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探索

大剣が唸りをあげホブゴブリンを両断する。

この大剣の主はジークだ。

未開拓地に入ってから二十日が過ぎていた。

ジークはまず、北に向かい海を目指した。そこから東へ移動し川を探して源流にさかのぼるように行動することを繰り返していた。

当然のように戦闘は何度もあった。ゴブリンをはじめとする下級の妖魔や欲望に忠実な豚人間<オーク>、凶暴な食人鬼<オーガー>等といったより高位の魔物までもが出没し、探索の妨げとなっていた。中には忍びよるもの<ストーカー>などと言う魔法生物までいたのだ。幸いにしてドラゴンや巨人にはまだ出くわしていない。

だが、ジークは戦役大陸の未開拓地域を踏破した猛者である。

全てを切り伏せて着実にその探索範囲を広げていった。



「忍びよるもの<ストーカー>なんてめんどくせえのが近くにいたって事は魔法王国時代の研究施設後があるのかも知れねえな・・・。」

ゴブリンの巣などろくな物がない。だが、ジークのこの言葉が示すとおり近くに「遺跡」がある可能性が高い。そう思いゴブリンの巣を漁っていた。ごく稀にゴブリンの巣穴が遺跡に繋がる事があるからだ・・・。



「・・・当たりだ・・・」

巣穴の奥に石造りの通路が広がっていた。ただ日数が経過して白骨化したゴブリンの死骸もあった。恐らく防衛設備としての罠にやられたのだろう。

ジークは慎重に歩みを進めた。



何体もの骨の従者<ボーンサーヴァント>や石の従者<ストーンサーヴァント>を倒して幾つもの罠を解除して踏破した施設は魔法生物の研究施設だった。「この遺跡では」魔法の武具は見つからなかったが、変わりに古代魔法王国時代の貴重な資料がいくつも見つかった。魔術師組合<マジックギルド>なら高値で買い取ってくれるだろう。

「とりあえずここまで土産が出来れば上等だろ。」

そう言ってジークは遺跡の中にある品を「全て」持ち帰るのだった。



そしてジークは怒られた。理由は一月近く帰ってこなかった事。ただこれに尽きる。



「いや、今回はジーク君が悪いよ? 数日とか言っておきながらほぼ一月帰ってこなかったんだからね? 反省している? 心から?」

「・・・いや、ほんと悪かったと思ってるよ。俺もつい戦役大陸で一人でやってた調子でやっちまったからな。少なくとも連絡の事を失念していたのはこちらの落ち度だ。今後は気をつけるよ。それに、幾つも遺跡があるもんだから夢中になって探索してしまったんだよ・・・。」

ジークはスィーリアを中心とした蒼薔薇や村の面々に散々に絞られていた。

ソルバテス=ロッツフォード伯爵としても弁護する気はなかったが、一応の報告を聞かねばならないためにジークの身柄を一時預かったのだ。もっとも報告が終われば槍玉にあがるのだが・・・。

「それで成果はあったの? 遺跡をいくつか見つけたって言ってたけど?」

「面白いように見つかったよ。ただ、今回の収穫で大きいのは遺跡からの発掘品だけじゃなく動植物のほうもだな。」

「・・・使えそうなものがあったのかい?」

「あぁ、いくつも使えそうなものがあった。今すぐに出来るものもあるが、中長期的に見て農産業、畜産業、紡績業の主軸に出来そうなものとか色々あるぞ。」

「それじゃあ後で資料としてまとめて提出してね?」

ものすごく意地悪な顔で伯爵はジークに言い放つ。

「・・・いや今後のことを考えるときちんと報告したほうがいいだろ。直接。時間をとってきちんと報告するよ。今から。」

「・・・いいからドアの前でてぐすね引いて待っているスィーリア達に怒られてきなよ。悪いのは自分だって分かってるでしょ?」

こうして、ジークはスィーリア達に引き渡されほぼ半日、日が暮れても怒られ続けたのだった。



ジークが帰還して一通り怒られた翌日、早速報告資料の作成に取り掛かっていた。旅人の安らぎ亭の宿泊箇所では広げられない位あるということで臨時で立てられていた掘っ建て小屋、ジークの自宅が出来るまでの仮住まいの場所、で作業することになったのだが、スィーリア達は持ち帰ってきた品々の数に呆気にとられて眺めていた。

「・・・これだけの品をジークはどうやって持ってきたんだ・・・?」

スィーリアの問いかけはもっともな事だった。魔法の武具一式がいくつか。古代魔法王国時代の貴重な資料や装飾品が山ほど、幾つもの植物の見本、鉱石など多岐にわたる。一人で持ってきたとは到底思えない量なのだ。

「これでもまだ一部なんだがねぇ。そこはほれ、これの出番で・・・」

「! それはまさか魔法の収納袋ですか!」

ジークが見せた背負い袋にエドワードが真っ先に食いついた。

「魔法の収納袋? 何だいそりゃ? いやまあ入れ物ってのは分かるけど。」

このサンドラの発言にミーナが説明をする。

「正式には無限の収納袋と言う魔法の道具なんです。なんでも、いくらでも、いくつでも入れることができて中に入れている間は時間の進行が止まる優れものなんです。」

「へぇ、便利なモンがあるんだね。」

そう言って乱雑にジークから受け取ったリンにエドワードが追加の説明をした。

「ちなみに捨て値でも金貨二千枚はするんですよ?」

「え? 何それ? 怖い。」

ジークの手にそっと戻すのだった。



ジークは資料の作成に更に時間をとられていた。そんなある日、ちっとも顔を見せないジークが心配になってスィーリアが尋ねて来たのだが、ある光景を見て眉をひそめたのだ。

掘っ建て小屋が四つに増えているのだ。そしてそこからギコギコギコギコ音がする。小屋の周りには見た事がない植物がいくつか植えられている。他にも謎の毛玉のような丸い生き物が草を食んでいる。ウサギを毛むくじゃらにしてでかくすればこのような感じになるだろうか。ただし大きさが人間の背丈ほどもある。

「・・・ジーク? いるか? いたら返事を・・・して欲しいな・・・?」

下手な夜の廃墟より怪しい小屋に勇気を持って問いかけるとジークの声が聞こえてきた。

「今、ちょいと大事なところだ。ゴン達と一緒に遊んでろ。」

このゴンというのが丸い毛玉の名前なんだろう。こちらを振り返った。

しかも「キュイ」と一声鳴いた。どうやら言葉が分かるらしい。そうして呆然と眺めていると同じような生き物が小屋の影から三匹現れた。

「・・・ジークこの子達が何なのか先に説明して・・・。」

危害は無いと分かっていても未知の生物に取り囲まれてスィーリアは泣きたい気分になった。



「魔法動物?」

スィーリアは謎の毛玉について説明を受けていた。

「あぁ。魔法王国時代に動物実験を繰りかえりていたらたまたま出来たらしい。自分達で繁殖することも出来るから羊とかの変わりになるかなあと思って連れて来た。他にも番犬代わりの魔法動物とかを村の近くに潜ませてるぞ。あと幻獣も。」

「他にも?」

「あぁ。バカでかい犬のオルトロスに熊のタイユウ。後は幻獣のグリフォンとか。小屋の一つは魔法動物の研究施設と繋げてるからまだまだいるぞ?」

「父上たちにはちゃんと報告したのか! 少なくとも私は知らなかったぞ!」

「知らせてるに決まってるだろ。オルトロスなんか下手な雄牛よりでかいんだぞ。そんなのが村の周りのそのそ歩いてたら大混乱になるだろ。畑を荒らす猪とかの害獣を自分でしとめて餌にしているようだしな。農作業をしている人たちからは好評を得ているぞ? タイユウなんか勝手に山に入って迷子なった子供を連れ帰ってきたり領民に受け入れられてるぞ? 何で知らない?」

「何で誰も教えてくれないんだ!」

実の話をすればスィーリアはいつもジークの所に入り浸っていると勘違いされていてもう、知っているものだと思われているだけなのだ。

「・・・とにかくこれらが産業に繋がるのだな。」

「おう。ゴン達のおかげで紡績業を行うことが出来るぞ。あいつらの毛艶は上等なモンだからな。家畜として扱える魔法動物もいる。こいつは戦役大陸でも食されているから安心していいぞ。見た目は牛に近いせいか旨いぞ。乳も取れるし良い事尽くめだ。」

「それじゃあ、表に植えている食物は?」

「殆どが食いもんだ。麦とかの変わりになりそうなもの。雑穀とか言われている物だ。味はいまいちだが、自分達で食う分にはかまわないだろ。悪天候にも強いしな。それに上手く加工すりゃ特産品として売り出せるかも知れねえし。」

その他にも村の近くに鉱山があることなどを教えられた。

ただただ驚くしかなかった。

ジークはこの一月ちょっとで村に農業、紡績業、畜産業、鉱山の発見そして村の護衛を任せられる番犬などを揃えて見せたのだ。



「僕は羊皮紙の山が来るもんだと思っていたんだけど・・・。」

今、ソルバテス=ロッツフォード伯爵の前には一冊の本が置かれている。

取り合えず確認してきた分の報告を出すとの事だったので期待していたのだ。

羊皮紙の山を。

ところがあるのは一冊の本、この程度にしかまとめられないほど北部未開拓地は資源が無いのかと軽く絶望したのだ。結局は遺跡で誕生した魔法動物に頼るしかないのかと暗澹たる思いになった。

「まぁ、開いてみて下さいな。」

こうジークに言われ開いてみて驚いた。麻色で一枚一枚の羊皮紙の革が凄まじく薄いのである。否、そもそも羊皮紙なのかが疑わし。驚きをジークにぶつけようとすると先に答えが返ってきた。

「そいつは植物から作った紙だよ。そいつのでかい一枚ものを作って北部未開拓地の地図を作成中だ。」

伯爵は驚き、手にある本を眺めた。何枚あるだろうか? 百枚はあるだろうか?

ひょっとしたら二百枚かも知れない。これがみな北部未開拓地から取れるかもしれない資産の情報だとしたら価値は膨大なものになる。

「これで未開拓地のどれぐらいに相当するんだろう・・・」

「遺跡から昔の地図を見つけてる。もしその地図が正確なら約一割ってとこだ。」

「これで一割なのかい!?」

「・・・なぁ、伯爵。こうなったらトコトン未開拓地の開発をしてみねえか?」

これに力強く伯爵はうなずいた。

ジークたちの探索はまだ始まったばかりだ。

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