城塞都市ロッツフォード
本日二話目です。
「それじゃあ元スイストリア諸侯軍はロッツフォードの軍に編成させるんだね。」
「はい、他にも先のマテリア平原で私が指揮を執った傭兵部隊も再雇用いたしました。」
ロッツフォードが独立宣言をしてから三日後、ソルバテスとジークはスイストリアの対策を話し合っていたが、どうも居心地が悪い。
ジークが丁寧な言葉を伯爵に使っているからだ。
「あのさぁ、ジーク君」
「なんでしょうか? ソルバテス様。」
「その言葉遣い止めてくれない? 気を使ってくれてると思うんだけどどちらかというと慇懃無礼な態度に取れるから。」
「・・・なら今までどおりにさせてもらうぜ。」
「うん、そっちの方がしっくり来る。」
「話を戻すぜ? 諸侯軍は家に編成する。傭兵部隊も再雇用した。他にもヒョードル将軍が気を利かせて三百ほどを駐留させてくれることになった。とびきりガラとタチの悪い奴をな。」
これをニヤニヤしながらジークが伝える。
「これで約七百の軍勢となる。スイストリアの兵力は千五百だ。倍の兵力差があるがいざ戦いとなったらこれを見事覆して見せるぜ。」
自信満々のジークを頼もしげに伯爵は見やる。
だが、不安材料もある。それを投げかける。
「ゴブリンの襲撃のときは柵でどうにかなったけど人間の軍相手にはそう簡単にいかないだろう? そこの所はどうするの? 城壁を作るにも人手も金も材料も時間も足りないよ?」
これを待ってましたとばかりにジークが答える。
「それについては一気に解決できるぜ。今からお触れを出させてくれ。領民達が混乱しないようにな。」
この言葉に何をするのかと思い内容を聞いて伯爵は驚き口をあんぐりと開けたままになった。
「ロッツフォードが独立を宣言しただと!?」
スイストリア王家は混乱状態に追いやられた。
産業の中心地になりつつあるロッツフォードをどうやって後ろ指を刺される事無く直轄領に出来ないかをスイストリア王フブカと宰相ベリガン、宮廷魔術師ガンド、騎士団長アモンデス、スイストリア独立派で塗り固められた貴族達が話し合っていた中で知らされたのだ。
「おのれ! 王家の碌を食みながら反旗を翻すとは!」
「いや! これで堂々と攻め込める理由が出来ました!」
「そうだな。これで大義名分が出来たというものだ!」
「これより軍を編成し、逆賊ソルバテス=ロッツフォードを討つ!」
スイストリア王フブカ=スイストリアのこの宣言の元、騎士隊一千名の軍が組まれロッツフォードに向けて侵攻を開始したのだ。
負けるなどとは微塵も考えずに。
「まさか中央大陸の北部未開拓地ににこんな物があるとは思わなかったが使えるものは使う。・・・いい言葉だぜ。」
ニヤリと笑うジークはある遺跡にいた。遺跡に備わった機能を使う為に・・・。
スイストリア軍が出立してから十日、グリズール領を経由してまもなくロッツフォードの領の境になろうとした時異変に気づいた。
「何だ!? あれは!?」
ロッツフォード領をグルリと囲むように城壁が出来ていた。
ソルバテス=ロッツフォードは城砦、元天空要塞「天使の輪」<エンジェル・ハイロウ>に備わった窓の一部から外を見ていた。
この窓ガラスも対魔法戦を考慮してとてつもない強度を持っているとの事だ。
高さはスイストリア王城よりも高い。
ソルバテスはジークの説明を思い出していた。
「えんじゃるはいろう?」
「あぁ、元は俺たち金色の民が居住区としても使っていた軍事要塞だ。こいつには恒常的に空を飛ぶ機能が備わっている。北部未開拓地で発見したこの天空要塞はその機能が停止しかかっているが、ここ、ロッツフォードまで飛んでくることは可能だ。こいつは輪っかみたい中央部が何も無い状態だからロッツフォードの領が丸々治まる。こいつを城壁代わりとしてロッツフォードに着陸させる。この要塞は若干ファーナリス領にも食い込むけど承諾は取ってある。他のスイストリアの領地なんぞ知ったことか。」
「そんなに上手くいくかな? 仮に出来たとしても維持管理は?」
「俺が北部未開拓地に入って発見してから今までずっと研究してきたんだ。大丈夫だよ。維持管理と言っても五百年以上も建築物として現存してるんだぞ? 本格的な城壁が出来るまではこれを代用しようぜ。」
「ここまで巨大なものだとはねえ。領民たちもさぞ驚いたろう。」
実際は混乱はなかった。
ロッツフォードの領民を守る為の城壁を一夜で築きますから驚かないでくださいとお触れをジークが出していたからだ。
あぁ、また先生がなんかするのかと高みの見物を決め込まれたぐらいなのだ。
領民も肝が据わってきたといえるだろう。
こうして一夜にしてロッツフォードは城塞都市へと生まれ変わったのだ。
混乱したのはスイストリア王国軍である。
辺境の貴族の端くれ程度にしか思っていなかった。
精々百名程度の軍しかいないと思っていた。
圧倒的勝利で飾れると思っていた。
だから攻城戦の準備などしてこなかった。
しかし現実は残酷だった。
ロッツフォードにこれほど見事に城砦を組まれているのだ。
そして彼らは気づかなかった。
恨みが極まった一軍が自分達に迫っていることを。
「戦の準備だが予定通りこっちに向かっているのか?」
ジークのこの言葉に元スイストリア諸侯軍の者達が次々言葉を発した。
「勿論です! 逆賊の汚名を着せたスイストリアに見せ付けてやりましょう!」
「そうだ! 死んだ我が父の恨み晴らさずにおれん!」
「我らを迎合してくれたロッツフォードに報いる戦ぞ!」
ファニスとカティアという密偵二枚看板はスイストリアから当主を殺されただけでなく放逐までされた元法王国派に接触を試み見事全ての者達を引き入れる事に成功したのだ。
元々国を思う良識なものが集っていた法王国派は文官能吏だけではなく武官としても有能な者が何名もいるのだ。これら有能な人材をそっくりロッツフォードの家臣団として迎え入れたのだ。勿論マテリア平原で戦った諸侯軍はロッツフォードの家臣団になっている。否というものはいなかった。
こうして未だ合流できていなかった元法王国派は一軍となって恨み募るスイストリア軍に迫っていたのだ。
「放てぇぇぇ!」
城砦の開け放たれている一部から矢の雨を降らせる。
何処が入り口かも分からずに右往左往している間にドンドン矢の犠牲になりあっという間にスイストリア軍は退却した。
そして本陣へ帰ると色々な家の旗が翻っていた。
「貴様ら! スイストリア王国の本陣で何をしておるか!」
「我らはそのスイストリアに当主を殺され一族放逐を食らった者達で構成された義勇軍だ! 我らは民を省みない現王政に立ち向かう為にロッツフォードの独立に呼応し蜂起した!」
「!! おのれ元法王国派の負け犬が!」
「!! 将軍! あれを!」
「今度は何だ!」
「ロッツフォードが出陣しました! 数はおおよそ七百!」
「先ほどの被害はどれ程出ている!」
「約三百名がやられました!」
「では、ほぼ同数か!」
「いえ! 目の目の本陣にいる狼藉者達を加えれば一千! しかも挟み撃ちになります!」
この言葉に将軍と呼ばれた指揮官は檄を飛ばした。
「まずは目の前にいる本陣を乗っ取る狼藉者を早々に排除する! その後速やかに一度本陣を引き、体勢を立て直す!」
「へっ!! 反応が遅すぎる!!」
すでにジーク達騎兵隊の射程距離に入ってた。
ジークは一時的な魔力付与の魔法<エンチャント>を施された長い柄に戦斧を取り付けた武器<ポールアックス>を大きく振りかぶりスイストリアの後方部隊に雪崩れ込んだ。
夕刻までには勝敗は決していた。
兵の練度、兵の運用、士気の高さどれをとってもスイストリアは勝るものがなかった。
スイストリア軍は完敗したのだ。
兵は散り散りになり壊走。
指揮官始め名乗りを上げた貴族は生け捕り。
人質交渉に使う為だ。
スイストリア王家はこの貴族達を見殺しにすればその家からは恨みを買い、だからと言って身代金は捕らわれた数を考えれば相当な額になる。素直に払いたくはない。
だが払わねばならない。
王家はロッツフォードに悪名を着せて逃れるという手が使えなくなったとやっと気づいた。
それでも何とかロッツフォードのせいにして人質を取り返す方法は無いか、身代金を払わずにすむ方法は無いかと考えたがここでもファニス、カティア両密偵が活躍した。生け捕りにした貴族の家に密告し生きていることを教えて回ったのだ。それだけでなくロッツフォードはいつでも人質を少量の金額で返還することも各家々に教えておいたのだ。
これを知った家の者達は王家に詰め寄った。
何故このような好条件なのに人質交換に応じないのかと。
王家が応じないのであれば自分達でどうにかすると言われ始めたのだ。
もしそうなればやっと独立派一色で染め上げた現王政がまた割れてしまう。
スイストリア王家はやっと人質交換に臨むのだった。




