初仕事
「あ、おはようございます。よく眠れましたか?」
旅人の安らぎ亭の看板娘アンナがジークを見かけ声をかけてきた。
「おはよう。久方ぶりによく寝れたよ。早速で悪いんだが体動かせる場所はあるか? 体が鈍って死にそうだ。」
「裏のほうにありますよ。井戸も傍にあるので汗を流したければ使ってください。あと、朝食の時間までには終わらせてくださいね。」
ジークはそれに解ったと答えながら安らぎ亭の裏へと向かった。
朝食をたいらげ、自室に戻り装備を身に纏っていく。
(一応、スィーリヤや伯爵にも挨拶に行くか・・・。)
そう思いながら仕事をこなすため階下へ降りていくと喧々囂々言い荒らそう声が聞こえてきた。何事かと思い見てみると左胸に蒼い薔薇の紋章をつけた女性の一団が住人たちと言い争っている姿、そして板ばさみにされているスィーリアの姿があった。こちらに気づいたのだろう、「ジーク!」と大きな声で呼ばれ場の視線を総ざらいにしてしまった。
ゴブリンを見かけた。
今朝猟師が持ってきた情報である。蒼薔薇たちの手によって十日ほど前に駆除したばかりなのである。にも拘らず村の周辺にゴブリンが居るのはおかしいということで槍玉に挙げられたのだ。蒼薔薇もゴブリンの繁殖力を知っているため取りこぼしが無いように徹底した駆除を心がけたのだ。両者の意見がぶつかり事ここに至り言い争いに発展してしまったのだ。
結果、第三者の意見としてジークが調停することになった。
「可能性としては色々あるぜ。一つ、前回の駆除の際に上手く逃れたやつらがいた。二つ、別な群れがこの十日ばかりの間にやってきた。三つ、これが一番考えたくねえことだが前回駆除したゴブリンが実はもっと大きな群れの尖兵隊だった。もしそうなら群れを率いる長が居ることになる。」
「!! ホブゴブリンだね。」
蒼薔薇の背の高い大剣を背負った女性が応える。
「ああ、そうだ。だがそうなるとこちらも打てる手が限られてくる。今現在この村は柵で囲んでるだけだ。乗り越えられたらそれで終わりだ。守るにしても数が多けりゃジリ貧、各個撃破されて終わりだ。打って出る必要が出てくる。そのとき入れ違いになると目も当てられねえ。スィーリア、騎士団は何人居る?」
「総動員をかければ十名ほどだ。」
「じゃあ騎士団の皆さんには村の警護をお願いしよう。金属鎧を身に着けて山歩きさせるより良いだろ。後、武器を使える連中にも動員をかけてみてくれ。槍で突っつく位なら出来るだろ。」
「わかった。父上に話をして許可を得てこよう。あと兄上にも出動を願おう。」
「兄上?」
「昨日紹介しなかったがエドワードというんだ。魔法使いだ。」
「そいつは心強いな。魔法使いが一人居るのと居ないのとでは全然違うからな。
蒼薔薇の皆さんは俺と一緒に斥候役だ。」
「調停役をさせてしまい済まなかった。」
そう言ってスィーリヤは頭を下げた。
「別にかまやしねえよ。それより早いとこ動員かけるよう伯爵に掛け合ってくれ。俺の悪い予感って言うのは良く当たるんだ。」
「わかった。ジーク、気をつけて。蒼薔薇のみんなも。」
そう言って出て行くスィーリアを見送り冒険者、蒼薔薇に顔を向けた。
「さっき行ったとおり悪い予感が当たりそうなんだ。時間が欲しい。自己紹介は移動しながらでも構わないよな」
否というものは誰も居なかった。
目撃地点に向かい歩きながら自己紹介を始めた。
「私の名前はヴィッシュ。蒼薔薇のリーダーをしている。剣士だが精霊魔法も少々使える。」
「あたしの名前はサンドラ。ごらんのとおり大剣を主軸に戦う戦士さ。」
「あたいはリン。斥候職についている。今回は頼りにしておくれ。」
「私の名前はミーナといいます。古代語魔法を修めております。」
「私はジュリシスといいます。水の神の神官です。」
「俺はジーク。昨日この村に着いたばかりだ。それまでは戦役大陸に居た。」
全員がジークを見た。
「只者ではないと思ってはいたが・・・」
「イカレタやつしか居ないと思ってた・・・」
「戦闘狂しかいないと思ってた」
「あの皆さん言葉を選んで・・・」
「そうですよ。言い方というものが在ります。」
言いたい放題の蒼薔薇の面々に苦笑しながら歩き続けた。
「どうも罠臭いな。十日前に駆除されたってえのに無用心に村に近づきすぎてねえか?」
目撃地点でジークの感想に皆眉を顰めた。
「そうは言うけどこの先に巣があると思うよ。それに奴等にそこまでの知能があるとは思えないんだけど」
リンはそう言いゴブリンの足跡を指し示す。
「ゴブリンの中には精霊使いのゴブリンシャーマンや邪神の復活を目論むゴブリンプリーストとか頭脳労働派も居るんだよ。そういった奴等に限って狡い手を使うんだよ。」
「だけど今現在手がかりはこの足跡だけよ? 進むしかないでしょう。」
「だな・・・。こんなとき人海戦術がきかねえと辛えよな。」
ヴィッシュの言葉に進むことを決めたジークであった。
「案の定すぐに見つかったじゃない。見張りを立ててるとこ見ると村を襲う前のようね。ヴィッシュ、どうする私たちだけでやっつけちゃおうか?」
リンの言葉を聞き叩くべきか引き揚げるべきか悩んでいたところキョロキョロするジークを不審に思い声をかけた
「・・・ジーク? さっきから何を探してるんだ?」
「おかしい。待ち伏せするなら絶好の箇所が幾つかあったのに素通りできた。巣の大きさの割りに見張りが少なすぎるんだよ。ひょっとすると蛻の殻という可能性が高いぞ。こいつ等を叩きのめしてさっさと村へ引き返そう。本体はどこかに潜んで村が襲われてるはずだ。」
「考えすぎだと思うけどここでやつらを叩くのは賛成だね。」
「後顧の憂いは絶っておくべきだと思います。」
サンドラ、ジュリシスも同意したことですの駆除が決定した。
「よし、じゃあやろう。ミーナ、眠りの霧で見張りを無力化させて頂戴。」
「はい、わかりました。」
{大気を漂いし魔力よ。我が魔力に呼応し眠りを齎す霧となれ}
途端に見張りが霧に覆われ地面に倒れた。
そして巣の入り口に向かおうとするとワラワラとゴブリンが巣から出てきた。
数にして三十匹を超えていた。
「何が蛻の殻だ! ガッツリ居るじゃないか!」
サンドラの言い分にジークは冷静に返答をした。
「どうやら最悪の想像が当たったようだな。」
「最悪?」
「よく見てみろ。これだけの群れなのに統率すべき存在が居ない! こいつらこの数で恐らく留守番役だ! 村のほうに統率すべき存在とこれを超える大軍が向かっているんだ!」
盾を構え村を騎士たちが巡回して歩いている。さほど大きくも無い村だ。あっという間に一周してしまう。
「本当に来ると思うか?」
巡回中の騎士が同僚に声をかけた。
「万が一ということも在るだろう? ほら! ダレてないでしっかり見て歩け」
そう言われ気を引き締めたところで見たくも無いものが目に入った。
「おい! あれ!」
同僚が指し示す先に居たのは一際大きな体躯のゴブリンとそれに従うようについているゴブリンの群れである。
「村の南西部から現れたというのは本当か!?」
騎士隊長は困惑していた。
(目撃情報は北東。その反対方向から現れるとは! おかげで戦力に数えていた冒険者達との距離が開いてしまった! ゴブリンどもにそんな知恵があるとは思えんが何やら嫌な予感がする。)
「柵越しゴブリン共を突け!村には一歩も入れるな!」
「せえりゃぁぁぁぁ!」
気迫のこもったジークの大剣による一撃は最後に残ったゴブリン2匹をまとめて首を斬り飛ばして巣の駆除は完了した。
ヴィッシュはじめ蒼薔薇の面々は肩で息をしている状況だ。特に魔術師のミーナと神官のジュリシスの消耗が激しい。
「お前ら! ここで休憩してろ! 俺はこのまま村へ向かう! 後からゆっくり来い」
そう言いおいてジークは走り出した。
「ここにいるゴブリン共はほとんど一人であいつが倒したって言うのにこの差は何なんだよ!」
「これが自分の実力だとは思いたくないな・・・。」
サンドラの声にこもる悔しさとそれに応えるヴィッシュの声は悲しみに満ちていた。