ケーキより甘く
葉月「クリスマスかぁ…」
そう、今日はクリスマスイヴ。恋人や家族と過ごす特別な日。
なんだけど…
お母さん「葉月!このリストに書いてあるケーキ、クリスマス用のラッピングお願い!」
お父さん「葉月!手が空いたらこっちも手伝ってくれ!」
葉月「は、はい!」
…とまあこんな感じで、忙しくてそんなこと言っていられないの。
私の名前は雪村葉月。
私の家は人気ケーキ店で、普段も忙しいけれど、特に忙しくなるのが、毎年このクリスマスシーズン。
お母さん「葉月!ラッピング終わった?」
葉月「こっちのラッピングは終わったよっ!」
葉月「そう言えば斗真は?」
お母さん「さっき買い出しに出て行ったけど…」
葉月「あいつ…またサボったのね!」
斗真「俺がどうかしたか?」
葉月「!!」
いつの間に帰ったのか、斗真は私の背後に立っていた。
葉月「お、驚かさないでよ!」
斗真「悪いな、チビで見えなかったわ」
葉月「〰〰!!」
こいつは近所に住んでる岬坂斗真。
小さい頃からいつも意地悪で、性格がひん曲がってるんじゃと思うくらい嫌な奴。
だけど私の両親と斗真の両親は意気投合していて、毎年クリスマスシーズンになると、
斗真の両親はお店の手伝いをしに来てくれる。
だけど、こいつだけはイヤだ。
なぜかって?
そんなの…
女性客1「キャー!!」
女性客2「お兄さんカッコイイ!!」
女性客3「写真撮らせて下さい!!」
始まった…
毎年のことながら、つくづく思う。
性格は悪いくせに顔だけはいいというやつですよ。
斗真「おい、葉月!写真撮ってくれ!」
でた。俺様発言。
葉月「……」
斗真「おい、聞いてるのか?」
葉月「分かりました、撮ればいいんでしょ!!」
いつもこうだ。
人を使用人扱いみたいにして!
仕方なく写真を撮ると、女性客達は笑顔で去って行った。
葉月「まったく。毎年毎年…」
斗真のどこがいいんだか分からない。
斗真「なぁ…」
お母さん「葉月ー!こっちはだいたい終わったから、パーティーの準備、してきてちょうだい!」
葉月「は~い!斗真、今何か言った?」
斗真「いや。何も言ってない」
葉月「そう。じゃあ私パーティーの支度してくるね」
斗真「ああ」
斗真が言いかけたことを気にしながらも、私はパーティーの準備に取り掛かった。
やがてお店が閉店すると、私の両親と斗真の両親がこちらにやってきた。
お父さん「はぁ~疲れた」
斗真父「ほんと、毎年ご苦労様です」
お母さん「毎年手伝っていただいて。本当に助かります」
斗真母「いえいえ。こちらこそいつも息子がお世話になって」
お母さん「あらやだ、それを言うならうちの娘だってお世話になって」
部屋に入ってくるなりわいわい話す両親に、ここはお見合い会場か!とツッコミたくなったが、
それをグッと堪え、席に着いた。
斗真「なぁ…」
いつの間に来たのだろうか、斗真が私の隣にいた。
お父さん「えー、今日はお疲れ様でした!今日は遠慮なく飲んで食べて下さい!」
斗真父「では、乾杯!」
全員「乾杯!」
斗真「……」
乾杯をし、みんなが談笑している中、斗真だけがいつもとどこか違う気がした。
葉月「斗真、さっき何か言おうとしてたよね?」
斗真「…何でもねえよ」
斗真はそう言うと、そっぽを向いてしまった。
お父さん「葉月~!冷蔵庫からビール2本持ってきてくれ!」
葉月「は~い!」
私は返事をすると、キッチンへ向かった。
葉月「ええと…ビールは…」
斗真「おい」
葉月「!!」
いつの間についてきたのか、斗真が私の後ろに立っていた。
葉月「もう!驚かさないでよ!」
斗真「それはどうもすみませんでした」
いつもと変わらない会話に、私は妙な違和感を感じた。
葉月「…斗真、今、すみませんでしたって言った?」
斗真「!!」
斗真「わ、悪いかよ」
めずらしく歯切れの悪い斗真は、どこかそわそわしている様子だった。
葉月「ゆ、雪が降るんじゃ…ってもう雪降ってるし!」
外を見れば、いつの間にか真っ白い雪が降っていた。
葉月「ねぇ、せっかくだし、外行こうよ!」
思わずそう口にして後悔した。
斗真「はぁ?何で俺がお前と一緒に行かなくちゃいけないんだよ」
葉月「それは、ビールが切れてて…」
ああ、なんでこんな奴を誘ったんだろう…私のバカ!
斗真「ったく、仕方ねぇから一緒に行ってやるよ」
…え?一緒に行ってくれるの…?いつもなら勝手にしろって言うのに…。
斗真「ほら、さっさとしないと置いてくぞ?」
葉月「う、うん…」
いつもより妙に優しい斗真の態度を不思議に思いつつ、私達は外へ出た。
葉月「うわ~!綺麗!」
外に出ると、辺り一面が真っ白い雪に覆われていた。
斗真「まったく。雪ではしゃぐなんて、子供だな」
雪ではしゃいでいる私に斗真は呆れたように言った。
葉月「だって、雪ってケーキで言うと生クリームみたいじゃない?」
斗真「どんだけ食い意地張ってるんだよ。ま、お前らしいけど」
葉月「それ、褒めてるの?けなしてるの?」
斗真「さあな」
素っ気なく言ったわりには顔が少し赤い。
葉月「ふふっ…」
斗真「な、何がおかしいんだよ」
葉月「別に。ただ斗真って昔から変わらないなぁ~って思っただけ」
斗真は昔からすぐに顔に出るタイプで、今でもそれは変わっていないようだ。
葉月「それにしても、せっかくのホワイトクリスマスなのに、斗真と一緒なんて…最悪」
斗真「…」
いつもなら“それはこっちのセリフだ!”とツッコんでくるのだが、斗真は黙ったまま、
私の腕を掴むと、ぐいっと自分の方へ引き寄せた。
葉月「っ!」
引き寄せられた私の体は、すっぽりと彼の腕の中に収まった。
突然のことに驚いた私は、斗真の腕から逃れようとした。
だが彼は私を逃がさないとでも言うように、腕に力を込めた。
葉月「ちょ…離して!」
斗真「やだ」
葉月「!!」
斗真はそう言うと、私の顎を上に持ち上げた。
街灯に照らされた斗真は、まるで獲物を仕留める狼のようだった。
斗真「最悪って聞こえたけど…」
斗真はそう言うと、ニヤリと笑った。
斗真「お仕置きが必要だな」
葉月「!!」
そう言うが早いか、私の唇に、温かくて柔らかいものが当たった。
う、嘘…私、斗真とキスしてる…?
だがそれはほんの一瞬で、すぐに離された。
至近距離で見つめ合うと、斗真が口を開いた。
斗真「俺…お前のこと…昔からずっと、好きだったんだ」
葉月「…」
突然の告白に、声が出ない。
だってこいつは、いつも意地悪で、性格がひん曲がってるんじゃないかと思うくらい嫌な奴で…。
なのに…胸がドキドキする。もしかして私…本当は…斗真のことが…“好き”なの…?
そう思うと、その言葉がストンと胸に落ちた。
そして確信した。
私…斗真のことが好きなんだ…。
今までは気づかない、いや、気付いていても、心の底にしまってあったんだ…。
そうだ、そうだったんだ…。
葉月「ふふふっ…」
そう思ったら、なんだか笑えてきた。
斗真「な、そこ笑うところかよ」
呆れたように言う斗真に、私は笑顔を返した。
葉月「ううん。私も斗真が好きだったみたい」
斗真「!!」
私の言葉に斗真は固まった。
斗真「…だったみたい?」
葉月「うん。だって、いつも意地悪で、
性格がひん曲がってるんじゃないかと思うくらい嫌な奴だと思ってたし…」
斗真「…いい度胸してるじゃねーか」
葉月「あはは…」
斗真「お仕置きだ」
斗真はニヤリと笑うと、再び私を引き寄せた。
斗真「と、その前に、これやるよ」
そう言って、渡されたのは星の髪飾り。
葉月「かわいい!斗真にしてはいいセンスしてる」
斗真「お前の中の俺はどんなセンスしてるんだ!」
葉月「えっと…」
斗真「言わなくていいから!」
斗真「ほら、つけてやるから貸せよ」
斗真はそう言うと、私の髪に、髪飾りをつけてくれた。
葉月「どう…かな?」
斗真「に、似合ってる」
そう言う斗真の顔は真っ赤だった。
葉月「あっ!」
斗真「どうした?大きな声出して」
葉月「私、プレゼント、何も用意してない!」
斗真「なんだ、そんなことか…俺はもう貰ってるよ」
葉月「え?」
斗真「お前の唇」
その言葉と共に私の唇は塞がれた。
それは、寒さが吹き飛ぶくらい熱く、ケーキよりも甘い味がした。
END
はじめまして。
神谷雫です。
今回の作品は、クリスマスが近いので、クリスマスらしいお話にしました。
この作品を読んで頂いた方が、笑顔になってくだされば幸いです。