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報奨金

目の前の光景に多少肩をこけさせながらジークは問いただした。

「なぁ、伯爵よ。」

「他人行儀だなぁ、いつになったらお義父さんと呼んでくれるのかな?」

ジークの態度はおよそ貴族にとるべきものではないが、それをさらりと受け流してトンでもないことをのたまう伯爵も伯爵である。

「・・・俺に両親はいねえし、誰とも結婚してねえよ。それよりこれは何だよ。これは!」

目の前には基礎工事をしっかりとした土台が出来上がっていた。もっともこの規模になると家とはいえない。少なくとも館と言うだろう。

「着工したって言うから見にきてみりゃあ何だよこりゃあ! この規模からみて伯爵宅の二回り以上はでけえじゃねえか!」

「え? 家のスィーリアが嫁に行く家だよ? しっかりした物じゃないと困るじゃないか。」

「あんた、本気で言ってたんか!」

「冗談だと思ってたのかい?」

「・・・そうか、こうやって既成事実を作っていくつもりなんだな・・・。」



ゴブリンロードの襲撃から一月がたちジークの自宅建設が始まったのだ。

もっとも先ほどのやり取りから分かるようにトンでもない大きさの家になりそうではあるが・・・。

この一月で変わったことはいくつかある。まず、自警団が出来上がったこと。十名強の人数ではいくら小さくても村全土を守ることは出来ない。そのため武器の扱いに心得がある者達で結成されたのだ。他にも騎士隊の練度があがったことや、見張り櫓の建設、柵を二重にすること、堀の構築などなど村が少しずつ変わり始めてきていた。それとは逆に変わらねばならないことが変わらずに残ってしまっていた・・・。



「普通、コレだけの事がありゃ当主を王宮に呼んだりしねえか?」

ジークが言っているのは先月摘み取ったジルベルク帝国による禍の芽のことだ。

普通であれば王宮へ呼ばれ労いの言葉をかけられ、褒美として報奨金か領土、もしくはその両方をいただき、場合によってはより高位の爵位を貰うこともある。にも拘らず今回は王宮にすら呼ばず、手紙による一文のみで労い、報奨金を渡され終わったのだ。ありえ無い事である。

「だから言ったでしょ? 疎まれてるって。ひょっとすると期待もしてないのにこんなことしやがってって思ってるかもね。」

(こりゃ顔を合わせるたびに放たれる苦言が理由じゃねえな。もっと別な何かが意図的に伯爵をここに移封しようとしている。)

そんなジークの考えを読んだのか伯爵が声をかける。

「たぶん僕はこのまま飼い殺しにされるだろうね。」

「やはり何かあるんだな・・・。」

「今のスイストリアは主に二派に分かれている。法王国派と独立派だ。法王国派は同盟国であるファーナリス法王国と同盟を強化しマテリア平原を両国で割譲して共にジルベルク帝国に抗おうと言う派閥。独立はそのまんま。法王国との同盟を破棄し単独によるマテリア平原の併合とジルベルク帝国の打倒を謳ってるんだ。僕は法王国派で活動していたんだ。ジルベルク帝国なんて軍事国家に単独では抗えないよ。人材、軍事費、ありとあらゆるものが劣っている。でも、だからと言って民を省みない国家運営を見過ごすわけにはいかないから目をつけられるのを覚悟して苦言を呈し続けたんだ。そしたら、ならばお主がやってみよという言葉と共に伯爵となって未開拓地の開発を行うことになったんだ。そしてロッツフォード辺境伯の出来上がりと言うわけさ。」

「宰相、宮廷魔術師、騎士隊長、は独立派か・・・。」

「ご名答。ちなみに陛下も乗せられて独立派だよ。マテリア平原を飲み込めばジルベルク帝国と互角の勝負が出来ると考えてる。」

「無理だな。逆手に取られて攻め込まれて滅びるぞ。何より軍事国家というのをなめすぎだ。軍事国家は戦争を前提に国の運営方針が決まっていると言って良い。それを支えるには自国の産業をはじめとする国力がモノを言う。お世辞にもスイストリアがジルベルクと互角に渡り合うのは不可能だ。たとえマテリア平原を併合してもその国力の二倍は必要だ。スイストリアは国土面積に対してあまりにも国力が弱すぎる。」

「そのとおり。主だった産業がないから金を稼ぎにくい。農業、鍛冶鉄鉱、水産業どれもこれもが他国の後塵を拝する。」

「そんな中で同盟破棄なんざやらかしたら独立どころか孤立する。絶対に避けねばならない事態だ。むしろ帝国が次の手を打つとしたらそこあたりか・・・。」

「もう打ってくると思うかい?」

「というよりもう打たれてると思うぜ・・・。」

ジークの言葉に伯爵は顔を歪める。

「あくまで推測だが、独立派を焚きつける何らかの手を打ってるはずだ。そうして孤立への道を歩ませれば勝手に脆弱化してくれる。ファーナリスはそんな国を攻め落とそうとはしないだろうが同盟破棄をされた手前助力は望めねえ。結果ジルベルクはスイストリアと戦をして勝利を治めるだろう。そこにマテリア平原というおまけまでつく。加えてこれにより北部未開拓地と繋がるんだ。妖魔の軍勢を今まで以上に構成しやすくなる。そうすればファーナリスを南北から挟撃できるしな。この手を逃すはずはねえ。」

「なるほど、だから報奨金が少なかったのか・・・。」

「は?」

「だから、報奨金が少なかったんだって。僕が相手だからかもしれないけれど考えていた最低金額よりも少なかったんだ。恐らく、独立派が軍事費にかける割合を多くしているから削れるところは削ろうと必死なのかもしれない。願わくばこの扱いが全員に対して平等に行われていない事を願うよ・・・。」

「バッカじゃねえの! バッカじゃねえの! 褒美をケチられたら誰だってやる気なくすわ!」

そしてジークため息をつきもっと踏み込んだ事を問いただした。

「・・・なあ、伯爵。伯爵の中じゃもうスイストリアは墜ちているんだな。だから中央の嵐に巻き込まれにくいこの左遷を喜んでいるんだな。」

「吹けば飛ぶような辺境の貧乏伯爵に戦は仕掛けてこないでしょう。」

そう言って伯爵は静かに微笑んだ。

「そうとも限らないぜ。」

ジークのこの発言に顔を強張らせる。

「ゴブリンロードの一件さ。」

「!!」

伯爵はこれで合点がいってしまった。

「帝国はここロッツフォードを重要な拠点と見ている。その証拠が前回の一件だ。これからもちょっかいをかけてくると思うぞ。それに本国のスイストリアがこのままロッツフォード領を静観するとは考えにくい。未開拓地の開発を急がせて国力増加に繋げようとするに決まっている。たとえ伯爵にどれ程負担が掛かろうともだ。」

ジークの発言の意味を聞かされソルバテスは歯を噛み締めていた。

「行くも地獄、戻るも地獄か・・・。」

「・・・最悪領民ごとファーナリスに亡命することを考えておこうぜ。」

だが、ジークの中では北部未開拓地を如何にかしようと言う考えがあった。



「それぞれで探索する?」

蒼薔薇の面々は突然のジークの申し出に困惑していた。

たかが一月、されど一月。この一月の間にジークの指導により蒼薔薇の面々は実力を数段上げていた。

「こっちもこっちでノッピキならねえ事情が出来たんだ。具体的に言うと未開拓地を開発しねえとロッツフォード領に危機が訪れるかもしれない。そのためにしばらくの間は未開拓地の探索を重視する。帰って来ねえ日もあるだろうから稽古も暫くは中止だ。伯爵の承認も得て、騎士隊の連中や自警団にも了承を取ってきてある。」

「言いたい事は分かりますが先生・・・。」

「先生がそう言うのならかまわないけど、ただあまりにも突然だからさ。エヴァンの奴なんか駄々をこねなかった?」

「駄々なんてモンじゃねえよ。何故ですの連呼で喧しいったらありゃしない。問答無用で振り切ってきた。」

ミーナとリンの言い分に答えたジークは最終確認としてヴィッシュを見る。

「ジークがそういうのならそうしましょう。・・・気をつけてジーク。」

こうしてジークは旅人の安らぎ亭を後にした。



ジークは村の視察をしているスィーリアを探した。さほど大きくもない村だ。すぐに見つけることが出来た。

「スィーリア、ちょっといいか?」

ジークは基本仕事中には仕事の話しかしない。視察中の自分を呼び止めたと言うことは仕事の話だとあたりをつけ、共に付いているクローディアと共にジークの元へとよってきた。



「報奨金一つでそこまで考えるか? 穿ちすぎではないか?」

伯爵宅でのやり取りを簡潔に話し自分が未開拓地の開発に携わるため数日は帰らない日があることを伝えた。

「策略としては悪く無い手だと思うぜ。それにスイストリア本国がこの件を機に伯爵を遊ばせておくつもりはなくなるだろう。開発に力を入れろと言ってくるぜ。賭けてもいい。」

「よし! では賭けをしよう。私は命令が来ない方に賭ける。ジークは命令が来るほうに賭けるでいいな?」

「あぁ、それで良い。で、何を賭ける?」

「相手の言うことをなんでも一つきく事とかはどうだ?」

この発言にクローディアとジークは顔をしかめる。

「スィーリア様・・・。」

「・・・年頃の女性が言うべき言葉じゃないって事を自覚しているか?」

「???・・・・・・! ジ、ジークはそんな事を望んでいるのか!」

顔を真っ赤にするスィーリアにジークは言う。

「・・・そういう誤解を生むから、今後はもうちょっと考えてから言おうな。」

「い、い、いや、騎士に二言は無い。何でも言うことをきくで良い!」

「いや、二言あってもいいからそんな事大声で言わないでくれ。こっちが恥ずかしくなる。それにお前さん正式な騎士じゃねだろ。そうだろ? クローディアの姉ちゃん。」

「そうですね。騎士隊の詰め所に入り浸ってはおりますが、正式な騎士としては登録されておりません。」

「・・・。」

さっきまで真っ赤にしていた顔が見事に膨れる。

「もっとこう、簡単なもので、そう! 食事をご馳走するとかで良くはありませんか?」

とりなそうとするクローディアにスィーリアは意地になって言い放つ。

「絶対に何か言うことをきく! これで良い!」

クローディアが視線で了解を取りに来る。

(絶対に無茶なことを言わないでくださいね?)

(分かってる。俺だってそこまで馬鹿じゃない。)

この視線のやり取りになお一層膨れるスィーリアだった。


「さて、行くとしますか。」

スィーリアと賭けをした翌朝、ジークは一人で未開拓地への調査に入った。


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