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騎士

「アブラハム?」

ジークはファニスの報告を受けていた。

「はい、ファーナリス法王国聖騎士団団長を務める人物でジルベルク帝国に睨みを効かせる人物です。」

「その聖騎士団団長様が俺に何の用があるんだ?」

「・・・ありていに言えば引き抜きです。」



「とうとう直接交渉に乗り出してきたか・・・。」

場所はソルバテス=ロッツフォード伯爵宅に移した。

事の次第を報告する為だ。

「やはり、疑獄解決に貢献したのが響いてるね・・・。」

ソルバテスの嫡子エドワードと腹心中の腹心になりつつあるジークはロッツフォード独立後の体制や輸出入に関する相談をする為何度かファーナリスと往来している。そんなとき、ジークの開拓手腕を買われファーナリスの経済状況を説明したのだ。その説明を受けてジークは改善改良よりも不審点をいくつか上げた。

当然調査となった。

結果は黒。

政治がからむ大規模な収賄事件が発覚したのだ。

さらにまずい事に裏で糸を引いてるのがジルベルク帝国だと判明したのだ。

ファーナリス法王国国王ヨルバは激怒する。

国家国民に尽くすべき者がする事かと怒り狂ったのだ。

少なく無い数の貴族が官位を剥奪された。

これによってジークの評判も上がったのだ。

普段はヒョードル将軍が「大人<たいじん>」と評していたがこれは同じ戦役大陸から来た者同士の身内の贔屓が入っているだろうと思われていたからだが、今回の件でその実力が本物と分かったのだ。

このような経緯でジークはファーナリスから仕官の勧誘を受けている。

他にも、ジルベルク帝国もジークに接触しようとしたが、ジークがスイストリアという不倶戴天の敵と同盟を組む国とは話すことは無いと突っ撥ねたのだ。



「アブラハム、ジーク殿は仕官してくれると思うか?」

ファーナリス法王国国王ヨルバは執務室にて自分の右腕たる聖騎士団団長に問いかけた。

「無理でございましょう。かの御仁はソルバテス=ロッツフォード伯爵の人柄とロッツフォードの土地柄に惹かれております。ましてやロッツフォード伯のご令嬢であるスィーリア様とは相思相愛のすえにご結婚したとの事。そこに他者が入り込む隙は無いと存じます。さらに金や官位でも動かないでしょう。今は独立直後ゆえ一介の冒険者としておりますがいずれ時を見て姓を賜り貴族の一員として名実共にロッツフォードの重臣となりましょう。」

「そうか。中々上手くはゆかぬな。」

「確かに。」

「だからと言って良き隣人になれぬとは限らぬ。より良き関係を構築しよう。」

「では、酒宴に抜かりがなきよう手配しておきます。」



「交渉も無しにいきなり突っ撥ねおったか・・・。」

ジルベルク帝国の若き皇帝、メルキア=ジルベルクは玉座に座り報告を聞いていた。

「陛下! 我がジルベルクは戦役大陸渡りの雑兵如きに遅れを取るほど脆弱ではございません! 人材も豊富でございます! 」

重臣の一人がジーク勧誘に固執する皇帝に声を荒げる。

「では、お前に同じことが出来るか? 出来んよ・・・。わが国で猛将で知られるカユウを討ち国家規模で仕掛けた策を見破るなど・・・。どれか一つなら出来る者はいようが全てをこなせる者となるとそうはいない。ぜひ我が幕僚に欲しい。」

後にこの執拗な勧誘がメルキア=ジルベルクの人生を大きく変える事になる。



「正直困ってんだよ。この間なんか法王国の姫さん紹介されるしさ・・・。」

この発言でソルバテスは口に含んだお茶を噴き出した。

「会ったの!? 王族の姫君を紹介させるなんて普通はないよ!? 完全に狙われてるじゃないか!?」

「俺だって望んで会った訳じゃねえよ! いきなり不意打ちで紹介されたんだよ! 思いっきりドン引きさせるつもりで愛妻自慢したら逆に興味持たれちまって困ってるんだよ!」

「興味を持たれて当たり前だよ! 君達二人は今や吟遊詩人たちが歌に詠むほど有名なんだよ!」

「え? うそ?」

「嘘じゃないよ! どうしてこう知らないことは無さそうにして皆が知ってそうな肝心な事がスポンと抜けてるのさ!」

「・・・どうしたら良い?」

「どうしよう。・・・ホントに。」

ファーナリスは良好な関係を、ジルベルクは不穏な動きを、ジークに対して取ろうとしていた。



ファーナリス法王国での酒宴はソルバテス=ロッツフォード伯爵、警護役も兼ねて次男であり騎士隊に所属するエヴァン、最早ファーナリス法王国との交渉事には欠かせなくなったジーク、そしてその妻スィーリアで来ていた。

酒宴は豪勢に行われて皆楽しいひと時を過ごした。

ジークはスィーリアを部屋へ案内してその後エヴァンと共に義父ソルバテス=ロッツフォードを宛がわれた部屋へ案内した。

ジークとスィーリア以外は別々の部屋を宛がわれている。

こうしてジークは部屋に帰ってくるなりベットに倒れた。

そして口から愚痴が延々と流れる。

「こちとら必要最低限の作法しか身に付けてねえんだ。ナノに後から後から人が湧いてきやがって。こっちはいっぱいいっぱいだっつうの! 察してくれよってんだ! ヒョードル将軍が羨ましかった! ホントいつも通りなんだもん! 誰も何も言わねえんだもん! スゲー羨ましかった! 騎士隊の連中はスゲー疎ましかった! 戦役大陸の話をしてくれしてくれって! 何で宮中晩餐で血生ぐせぇ話をせにゃならんのよ!」

苦労したジークのこの姿をスィーリアはクスクスと笑った。

「でもいいこともあったでしょ?」

スィーリアのこの発言にジークの頭の中は疑問符で一杯でになる。

そんなことがあっただろうかと。

「きれいな貴族令嬢にたくさん囲まれたじゃない。」

とうとう我慢できなくなったのかスィーリアが声を出して笑う。

当然ジークはむくれた。

「見てたんなら助けろよ!? 困ってたんだぞ俺!?」

「あんなに慌てふためくあなたが見れるなんて驚いたわ。」

「だって、胸やら腰やら体中を押し付けて来るんだよ・・・。髪も何本か抜かれたし・・・。」

この言葉を聞いてスィーリアの笑顔が引っ込む。

「・・・私この国ちょっと嫌いになった。」

まずいと思ったジークは話題を変えた。

「そういやスィーリア、俺たちが吟遊詩人の間で歌われてるって知ってたか?」

「父上から聞いてるわ。ジーク、知らなかったんですって?」

「・・・そんなに有名になってたのかよ・・・。」

「知らぬは本人ばかりなり、か・・・。」

「・・・・・・。」

何ともいえない気分のジークであった。

(大陸中に俺の預かり知らねえ噂とか二つ名とか流れてねえだろうな・・・。)



「ジーク君に姓を名乗らせていないのが原因だと思われるんだ。」

ファーナリス法王国から帰国早々ジークとスィーリアは伯爵に呼び出された。

そしていきなりこのように言われ、二人して何のことかと目で問いかけた。

「ファーナリスの酒宴の席でね、口々に言われたよ。ジーク君の契約期間はいつまでですかとか、ジーク君にうちの娘を正室にどうですかとか。もうね声を大にして言い返したかったよ! うちの大事な娘婿は傭兵では無いと! うちの娘がキチンと正室で嫁いでいますと! もうねふざけるなと言いたかった! 今回の事から良くわかった! 氏素性をしっかりさせれば家のスィーリアを差し置いて正室にとかふざけた事いう奴はいなくなるでしょう! そうしてジーク君を家の家臣ですと大々的に発表すればこの勧誘戦争も下火になるでしょう!」

「!! 父上それは!」

「分かってる。ジーク君の冒険者としての身分を縛ってしまうことは理解してる。それをふまえてジーク君の判断を仰ぎたい。これは強制ではないから思った通りに答えて欲しい。」

「・・・腹括るか・・・。」

「それじゃあ!!」

「こんな俺でよければロッツフォードの家臣団に加えて欲しい。」

「喜んで迎えるよ。ペンドラゴン士爵。」

「・・・ぺんどらごんししゃく?」

「そう、ペンドラゴン士爵。古代魔法王国時代以前にそういう王族の傍系がいたんだって。ちなみに士爵は騎士という意味ね。」

「簡単に騎士というか貴族というか、なれるモンなのか?」

「普通は無いよ。叙任式とかで騎士の位を貰うものさ。でもジーク君の場合はちょっと違う。何せ邪神討伐を成しているからね。それにここロッツフォードの開拓だってジーク君がいなければこんなに進んでいなかったよ。これらの功績を考えれば伯爵位にはなれるはずだ。ただこれらを本来行うのは国王兵陛下だよ。国王から名実共に貴族になるか、名も実も無い僕個人が認めた騎士になるかを選んで貰うことになる。」

「俺は伯爵から認められればそれで良い。いつかそれを皆が認める本物に変えてみせるから。」

「ふふふ、なら難しく考える必要は無いよ。あ、でも名実共に貴族になったらお嫁さん次第では侯爵位にはなれるかな?」

「俺はスィーリアが良い。」

「ジーク!!」

感激のあまりスィーリアはジークに抱きつく。

「そういうのは二人きりのときにして欲しいな。」

くっくっくと声を殺して伯爵は笑う。

どうも、からかわれた様だ。



夜が帳を下ろそうとする宵闇。

ジークはロッツフォードの町並みを見下ろせる丘に来ていた。

隣にはスィーリアも一緒にいる。

二人で町を見下ろしているのだ。

「ずいぶん灯火が多くなったな。」

「ホントに。最初は二十ほどしかなかったのに・・・。」

スィーリアはジークの腕にそっと自分の体を預ける。

「全部ジークのおかげよ。ありがとう、ジーク。」

「俺だけの頑張りじゃねえよ。皆が頑張ったからだ。」

「それでもあなたが居なかったら私もここに居なかった。あなたが邪神討伐という偉業を成し遂げてくれたから私は今生きてここに居られる。あなたと一緒に私の宝物を見ることが出来る。こんなに嬉しいことは無いわ。」

そんなスィーリアを抱き寄せ城壁を見ながらジークは言葉をスィーリアから引継ぐ。

「スィーリア、ここの光景は城壁からでも見える。でも、でも良ければこうしてこの丘で二人でこの光景を見たいんだ。」

この言葉に飛び切り素敵な笑顔でスィーリアは答えた。

「ええ、勿論よ! ジーク!」

(この笑顔を、町の灯火も消したりなんかしない、させない。)

ジークは固く心に誓った。

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