他にもフブカ一派で宰相「だった」ベリガンによるジルベルク帝国への援助もファーナリスが睨みを効かせているため受けることができないでいる。

マテリア平原をファーナリス法王国とロッツフォードで割譲統治できたことがここで大きく響いてきている。

こうしてフブカ一派を着実に孤立化させ今に至るのだ。

(こちらに負ける要素などない。騎馬による突撃は弓矢の一斉射撃と槍衾<やりぶすま>で十分対抗できる。これでフブカ一派には後がなくなった! さっさと背水の陣をしけ!)

ジークのこの祈りはすぐに天がかなえてくれた。



スイストリアの王城。その城門前。

近衛騎士団を始め場内のありったけの兵を集めた。

総数およそ一千。

事ここに至り、よくぞ今までこの数を保てたと褒めるべきだろうか。

何より驚くべきことはフブカが陣中にいる事だ。

先の冬期総力戦で惨敗して以来軍に顔すら出さなくなった。

だが、アモンデスの言葉で自信を取り戻しロッツフォード軍が近衛騎士隊に蹴散らされるところを直に見たいがために参陣したのだ。

城には最早戦えない者、王妃や女中などしかいない。

王城は小高い丘の上に建てられている。

そのため騎馬で突撃をされると坂を下る勢いも手伝い一層迫力があるだろう。

最もジークの指示で弓矢の一斉射撃と長い槍でできた槍衾<やりぶすま>に突撃して終わるだろうが・・・。



「総司令、敵が準備に取り係ったようです。」

物見の兵からの報告をジークは受けた。

ジークは新生ロッツフォード軍の総司令官となって全軍に指示を飛ばしている。

当初は位の高い者が指揮を執り自分が前線で大暴れするつもりでいた。

その方が軍の士気が上がると思っていたからだ。

だが、旧法王国派の貴族たちと何よりファザード=リレファンド=スイストリアという自分達の王が軍の総司令官としてとジークを指名した。

事実、後方にジークがいるだけでも軍の士気は上がる。

百人斬りの戦士、邪神討伐の英雄。

数々のあだ名がそれを後押しした。

その際に宝剣を一振り賜った。

これもまた真の銀<ミスリル>でできた強力な片手半剣<バスタードソード>である。鎧や盾などで魔法の武具以外は紙を切るようにやすやすと切り裂くという恐ろしい能力がある。

この宝剣に触れながら軍配を片手に指示を出す。

「全軍前進。場所はスイストリア王城前。そこが決着の場だ。」

ジークは後ろを振り向いた。

王都スイストリアの街並みが見える。

ロッツフォードの街を見下ろせるあの丘をふと思い出す。

スィーリアと見た街並みを思い出す。

ジークもまた背水の陣をしいた。

(今、俺の背中にはスイストリア王都の民の運命が背負わされている。多くの民の命運を背負った以上、負けるわけにはいかない! 今度こそ雌雄を決するぞ! フブカ!)

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