運命
「と、言うのが今僕が置かれている現状なんだよ。」
数日クアートに滞在したが、結局ジーク以外の人材は確保できなかった。ジークもツテをあたろうとしたが呼び寄せるにも戦役大陸からでは時間がかかる。渡航済みの知り合い探すのにも時間がかかる。そのため先にロッツフォードへ向かうことにした。無理も無いといえば無理も無い事である。そして馬車の中で辺境伯誕生の経緯を聞いていた。ジークはこの話を聞いてひっくり返りそうになった。
「つまり、バカ国王は国家運営や民のことを考え苦言を呈する伯爵が疎ましくなり、宰相やら宮廷魔術師やらの讒言を受け入れてあんたを地方へ飛ばしたと? その上開拓なんて嫌がらせを命じたと? 何考えてんだ?」
「ジーク! 陛下をバカ呼ばわりするな!」
そんなスィーリアの注意にジークは苛立たしげに切り返す。
「じゃあ、なんて表現すりゃあいいんだよ! 常識的に考えて甘い汁を吸おうとしているクソどもに良いように利用されてんじゃねえか! その宰相?宮廷魔術師?なんて言ったっけ?」
「宰相はベリガン=ヨルバーニ、宮廷魔術師はガンド=ヘルバーニ、騎士団長はアモンデス=ヘルバーニだよ。ヘルバーニの姓が示すとおりガンドとアモンデスは兄弟。ガンドが兄だよ。」
「騎士団長もかよ! 。戦役大陸で集めた情報の中にスイストリア王国がやべぇって話があったのはこういう事かよ・・・。クアートの事情も考えれば一番しっかりしてなきゃいけねえ国なのに。ジルベルク帝国に乗っ取られるんじゃねえだろうな?」
「マテリア平原が緩衝地帯として存在しているし、ファーナリス法王国とは同盟関係にあるからいざと言うときは呼応してくれるよ。」
この話を聞いてジークは手を顔の前で左右に振る。
「侵略の話じゃなくて調略の話だよ。例えば帝国に寝返れば今より美味しい立場になれるとか餌をぶら下げてその三バカを取り込めばスイストリアを内部から崩壊させる事も出来るだろ?」
「・・・・・・」
「黙るなよ伯爵! 何か言ってくれよ頼むから!」
「はははは、冗談冗談。反面教師とも言うべきか一部の配下の者と他の要職にいる者達がこのままではいけないと危機感を持っていてくれてね。ただ、今回の左遷は顔を合わせるたびに注進していた僕が悪かったね。えらく煙たがれていたから防ぐことは出来なかったのさ。」
「何一つ安心できる要素にならねぇよ。どれもこれもが不安要素だよ。あんたもあんたでもうちょっと上手く立ち回れ無かったのかよ・・・。」
そう言って深くそして重いため息を吐くジークは、そこが定位置だといわんばかりに自分の隣に座る女性スィーリアを見た。どういうわけかこの女性、歩くとき、座るとき必ず自分の隣にいる。正直言って落ち着かない。
(何考えてんだか・・・。)
ジークにとっては黄金を思わせる金髪も金色の瞳孔も一族的な特徴であるためどうしようもない事だがある事情によりコンプレックスなのだ。それを綺麗と言うスィーリアをどう扱っていいかわからないでいた。
そんなジークの心情を知らずにソルバテス=ロッツフォードはトンでもないことを言い出した。
「美人だろ? このさい家のスィーリアを貰ってくれないかい?」
この発言にジークは呆れ、スィーリアは顔を真っ赤にして慌てふためいた。
「ち、ち、父上! 戯れにも程があります! 出会ってまだ数日の男女がけ、け、結婚など! そ、そ、そういう事は互いによく知り合ってからするものです!」
「おや? 曲がりなりにも伯爵令嬢が市井に嫁ぐこととか、自分より弱い男はごめんだとか、騎士としての矜持云々とか言わないんだね? 普段ならそういうことを言って断るのに。これは脈が大いにあると見て間違い無いね! どうだいジーク? かわいいだろう? 貰ってくれない?」
素晴らしい満面の笑みで問いかける伯爵に対し当のジークはこめかみを指で強く押さえ、目をきつく閉じ、眉根を寄せて伯爵に問いただした。
「スィーリアが言うとおり出会ったばかりで結婚っていうのはなぁ。それにこれほどの器量よしなら引く手数多だろ? 何で俺なんだ?」
「父親としては娘には幸せになってもらいたいからね。僕が中央に戻ることはないし娘を優先して何が悪い? それに君のような優良物件を他のやつにとっれたく無いね。君は自分の事を一兵士、一冒険者程度にしか考えてないようだけど、道すがら話した政治・軍事の高度な内容の話に普通についてこれていたよね? 君が身に着けているそれらの装備は全て魔法の武器だ。兵士としても冒険者としても為政者としても一流だと見て取るよ。他にもいろいろとあるよ?」
「・・・他の理由っていうのが気になるが娘を使って返り咲くことを考えたりはしないのか?」
ためらいがちに問うジークにソルバテスは即答する。
「無いね。さっきも言ったとおりスィーリアには幸せになってもらいたいんだ。それに気になる他の理由というのが、おそらく君と・・・神さまからのお話に関わることなんだ。」
「! 神託付きなのか!?」
世界の構成に関わっている神々は何かしらを必ず司っていて、それぞれ神々同士で繋がりをみせている。例えば、破壊と創造は対極の位置にあるが対極という意味で繋がりを見せている。そしてこの二つは世界構成において必要な要因である。
つまり、神々からの神託は世界構成に関わることという意味になるのだ。
「それも奇妙な神託でね。何を司る神からの神託なのか解らないんだ。」
「司る神がわからないって・・・それじゃあ!」
「邪神神託と断定されてしまった。」
神は何かを司っている。逆に何も司っていない神は世界構成を歪める存在として邪神と呼ばれ排他の対象となる。古代魔法王国時代には神々の協力を得て邪神討伐の御技や宝具が作られたという古文書まで残されている。残念ながら古代魔法王国が滅んだ際にその御技や宝具の作成技術は失われてしまっている。
邪神神託は余りにも高位で歴史が古すぎるため現在に伝わっていない神である事があるため後に撤回されることもあるが、基本はその邪神を討伐することで神託を無効にすることが出来るといわれている。ただ、成し遂げたものはいない。
大抵は世を儚み自害するからだ。
「神託の内容は?」
「これがまた不思議でね。二つあるんだ。一つは生贄。もう一つは金色に幸あれ。」
「生贄はそのまんまだろ。邪神がこの世に顕現するための生贄。金色に幸あれ。これはおそらく俺たち金色の民の事を言ってるんだろう。」
そしてジークはスィーリアに視線を移した。
「これだけの器量よしがい婚約者もいない、結婚もしていない理由がわかったよ。運命という言葉は嫌いだが、どうやら俺がここに来たのは偶然じゃ無いらしい。お前を救うためのようだ。」