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裏切り

「どうしよう! どうしたらいいの!?」

半ば狂乱しているスィーリアの声が通話の水晶球からもれる。

「今からそっちに行く! だから落ち着け!」

ジークはヒョードル将軍にだけ魔法を使い一度ロッツフォードへ戻ることを伝えて帰還した。



「ジーク!!」

ジークを見て真っ先にスィーリアは胸に飛び込みオイオイ泣き始めた。

「一体何があったんだ!? 伯爵はどうしたんだ!?」

フェルアノが申し訳なさそうに、悔しそうに、進み出て説明を始める。

「スイストリア王家に本隊出陣の直談判に行ったのよ・・・。」

「!! 何故行かせた!?」

「フェルアノさんを攻めないでください。父さんが皆の制止を振り切って出かけたのです。」

「・・・なんでそんなことを!!」

エドワードの言葉にジークはこの痛恨事をどう処理すれば良いか考え始めた。



時は遡る。

ソルバテス=ロッツフォードは王都に来ていた。

(うん? 門番の顔触れが全て変わっている?)

この時一抹の不安を覚えたがもう引き返せない。

謁見の間へと上った。



「ようきたな、ソルバテス。」

玉座にはフブカ=スイストリアが座っている。

隣には宰相のベリガン=ヨルバーニ。

さらにもう一方には宮廷魔術師のガンド=ヘルバーニ。

嫌な予感が確証にかわった。

(独立派はなりをひそめたのではない! 別な何かを計略しているのだ!)

「どうした? ソルバテス?」

「陛下。事は急を要しますので挨拶を省略させていただきます。何故スイストリア王国の本隊を出陣させないのですか? このままでは同盟国であるファーナリスと参加している諸侯が敗北してしまいますぞ!」

「はて? 妙な事を言う・・・。何時わが国はファーナリスと同盟を結んだ?」

「!! 陛下! 戯れもいい加減になさいませ!」

「戯れてなどおらん。わが国の同盟国はジルベルク帝国だぞ? この同盟に反対する諸侯がマテリア平原で反乱を企てておる。帝国はその反乱の芽を摘み取ってくれるというのだぞ?」

「!! 最初から裏切るおつもりでしたか!」

「反乱に参加している家の者は皆おぬしと同じように申す。ヘイハキドウナリ。だったか? 騙されるほうが悪いのだ。法王国派はおぬしで最後だ。だが、おぬしは殺しはせん。お主にはロッツフォードを従えさせる為の人質となってもらう。」

「信頼を裏切るは一瞬でも築くのは難しいのですぞ! 同盟を無視し、再度結んだ同盟を裏切り、ましてやこうも簡単に敵方につくとは恥はありませぬか! このような事が何時までも通用するとお思いか! なにより私には後を任せることが出来る息子達がおります!」

「お主が死んでも生きていることにして従わせるまでよ。」

「!! この外道!」

謁見の間を脱出しようとしたが遅かった。

近衛兵が雪崩れ込んできたのだ。

「殺すな、生け捕りにしろ。その男には利用価値がある。」

「離せ、離せ!!」



「伯爵が人質にされたという事は何か要求があったんだろ!? それはなんだ!?」

アクアーリィが一枚の羊皮紙を手渡す。


・ロッツフォード領は王家直轄領とする。

・令嬢であるスィーリア=ロッツフォードは今の夫とは離縁し王家に輿入れすること。

・反乱の一派であるためロッツフォード家は取り潰すが王家の命を守るのであれば助命はする。

・ジークはそのまま間者としてファーナリス法王国に潜入すること。

・今後、気づき次第命を下すが王命には楯突かず従う事。


「クソッタレが!!」

力いっぱい壁に羊皮紙をぶつける。



伯爵を見殺しには出来ない。だからと言って旧友であるヒョードル将軍がいるファーナリスを裏切ることも出来ない。板ばさみにされた。



(俺は弱くなった・・・。)

ジークはファーナリスの本陣にいた。

事の次第を報告する為だ。

最善策は伯爵を見殺しにする事。そもそも生きているかも怪しい。だがそれが出来ない。

そんなジークの背を平手で思いっきり叩く男がいた。

「!? いってぇぇぇ!? 誰だよ・・・っておっちゃん!?」

「どうしたぁぁぁ! 童ぁぁぁ! なよった顔をしおってぇぇぇ! いつものように狡い頭を回転させいぃぃぃ!」

ヒョードル将軍である。

「俺は弱くなった・・・。今回のスイスト・・・イヤ、敵は俺を間者とするために徹底抗戦した後ファーナリス軍と一緒に法王国へ亡命させることだ。最善策は伯爵を見殺しにして撤退し態勢を立て直すことだがそれが出来ない・・・。」

「違うぞぉぉぉ! 童ぁぁぁ! お主は背負えるだけ強くなったのじゃあぁぁぁ! お主のことじゃあぁぁぁ! 最上策ぐらい用意しておろうぉぉぉ!」

「!! ・・・あることはあるが・・・。」

「よぉぉぉし! じゃあそれで行こう。」

「説明も何もしてねえよ!」

「ワシが知る限り軍師としての才はお主は抜きん出ておる! そのお主が考えたのなら間違いはなかろぉぉぉ! 逆にお主がダメだと思ったらどう頑張ってもダメじゃあぁぁぁ! 諦めもつくというものじゃあぁぁぁ!」

「・・・ファーナリス軍がかなりの犠牲になる・・・。」

「戦とはそういうものじゃあぁぁぁ!」

「・・・将軍。」

歯を食いしばるジークをヒョードルは抱きしめる。

「がばばばばばばぁぁぁ! 童ぁぁぁ! 今までよく一人でしのいだぁぁぁ! じゃが今日からはワシもおるぞぉぉぉ!」

ジークの頬を涙が一筋流れた。



兵力差がある中での長期戦。

篭城戦ではない。野戦においての長期戦である。それも山間部でなく平野部での。自殺行為である。正気の沙汰ではない。

だが、あえてこれを取った。

ジークが全てをファーナリス側に話した事を隠蔽するために徹底抗戦を装う。

反乱軍呼ばわりされたスイストリア諸侯軍の名誉の為に。

人質救助の為に。

あえてこれを選んだ。



ある館にて拷問が行われていた。

「強情な奴だ!! お前もただ一言、独立派になります、と言えばいいんだよ!」

ソルバテス=ロッツフォードの拷問である。

拷問吏の言うとおり独立派へ鞍替えさせようとしているのだ。

「他の連中はすぐに死んじまいやがったんだ。最後の一人だ。楽しませてくれよ?」

他の拷問吏が言う。

「・・・な・・・い」

「あん? なんだって?」

よく聞き取れなかったのだろう。ソルバテスの側による。

ペッ!

ソルバテスは血の混じった唾を拷問吏の顔にに吐きかける。

「てめぇ!」

「いやぁ。ゲホッ! 一度こんな野蛮な真似を ゲホッ! ゲホッ! してみたかったんだよ。ハァ・・・ありがとう。ハァ・・・ハァ・・・願いが叶ったよ。」

この行為に唾を吐きかけられた拷問吏が怒り狂う。

ドスッ! ガスッ!

体を拷問という方法で嬲り始める。

「おい! やりすぎるなよ。生かしておけという命令だぞ。」

「!! このクソ野郎!!」

力いっぱい左足を踏みつける。

ボキン!

ソルバテスの左足から骨の折れる音がする。

「!! がああああああ!」

この姿を見て拷問吏たちは喜ぶ。

「存分に楽しめそうだな。」


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