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兵は詭道なり

「アモンデス様! 限界です! 退却しましょう!」

「日々凍え死ぬ者が増えております! もはや兵達は戦う意欲がありません!」

スイストリア王国騎士団長アモンデス=ヘルバーニの部下達が口をそろえて退却を進める。

まだ雪は深くない。退却するなら今しかない。

つまり、これ以上雪が深くなれば兵を引くことも出来なくということだ。

(陛下を説得するしかあるまい・・・。)



「退却するだと!? 正気か!? 貴様ら!」

スイストリア王フブカは激怒した。

六倍以上の兵力で挑んでいながら逃げ帰ることになるのだ。

今までの数々の失態を考えれば今度こそ致命的な打撃になる。

軍指揮官として政治家として王として。

「しかし、これ以上は戦えませぬ!」

「ゆるりと構えよと、任せておけと申してのはお主等であろう!」

「・・・・・・。」

この言葉に宮廷魔術師のガンド=ヘルバーニも黙り込む。

(確かに言った・・・。だが、状況を良く見て欲しい!)

心の中で大声をあげる。

スイストリア軍は瓦解寸前である。

士気などもはやどこにも無い。

兵は逃げたくても逃げる場所が無いから留まっているにすぎない。

「とにかく今日もう一度突撃をかけさせよ! これは王命ぞ!」

「しかし!」

「国賊に屈せよと申すか!」

こうしてまた無駄な死人が増えていく。



「さすが我が君! スイストリア軍が瓦解寸前になることまで読み切っておられた。よし! 我らの手で最後の一押しをしてやろうぞ!」

クローゼのこの言葉に五百の兵が頷く。

後に闇の軍刀<ダークセイバー>と呼ばれるクローゼの活躍である。



スイストリア軍が突撃をかけてからしばし時をおいて、後方部隊を襲うロッツフォード軍が現れた。

兵力は五百。

ジークは事前に五百の兵をグリズール領に潜ませておいた。

グリズールの領民をロッツフォードに避難させればスイストリア軍はグリズール領を経由せずまっすぐロッツフォードに向かうと読んだ。そして実際そのとおりになった。

略奪する品が無い事を情報操作でも流していたからだ。

そしてグリズール領とロッツフォードの領境にある砦に五百もの兵を潜ませておいたのだ。

一度しか効かない埋伏の計。

奇襲を最も効果的に発揮すつ時も指示していた。

度重なる無謀な突撃で兵の心が折れたとき。

寒さで心身ともに疲弊しきったとき。

ただし、騎兵による攻撃が可能な降雪状況であること。

などなどの条件をつけておいた。

そして今、クローゼの目の前にはそれら全ての条件がそろったスイストリア軍がいた。



「ロッツフォードが後方から現れただと!?」

スイストリア本陣に激震が走った。

ここに総戦力を結集していたのではなかったのか!?

どこに兵を伏せていたのか!?

混乱状態であった。

勿論これも狙い通りである。

そしてこの混乱を切り裂くように黒い剣となったクローゼが奔る。



(兵は詭道なり。一兵に至るまでここに集結させるという俺の言葉はスイストリアの間者が無事運んでくれた。だからこちらの埋伏の計が生きた。スイストリアが冬の時期に行軍するという愚を犯してくれた。時間と季節という天の利を得た。天使の輪<エンジェル・ハイロウ>という地の利も得た。そしてここに援軍という人の利も得た。この戦、勝たせてもらう!)

ジークの目に炎が宿る。



実戦経験がほぼ無いスイストリア王フブカは軍の奥深くに本陣を置いている。臆病な心根が表れているといえよう。

そこに明確な死の刃が喉元に突きつけられたのだ。

それはフブカ王だけではない。

ガンド、アモンデス、など主だった諸将も同じだ。

兵の殆どは前線に出して突撃させている。

後方部隊を襲う伏兵など考えていなかった。

今から呼び戻すことは不可能だ。

予備隊は三百名しか置いていない。

その三百名を蹴散らしてダークエルフ、クローゼが現れた。

混乱の極みに陥った本陣は前線の兵を放り出し逃げようとしていた。



「!! フブカ王とその側近とお見受けいたす! 御首頂戴いたす!」

「ひぃ! 誰か! ワシを守れ! アモンデス! ガンド!」

この戦で明確な勝利の証である首級を取れ。

ジークのこの言葉を遂行すべく敵本陣を探し回っている所にその首が三つそろっているのだ。

これぞ天の采配と喜色を浮かべ馬首を変える。

クローゼの馬が疾風となりフブカ王に迫る。

だが、そこに割ってはいる一団があった。

生粋の騎士隊たちである。

愚直にも王命を守ろうといたのだ。

クローゼが瞬く間に斬り捨てる。

ロッツフォード五百の兵も追随して本陣に控えていた兵を討ち取り続ける。

だが、このわずかな隙を突いてフブカ、ガンド、アモンデス、そして少数の騎士が逃げ出した。

「!! 待て! これほどの兵を置いて逃げるか! 卑怯者! 臆病者!」

クローゼのこの言葉はフブカの耳にも届いていた。

だが、理解までは出来ないでいた。

失禁するほど恐怖に震えていたからだ。

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