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移民希望者達

ジークが未開拓地の探索を本格的に開始してから半年が経過していた。

未開拓地での探索で遺跡を発見すれば蒼薔薇の面々と共に調査を行い、地理把握のための騎士隊による行軍練習など、当初の計画とは違うが少しずつ順調に発展と開発が進められていた。そんなロッツフォード領にも問題が発生していた。



「人手が足りねえ・・・。」

現在、農作業による未開拓地の開拓作業のみならず、毛玉たちの飼育やそこから取れる毛糸を使っての紡績業。牛もどきによる畜産業。さらには手をつけていない鉱山開発まである。

正直な話これ以上は人手が足りなく手の広げようがないのだ。

幸いにして毛玉たちが人の言葉を理解してくれるおかげで手間が掛からないのが救いだ。

「・・・やっぱり行ってみるしかねえか・・・。」

こうしてジークは伯爵宅に向かった。



「王都に行くか・・・。」

ジークの言葉にソルバテス=ロッツフォード伯爵もやはりと言う顔をした。

自分自身でも人手が足りないことを分かっていたのだ。

「・・・移民を募る意味は分かるよ。でも来てくれるかな? 正直に現在の状況を伝えても快諾してくれる人がいるかな?」

「・・・それでも行動するしかねえだろ。勿論王都だけではなく、クアートや南方にある妖精族領まで足を運んでみるつもりだ。大地の妖精族<ドワーフ>が何人か来てくれりゃあ御の字だよ。こっちの中央大陸に渡っている知人にも連絡を取りてぇから、あちこち巡ってみるつもりだ。だからまた、暫く留守にする。」

新しい家を建ててもらったばかりなのに殆ど留守にすることにバツの悪さを感じているジークに伯爵は承諾の意を伝えた。



「・・・で、何でお前らまでいるんだ?」

三日後旅支度を終えて出立しようとしているジークの前にスィーリアとクローディアが現れた。

きっちり旅支度を整えて。

「ロッツフォードに来るときは王都はほぼ素通り状態だっただろ? だから案内を兼ねて私達が手伝うことになったんだ。」

嬉しそうに言い募るスィーリアにジークは頭が痛くなった。

「・・・子供か俺は・・・。観光に行くんじゃねぇんだぞ?」

「スィーリア様が言うには数日と言って一月も留守にする人間は信用できないそうです。」

クローディアのこの言葉に呻きながら問いただした。

「・・・伯爵からなんて聞いたか知らないが、俺は今回南方の妖精族領まで足を運ぶつもりなんだぞ? 二月を軽く越える旅路になる。お前ら着いて来れるのか?」

この言葉に二人は顔を引きつらせた。



結局スイストリアの王都とクアートまでは二人が着いて来ることに決まった。流石にマテリア平原、アーメリアス王国を超え南方の妖精族領にまで足を伸ばせないと判断されたのだ。だが、この時ジークはまだ知らない。トンでもない結末が待っていることを。



この数ヶ月でジークの装備は変わっていた。ありとあらゆる場面に対応できるように汎用性の高い装備に切り替えたのだ。戦士としてだけではなく斥候職として魔術師といても対応できるようにしたのだ。まず、防具は強力な防護魔法が込められた布製の鎧<クロースアーマー>を着込んだ。これにアラミドやケブラーなど今では作り方が伝わっていない特殊繊維を使ったコートを身に纏っている。武器は背中に大き目の長剣<ロングソード>を背負い、予備の武器として左の腰脇に小剣<ショートソード>、右の腰脇に戦槌<ウォーハンマー>を下げている。そして「初期型」の魔道銃<スタッフガン>を装備している。

他にも隠蔽の魔法が込められたフード付の外套や投擲用のナイフ<スローイングガガー>も持っている。

なお、これらは全て魔法の武器であることは言うまでもない。

すでに実践で使い十分に手になじんだ品でもある。

今これらの品を使って賊たちと戦闘をしていた。



「殺せぇ!」

恐らくすでに何度も旅人や商隊を襲い味を占めたのだろう。

声の質に躊躇いもがない。

ロッツフォードの領地を出て数日は何事もなく過ごせた。

だが王都までもう少しと言うところで襲撃にあったのだ。

何せ美しい女性が二人もいるのだ。しかも相手は三人。二十人もいる賊としては襲うなと言うほうが無理であろう。

だが今回は襲った相手があまりにも悪すぎた・・・。



瞬く間にジーク達に賊は切り捨てられた。

そして逃げ切れないと悟り、命乞いを始めた。

「あっしらは元は農民なんだ! だが高い税を収めることが出来なくてこんな風にんっちまったんだ! 頼む! 見逃してくれ! 心を入れ替えて真っ当に働くから!」

「王都じゃそんなに高い税が掛けられているのか?」

「そ、そうなんだ! 日々の生活にも事欠くぐらいなんだ! なぁ!助けてくれよ!」

「・・・着ている服がずいぶん上等なものだな。」

「え?」

「商隊を何度も襲ってたんだろ。手馴れてるよ、お前ら。略奪の味を占めたお前らを生かしておく謂れはねえ。」

この言葉と共にジークの長剣が閃き首領の首を斬り飛ばした。



「・・・大丈夫か? スィーリア?」

ゴブリンという妖魔は切り捨てたことはあった。だが人は初めてて斬った。手に残る感触がまるで別物のように感じて気分が悪かった。

歯の根が合わずガチガチと鳴った。震えが止まらなかった。

「スィーリア」

そんな恐慌状態に陥っているスィーリアに声をかけジークが抱きしめた。

「怖いだろ。当たり前なんだ。人は人を殺すようには出来ていない。出来るほうがおかしいんだよ。だが、俺は慣れてしまった。スィーリアはこの怖さを忘れるな。お前まで俺のようになるな。」

そう言って背中を易しくなで続けた。



暫くして、恐慌状態が治まりやっと普通に話せるほどに回復したスィーリアの体調を鑑み、ここで野営することになった。

このときジークは野営地を留守にすることにした。賊のねぐらを探し出し、襲撃するためだ。身代金要求のため人質になっている人が居るかも知れないと判断したからだ。

そしてそこには予想内の光景があった。

粗野な賊共が何人もの女性に乱暴を働いていたのだ。

「やめて!」「いやあぁ!」「許してぇ!」

辺りには女性の嘆きと賊共の下品な笑い声が響いている。

(下種共が・・・。)

ジークも男だ。女性に対して劣情を抱くことはある。だが、殴りながらや首を絞めながらなど、そんな猟奇じみたことはしない。

それでも自分の中にある姦淫の「力」が疼きだす。

先ほど抱きしめたスィーリアの感触を思い出される。

(クソッタレが!!)

ジークは賊どもを斬る伏せるべくなだれ込んだ。



賊のねぐらには結局二十人もの女性が捕らわれていた。暴行の後がひどくとても見られたものではなかった。他にも奪い取った財宝や商隊の積荷らしきものが山ほどあった。これだけ乱暴をされた女性の相手は男の俺には無理だと悟り、スィーリア、クロ-ディアの両名を呼び寄せることにした。

王都を目前としてトンでもない足止めを食らったのだった。



このねぐらにはもう五日も滞在している。

心身ともに傷ついた女性の看護をしているのだ。幸いにして食べ物だけはたくさんあるため食うに困ることはない。魔術により体もある程度回復している。

問題はこの女性達をどうするかと言うことだ。このまま王都に連れて行けば何があったのかと噂が噂を呼び王都に居づらくなるだろう。彼女達もそれが分かるのか表情が暗い。


そんな女性陣にあっけらかんとジークは言い放った

「面倒ごとからかけ離れてえだろ? じゃあロッツフォードに来れば良いじゃないか。ソルバテス=ロッツフォード伯爵が治める土地で税も安いし、辺境だから開拓し放題だしお得だぞ?」

女性陣もロッツフォードの名は知っていた。スイストリ王国の東部辺境に追いやられた人物だと。何故、辺境伯になったのかは知らないが、この話に皆一も二もなく飛びついたのだ。



「しっかりしてますね。恩を売るだけじゃなく労働力としても確保ですか?」

クローディアはこの手腕に呆れていた。

なお、言った本人は、

「全員飛びつくとは思わなかったんだよ。二、三人ぐらい食いつくかなあと思ってたんだよ。」

と、頭を抱えた。なぜ、頭を抱えたかというと彼女達が来ても住むべき家が無いからだ。帰ったら伯爵に相談しようと心に決めるジークであった。



更にそれから数日、いつまでも賊のねぐらにいる訳にもいかない。意を決し、総勢二十三名は王都に向かうのだった。



胸を張り堂々としていること。

事前にジークから言われた注意事項である。

オドオドしていたらいらない噂が流される。だから、助かってよったという表情をすること。と言われたのだ。

だがこれだけの数となると番兵に止められた。

当然注目を集める。

女性陣は懸命にジークの言いつけを守り、胸を張り何も無かった、助かってよかったという表情を上辺だけでも取り繕っていた。

「賊を討伐してくれたと言う事だがそちらの女性達は人質にでもなっていたのだろうか? 事実関係が確認され次第褒美がもらえるだろう。それまでは所在をはっきりとするように。」

首領の首級、奪われた荷の一部を持ってきたことが功を奏した。

こうしてジーク達は王都入りを果すのだった。



指定された宿屋に入ったあとジークはすぐに行動に移った。ただでさえ日数を取られたのだ。最悪、妖精族領へ行くことか各国を回ることを諦めねばならない。

冒険者の店をはじめ各方面に移民希望の情報を流した。

だが、遺跡が多数発見されているにもかかわらず冒険者の反応が芳しくない。

利に聡い商人達も何故か二の足を踏む。

(何だ? 反応が鈍過ぎる・・・。)

商人組合<マーチャントギルド>で受付に袖の下を通しやっと何が起こっているのかを教えられジークは内心激怒した。



「クソッタレが! やってられっか! こんなもん!」

「ジーク!」

「ジーク殿! いったいどうしたのですか!」

宿に戻る早々、ジークは荒れに荒れていた。そんなジークにスィーリアとクローディアは驚き問いかける。

「どうもこうもあるか! 王家の連中トンでもないことしやがった! 今の国の状態が悪いのはロッツフォードのせいにしていやがるんだよ!」

これにはスィーリアが過敏に反応した。

「ロッツフォードのせいとはどういうことだ!?」

「スイストリアはジルベルクとの戦争に備えている。ここまではいいか?」

うなずく二人を見て話を続ける。

「そこで軍事費を捻出するために削れるところを削っている。報奨金とかをだ。」

「・・・・・・。」

「当然削られれば面白くないよな? こうなると不満が王家向けられる。そこである言葉を言い訳にしてそれを逸らした。」

「ある言葉ですか?」

「それは何なのだ?」

「『北部未開拓地の開発に費用が掛かっているせいです。』だと!」

「「はぁ!?」」

「ご存知のとおり開発費は伯爵が自腹を切って捻出している。銅貨一枚足りとて王家から貰っちゃいねえ! なのにこんな話が流れているせいで商人はおろか冒険者連中もロッツフォードに行ったが為に目を付けられると王家の祟りを怖がって二の足を踏んでんだよ! スイストリアでの人材確保は絶望的だ!」

「・・・普通ここまでするでしょうか?」

「ジルベルクの策謀を阻止したのがロッツフォードだというのが面白くなかったんだろうよ! 持ち上がった株を無茶苦茶な手を使って一気に落としやがった!」

「これはあんまりだ! 父上が何をしたというのだ!」

「・・・スイストリアがこの状況じゃたぶんクアートはもっと酷いぜ。」

「クアートがですか?」

「おうよ。あそこは自治領だ。そのため良くも悪くも実力主義だ。この程度の情報に流されるようなところには移民させてくれはすまいよ!」

「そんな・・・。」

「こうなりゃ、雀の涙の報奨金貰ってさっさとロッツフォードに帰るべきだぜ。

少なくともここに長居する理由は無くなったんだからな!」



数日後の早朝、報奨金が渡されたが非常に軽いものだった。

(賊が溜め込んだ財宝だけでもかっぱらいでおけば良かった・・・。)

こんなことになっているとは知らなかったためジークは積荷はおろか溜め込まれていた財宝までそっくりそのまま渡したのだ。賢者としての性か財宝の鑑定は行ってそれなりの価値しかないと知っているのが幸いと言うべきか・・・。

(くそったれが! 報奨金をここまでケチり続けるんだ。商隊の積荷や溜め込まれていた財宝は持ち主を探す事無く全部王家が徴収するに決まっている! それどころか今の風潮をのさばらせておけばロッツフォードは孤立してしまう。独力でどうにかなるにはもう少し時間が必要って言うのに!!)

こうして非常に嫌な気分を朝から味わうのだった。



長居は無用と言うことでさっさと宿を引き払おうとしているジーク達に来客の旨が伝えられた。現れたのは女性の一団。賊どもに辱めを受けた女性達だ。

「やはり良くない噂が酷くここには居ずらいのです。私達をロッツフォードの移民として受け入れてください。お願いします! 断られたらもう行く所が無いんです!」

「いいのか? 家は悪名高きロッツフォードだぜ? 王都にいた方がましだったって目に遭うかもしれねえぞ?」

ジークのこの言葉に女性は首を振る。

「・・・噂はあてにならないと身をもって知りました。生き残りたいから腰を振ったんだろう!この売女 と夫に罵られました。ここにいる全員が似たような状況です。・・・中には貴族筋の方もいらっしゃるんです。」

この言葉を受けて一人の女性が前に進み出た。私がそうですと会釈をした。

これにはジークも驚いた。

「てことは身代金の要求があったはずだろ? 五体満足できれいなまま返すのが普通じゃねえか?」

これにも又、首を振り否定する。

「賊は約束を破り、陵辱の限りを尽くして返還しなかったのです。」

「・・・・・・。」

進み出てきた女性はただハラハラと涙を流している。

「でも、何で? 一応貴族なら尼に入るとか・・・。」

「出来なかったんです! 父も母も私を汚物を見るような目で見るのです。知っている人が来るかもしれない教会でなんか働いて、もし同じ目で見られるかと思うと耐えられないいんです! お願いします! 誰も知らないところで一からやり直したいんです!」

ひどい興奮状態になった女性をなだめながら代表らしき女性に再度向き合う。

「お願いします、若様。私達の移民を受け入れてください!」

「・・・・・・ちょっと待て。何だ、今の若様ってのは?」

「えっ!? そちらの女性がそう呼ぶようにとおっしゃっていたのですが?」

そう言ってクローディアの方を指し示す。

「私は酒の力借りました。」

「「は?」」

スィーリアと共にジークは疑問符を浮かべる。

「初めて人を斬った日のことですよ。ですがジーク様は初めて人を斬った事による恐慌状態に陥ったスィーリア様を落ち着かせようと抱き寄せ背中をさすられました。その姿はとても絵になりました。スィーリア様とご結婚されたらそう呼ばれるのですから今から慣れておくべきかと。」

当時の事を思い出したのだろう。顔を真っ赤にしてスィーリアは言葉にならない声を上げる。

対してジークは冷静にクローディアに質問する。

「・・・伯爵に何て言われた?」

「少しでも既成事実を作らせるようにと。」

しれっと答えるクローディアに激しい頭痛を堪えながら、脱線した話を元に戻した。

「簡単に移民とか言うけど、実際はそんな生易しいもんじゃねえんだぞ? それでもいいのか?」

否と言う者は一人もいなかった。

「じゃあ今日からお前さんらはロッツフォードの領民だ。あと若様呼ばわりは止めろよ。」

こうして二十名もの女性だらけの集団を領民として確保したのだった。

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