眷属と銀の乙女
ジークが結婚してから半年が過ぎた。
皆に稽古をつけたり、探索をしたり、講義を開いたりの毎日である。
勿論、ロッツフォード領の産業開発にも手をつけている。
ただ、スィーリアがジークの自宅で生活を営むようになったのだ。
幸せな日々であると実感していた。
そんなある日、スィーリアがエリーゼ、クローゼ、クローディア、蒼薔薇の面々という女性陣のみを館に集めた。
(この面子で集まって話す事と言えば・・・。)
自分の側室というか愛妾というか、とにかく女性関係の話し合いなのは間違いない。ジークとしてはもう少しスィーリアとだけ生活したかった。
だが、姦淫の力をはじめとする簒奪した神格や権能のことを考えれば、スィーリア達女性陣に銀の乙女と眷属になってもらわねば、いずれ力が暴走する可能性がある。
これを抑える為、そして自分の力が世界の構成に与える影響を掻き消す存在としての銀の乙女と自分の神格位を維持する為の眷属を得る事は急務と言えた。だが姦淫の力のせいで肉体関係を結ばねば自分付きの銀の乙女にする事も眷属化させる事もできないのが問題だった。
今までは化粧によって自分の力を制限して行使できた。
欲望はひたすら自制してきた。
それでもどうにか自分の神格位を維持してきた。
これからもそれでいいと思っていた。
だが、スィーリアと愛し合い結婚して考えを改めた。
今はまだ良い。だが、放っておける問題ではないと。
このまま放置すれば、いずれ神格位は歪められて堕ちてしまう。
つまり邪神となってしまうのだ。
それを理解しているスィーリアは皆を集めたのだ。
銀の乙女と眷属について話す場に。
当のスィーリアは毅然と、他の女性陣はどこか居ずらそうにしている。
皆の前でスィーリアがジークに問いかける。
「ジーク、私にはもう一つの神託があることを憶えている?」
「・・・金色に幸あれ、だろ」
「そうよ。私はこれを金色の民ではなく、ジークのみの事だと考えているの。」
これを聞いた女性陣の目の色が変わる
「・・・・・・。」
「だからこれから話し合うのはジークと私の幸せの為の事だから絶対に拒まないで。」
スィーリアは女性陣を前にして高らかに宣言する。
「ここにいる皆さんには全員ジークの側室になってもらいます。」
「ちょっと待てい!」
流石にジークはとめた。
「本人の意志確認はどこいった! そんな宣言されて、はいそうですかという奴がどこに居る!」
「拒むなっていったはずよ? じゃあ確認するわ。ジークの側室に成りたい人は手を挙げて。」
ジークは驚いた。
先ほどまでここに居ずらそうにしていた全員が堂々と手を挙げたからだ。
「ほら、御覧なさい。」
「お前ら正気か?」
「元々私はジーク様の奴隷ですので。全てをジーク様に奉げさせてください。」
お願いをするエリーゼ。
「私もすでに身も心も我が君に奉げております。」
お辞儀をするクローゼ。
「気づいたら、ジークしか見れなくなっていた。」
まっすぐジークを見ながら微笑むヴィッシュ。
「まぁ、アタイみたいなガサツな女でよけりゃ・・・。」
頬を染めながら語るサンドラ。
「ホントはあたしだって奥さんになりたかったんだもん。」
少々むくれながら語るリン。
「先生という殿方を知ってからでは他の殿方とは無理です。」
断言するミーナ。
「私でよければ喜んでお傍に仕えます。」
喜色満面のジュリシス。
「ひとかけらの愛でもいいからもらえるならそれで良い」
真剣な面持ちのクローディア。
(女って、すげぇ・・・。)
こうして一気に問題は解決した。
八人もの女性が名乗りを上げてくれたのだ。
「気になってたことがあるんだが良いか?」
ヴィッシュが質問を投げかけてきた。
「そもそも銀の乙女と眷属の差がよく分からない。銀の乙女になったためにとか眷属だからとかの理由でジークの子を産めないのは嫌だぞ。」
これには流石のジークも苦笑した。いきなり将来の話をふられたからだ。
「そうさな、眷属が土台と考えてくれ。その土台の中から選ばれるのが銀の乙女だ。基本は霊格が高くないとなれねえ。こればかりは生まれ持った資質だからしょうがねえ。あと、銀の乙女でも眷属でも子を生すことは出来る。ただ宿しずらい。」
この言葉にスィーリアはほっとする。やはり、愛する人の子を産みたいのだ。
「それともう一つ。」
ヴィッシュの質問が続く。
「どうすれば銀の乙女なのか、ただの眷属なのか分かるんだ?」
すらすらと答えていたジークが言葉に詰まる。
「・・・あー、えーとなぁ、つまり・・・その」
言いよどむジークに変わりスィーリアが答えた。
「ジークとまぐわうと臍を中心に魔方陣が出来るわ。処女かそうで無いかで多少変わるらしいけど、これが眷属になったという証になるわ。そこから更に銀の乙女の資質があると額にこのような紋章が浮かぶのよ。」
そう言って自分の額を見せる。
「たぶんこの中ではエリーゼとクローゼが銀の乙女になると思うわ。他の皆は眷属になるわ。」
この言葉にサンドラが不思議そうな顔をする。
「何でそんな事が分かるんだい?」
「銀の乙女になったことで有る程度霊格が分かるようになったのよ。」
なるほど、そういうもんなのかと納得する一同に代わりクローディアが質問をする。
「では、眷属ではどうなんだ? 眷属でも霊格が分かるのか?」
「基本的には俺の眷属も俺付きの銀の乙女も一緒だ。違うのは銀の乙女は試練を受けて能力を得る事。得なければ俺の力を抑える事や俺の手による世界の構成に与える影響を掻き消せない。」
「試練?」
「そうだ。人類で始めての銀の乙女が作った試練専用の遺跡がある。そこに一人ずつ潜り、能力を得ねばならない。例えば、スィーリアは傷や病を癒す力と邪神の権能を封じる能力を得ている。」
「なるほど。・・・まぁなんにせよ、私達はジークにたっぷり可愛がって貰う事には変わりは無いのね。やさしくしてね? 騎士一筋で来たから男性経験なんて無いんだから。皆もそうでしょ? 今のうちにお願いいましょ? 優しくして下さいって。」
この言葉にスィーリアを除く全員が顔を赤らめる。
「・・・その、順番は・・・どうする?」
恥じらいながらヴィッシュが皆に意見を問うた。
結局はくじ引きになった。順番に一喜一憂する姿を眺めていたジークにスィーリアがよってきた。
「ジーク。戦役大陸でも同じように説明をしたことはある?」
何の意味があるのかと思いながら答える。
「・・・あぁ、あったよ。今と違いあの時は共に生きるという選択しすらなかった。ただ、拒絶し続けていたよ。だからこっちに渡ってくるときも一人ぼっちだったのさ。」
そう言って寂しそうにするジークにスィーリアは頭をふる。
「たぶんそうじゃ無いと思うわ。ジークの意志を尊重しただけだと思うの。本当はその人たちも私たち同様、ジークと共に生きたかったんだと思う。その人たちにもう一度、声をかけてみない? 今もジークと共に生きたいと思っているはずよ。」
「・・・なんでそう思う?」
「女のカン。」
盛大なため息がジークの口から漏れる。だが、ここから再出発すると決めたのだ。
新しい関係だけではなく、今までの関係も含めてやり直すのがいいと思った。
「・・・瞬間移動<テレポート>の魔法で戦役大陸と何度も往復しなけりゃいけねえな。」
「それは頑張ってとしか言えないな。」
申し訳なさそうにする。
「・・・言っとくけど殆どが女だからな?」
「構わないわ。」
そう言って今日新しく側室になった女性陣を見る。
「いっその事、気になる女性みんな連れてきなさい。ちゃんと取り仕切ってみせるから。」
「そんな事いうと、かなりの人数になるんだが?」
「何か困るの? ジークの眷属は増える。夜伽の回数も増える。領民も増える。増える事ずくめで困る事は無いんじゃないかしら?」
「・・・なんでそんにすすめんだ?」
「・・・正直、毎晩あんなに激しく求められると心はよくても体がついていかないの。」
「すまん。あれで結構抑えてる方なんだが・・・。」
「・・・決定。一国の王でもここまで囲わないというぐらいの後宮を造りましょう。」
これに苦笑いを浮かべる。
戦役大陸にいた時には考えられなかった。
こんな風に語る自分を。
こんなに幸せな日々が待っているとは。
帰れる場所があることがこんなに素晴らしい事だなんて。
あれほど拒んだ眷属と銀の乙女を受け入れる事ができるなんて。
(スィーリアのおかげだな・・・。)
改めてスィーリアが愛おしいと思うジークであった。




