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因果応報

ジークは調略のためにロッツフォード領と併合したグリズール領、マテリア平原に隣接するスイストリア王国の各領地に手を伸ばした。

マテリア平原に隣接する領はグリズール領を除いて三つ。

プラディアム領、ベルテガル領、ザフル領。

ロッツフォード領、グリズール領に隣接するのは二つ。

スハイル領とドノレケイス領。

この五つに対して調略を行った。

戦を避けるためであったがこれが悪い方へと転がってしまう。



「伯爵、報告に来たぜ。」

ジークは調略を始めてからわずか十日で結果をもたらした。

これを受けて伯爵は良い知らせから聞く事にした。

「まずは良い知らせがあったらそれからから聞きたいな。」

ニンマリと笑ってジークにせがむ。

だが、ジークの顔は強張ったままだ。

「・・・グリズールはもう併合してるから問題はない。良い知らせって言えるかどうかは分からねえがドノレケイス領以外の領地では戦をせずに済む。スハイル領、プラディアム領、ベルテガル領、ザフル領この四つは今日からでもロッツフォード領として組み込める。」

伯爵はジークの物言いに引っ掛かりを覚える。

「? ドノレケイス領だけが調略に応じなかったから戦になるというのが悪い知らせになるのかな?」

「残念だがそれは悪い知らせに付随してくる情報であって悪いことそのものじゃねえ。もっとロクでもなねえ事が起こった。」

「・・・何がおこったんだい?」

「さっき伯爵が言った良い知らせって言うのがあまり喜ばしくねえんだよ。少なくとも諸手を上げて喜べることじゃねえってことさ。」

このジークの言葉にソルバテス=ロッツフォード伯爵は頭を抱える。

「・・・そういう台詞が出るってことはドノレケイス領以外の領地で問題が発生したという事?」

「・・・ホントにロクでもねえ事さ。五領の内ドノレケイスを除くスハイル、プラディアム、ベルテガル、ザフル、この四つの領地には領主も騎士も貴族といえる奴らが誰も居なかった。」

「は? 誰も居なかったって、じゃあ誰が統治してるのさ?」

「そこなんだよ。ドノレケイスも含めて貴族共はロッツフォードと手を組むのを良しとしなかった。今までが今までだったからな。じゃあ弓矢を持って語ろうかと言えばそんな度胸も軍事力もない。そこである行動に出た。」

「・・・何をやらかしたんだい・・・?」

恐る恐るジークに聞く。どんなことを言われても驚かない覚悟を決めて。

「・・・自分が治める領地の民から金目の物を略奪して家族を連れてドノレケイスに集結したのさ。」

「!!」

この知らせにソルバテスは愕然とする。

それでもジークの報告は続く。

「・・・おそらくこう考えたんだろ。五領がそれぞれでロッツフォードと戦い勝つのは不可能だと。同盟など以ての外だとな。ならば五領で同盟を組みロッツフォードに抗おうってな。そのためにドノレケイスに集結した。軍事費、兵糧は民から徴収という名の略奪をすることで賄ったのさ。ドノレケイスは王都がある王領に隣接している。いざとなれば王都から援軍を乞えると思ってんだろ。馬鹿な奴らだ。冬の総力戦で戦なんざできる状態じゃねえってのに無理やり徴兵かまして軍の体裁を取り繕いやがった。民の心はもう貴族から離れたから一斉蜂起なんて起こっているにも拘らずだ。これでより一層民の怒りが激しくなるぞ。今回各領を回って驚いたのは民が喜んでロッツフォードの施政を受け入れてくれたことだ。やっと地獄から救われるって喜ばれたよ・・・。」

「・・・・・・。」

「どうする、伯爵? 無駄な戦を避けるはずの調略が完全に裏目に出た。ここまで外道な真似をやるとは俺も思っていなかった・・・。」

「・・・僕だって人間だ。欲望の一つや二つぐらいあるよ・・・。」

「伯爵・・・。」

「でもね、でもね! こんな! こんな事を貴族がするなんて! これじゃあ野盗だ! スイストリアはいつからこんな国になったんだ!」

「伯爵・・・。」

伯爵の痛ましい姿にジークはかける言葉が見つからない。

「ジーク君! 情報を流してほしい! 今からひと月の猶予を与えると! 降伏すれば助命はする。だがそうでないのであれば戦でもって決着をつけると!」

「・・・俺も貴族をかたる野盗共がくたばるのは一向に構わねえが無理やり軍勢に組み込まれた一般市民が死ぬのはお断りだ。集結した軍が瓦解するように情報を制してみよう。」

「頼むよ・・・。これじゃあ民が可哀相すぎる・・・。」

平静を装って入るがジークも怒り狂っていた。

(民を守るから特権階級の貴族で居れたんだ。それが民をここまでないがしろにしたんだ。外道なことを平気でかますんだ、どんな結末でも受け入れて貰うぞ!!)



ドノレケイスに集結した五領同盟の兵は約一千。

そのほとんどは無理やり引き立てられた一般市民だ。

度重なる戦、重税、そして今回の略奪で完全に民の心が離れていた。

そこにロッツフォードからの知らせが大々的に流された。

降伏すれば助命はする。だが、そうでない場合は戦でもって決着をつける。

五領同盟軍の領主からなる指揮官たちはロッツフォード何するものぞと息巻いていたが、下の兵士たちはそれどころではなかった。

何せ相手は連戦連勝のロッツフォード軍。

しかもあの「邪神討伐」のジーク=ペンドラゴンが率いている一千の軍。

同盟軍の兵は恐れをなした。

逃亡兵が続出したのだ。

そのほとんどはロッツフォード軍に逃げ込み助命願いしてきた。

こうしてロッツフォード軍一千がドノレケイスに集結した時には五領同盟の各領地の領主と騎士、そして子飼いの一部の兵士計百名ほどしか残っていなかった。

だが、これだけでは終わらなかった。

今回の五領の民たちが怒り狂いロッツフォード軍に合流したのだ。

結果ロッツフォード軍はその数を倍の二千名にまで膨れ上がらせ、五領同盟軍に対陣したのだ。



どこで間違ったのだろう・・・。

五領同盟の領主達は考えた。だが、答えが出ない。

自分をまだ特権階級だと思っているからだ。

自分が守るべき民から略奪行為をしたのだ。税を納めさせるのとはわけが違う。

子飼いの兵たちがどんどん死んでいく。

付き従って来た騎士たちも討ち取られていく。

気づいたときにはわずかな共を連れて王領に向かって逃げ始めた。



勝鬨が上がった。

五領同盟の盟主たるドノレケイス以外の領主は全員討ち取られた。

その家族たちは全員捕らえている。

戦にもならない戦がこうして終わった。



この戦でスイストリア王国の東部のほとんどをロッツフォードが抑えた。面積にしてスイストリア王国の約三分の一がロッツフォード領となった。

何より王領に隣接することになった。

これにより民は善良な施政をしくロッツフォードに逃げ込み始める。

受け入れ体制がまだ不十分であるがロッツフォードでは受け入れている。

五領の貴族たちのようなことを民にさせて成るモノかとジークの賛同を得てソルバテス=ロッツフォード伯爵は受け入れを開始したためだ。

こうして、スイストリア王国の東部は人が集まり、産業が興り、農業や紡績業などを始めとする中央大陸有数の産業地帯になりつつあった。

逆にスイストリア王国の王領を含めて中央から西部は過疎化が進み、立ち行かなくなりつつあった。

こうして自分たちがやってきた結果が巡り巡って自分たちの元に返って来たのだ。

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