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人質交換

「驚きました。まさか宮廷魔術師である貴方自らこのロッツフォードに来るとは、私を拷問にかけた張本人の一人、ガンド殿。」

未だ夢に見ることさえあるあの地獄の日々。

十二分な嫌味を込めて言い放つ。

ロッツフォード領の外れにソルバテス=ロッツフォードは来ていた。

人質交換のためだ。ジークという共もつれてきている。

だが、ガンドはこの嫌味を無視して自分の用件を済ませようとした。

「この期におよんで何だが、人質交換の金をもう少し負けてもらえんか? 今財務が火の車でな・・・。」

この言葉はジークの怒りの火に油を注ぐようなものだった。

「知らねえとでも思ってるのか! その金は人質になった家から出ている金だろ! 王家の金蔵からは銅貨一枚だって出ていねえだろうが! 差っぴいた金を自分の懐にでも入れるつもりだったかよ!」

この言葉にガンドは心の中で歯軋りをした。

(何処まで情報を掴んでいるのだ!?)

「・・・金はその馬車の中だ。早々に人質を解放してもらいたい。」

ジークの指示が飛ぶ。

「金の確認をしろ。」

この言葉を聞いてガンドが顔を赤くする。

「貴様! 無礼であろう! 私は・・・!」

「うるせえよ! 俺は伯爵に拷問かましたてめぇらをこれっぽっちも許しちゃいねぇよ! そんな奴の言う事なんか信じられっか! どうせてめぇのこった、この金も実は誤魔化して持ってきた可能性のほうが高ぇだろ! 構わねえから調べろ!」

こうして馬車の中の金を兵士が下ろし、皆の前で確認し始めた。

これを見たガンドは顔が青くなる。

ジークはそれを見逃さなかった。

「随分顔色が悪い様だが? 宮廷魔術師殿?」

「ジーク様、金が足りません。」

「こちらもです。」

兵士達のこの声を聞いてジークはにっこり笑いながらガンドに話しかける。

「出せ。」

「な、何の事だ!?」

「誤魔化したんだろ? その分の帳尻合わせるからてめぇの腕を出せ。切り落とす。」

そう言って一歩ガンドに近づく。

「ま、待て!? あの金はお前の言うとおり人質となった家から出ている。きっとそいつらが入れ間違ったんだ! ホントに困るやつらだ。実際に・・・。」

「嘘つけば嘘つくほど泥沼になるって理解しているか? それは王家の借金としてるはずだ。仲違いしてまた貴族を割ることを避ける為にだ。預かった金額の控えを作ってるだろ! 誤魔化す隙があったのは人質交換の現場担当者という貧乏くじ引いたあんただ。金の管理をすることになったあんたはこれくらい分からんだろうと少しばかし懐に入れたんだろ?」

「・・・・・・。」

「ジーク君、もう良いよ。この不見転共に言うだけ無駄さ。」

「みずてん?」

聞きなれない言葉にガンドは聞き返す。

「金次第で言いなりになる奴の事だよ。まぁ、ようするに金の為なら何でもする銭ゲバというやつだ。」

この言葉にガンドが顔を真っ赤にする。

「貴様! スイストリ王家の宮廷魔術師であるこの私を愚弄したな!」

「その宮廷魔術師様が泥棒根性丸出しにして盗人かましたんだろうが!!」

「もう良いと言ったよ、ジーク君! それにこの一連のやり取りは人質になった彼らが見てるんだ。彼の信用なんぞ地に落ちたよ。」

人質と成った者達の目は冷め切っていた。

ガンドを見る目に恨み言が詰まっていた。

こんな奴等の指示で戦ったのかと。

「・・・人質は解放してもらえるか?」

「あぁ、どうぞ王都まで精々気まずい旅をお楽しみください。宮廷魔術師殿。」

この言葉を最後にしようと一同振り返り、帰り支度をする。

そんな中、ジークは言い放った。

「さっきも言ったとおり伯爵の件を俺は許しちゃいねぇ。このことに係わった奴等は皆殺しにすると決めている。てめえも首洗って待ってろ。必ず俺が取りに行く。」

「!! まさか王家の別荘で起こった百人斬りは貴様の仕業か!?」

「はて? 何のことやら?」

「・・・・・・。」

ガンドは確信した。この男だと。あの地獄絵図を作ったのはこの男だと。

「貴殿の名は?」

「・・・ジーク。」

「覚えておこう。」

「あぁ、忘れずに覚えてろ!」



こうして人質交換は済んだ。



その帰り道の事、馬車の中で伯爵はジークの頭を撫でていた。

聞き分けの無い子が良く我慢をしたと褒めんばかりに。

「よく我慢したね。てっきりあの場でガンドを切り捨てるつもりじゃないかと思ってたよ・・・。」

ジークはうなだれて伯爵とは視線を合わせずに会話した。

「伯爵はあれで良かったのかよ!? 未だに傷の後遺症で夜うなされたりしているのはスィーリアから聞いて知ってるんだぞ!? その左足だってもうまともに曲がらねえだろ!? 悔しくはねぇのかよ!? 殺したくはねぇのかよ!?」

「・・・僕個人の恨みでジーク君をただの人斬りにしたくないな。」

「!!」

「大切な娘婿をただの人斬りに何てしたくないよ。だからもう僕の事であんなに怒らなくても良いんだよ?」

「・・・伯爵・・・。」

伯爵はジークの頭を撫で続けた。

「忘れることは出来ないけど、考えないようにすることは出来ないけど、それでも前を向かなきゃいけないんだよ。それが出来るのはジーク君、君があの地獄から僕を助けてくれたからだ。その君が後ろを見っぱなしじゃ格好かつかないよ?」

「でも!」

「・・・ありがとう、ジーク君。君は自慢の娘婿だよ。」

頭を撫でながら話を続ける。

「まだ、全てを許せたわけじゃないけど前を向かなきゃね。」

「!? 許す!? あれだけの事をされて!?」

うなだれていた頭を上げ、ジークはソルバテス=ロッツフォードの顔を見た。

自分の義父の言葉が信じられなかったのだ。

「あぁ、そうさ。許そうと思ってる。そうしないと憎しみという業火で僕は化け物になるような気がしてならないんだ。この仕打ちをした彼らのようなね。」

「・・・・・・俺ができなかった事だよ。」

「ん? 何か行ったかい?」

「いや、何でも無い。伯爵がそういうなら戦場以外ではこの話は無しだ。戦場であったらその限りじゃねえからな。これで良いだろ?」

「・・・まぁ、とりあえずはそれで良いよ。」

(・・・俺はその業火で焼かれたからこんな神格位を持った化け物になっちまったのかな・・・。)


この人質交換はジークの心をかき乱す出来事となった。

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