約束(7)
城に来て一週間、ミーナの朝は早かった。
村に居た頃は畑仕事があったからだが、今はまだ明るくなる前から水汲みを始める。
一段落すれば、別館の掃除を済ませるが広く時間もかかる。
それが終わればまた水汲みと、ミーナには休む暇さえ無かった。
「早くして、本当に遅いわね」
「何をしてるのよ」
ミーナは何を言われても言い返さず無表情のまま仕事を続けた。
「何を騒いでるの」
「ユーア様」
ケイトの次に権力のユーアは王子に一番近い人間でもあるので誰も逆らう事をしない。
「お水をいただける」
「はい」
ユーアの家柄は良く、王子と結婚するのは彼女だろうとも言われてる。
「あら、ごめんなさい」
ユーアはわざとミーナの目の前に水をこぼした。
「手が滑ってしまったわ」
ユーアは困った様な表情をして見せた。
「ユーア様、ドレスが濡れてしまいました」
王子付のメイドはドレスを着る、王子の身の回りをする見栄えの良い女なのだ。
「あら、本当、でもいいわ、お父様が新しいのを届けさせてくださったの、ロックス様のお近くに居るのにみすぼらしいかっこは出来ないですもの」
ユーアは横目でミーナを見ながら言うとミーナは表情を変えずに立って居た。
「でも、あなたは気楽で良いですわね、決してロックス様や陛下にお会いする事が無いからどんな服装でも良いんですから羨ましいわ」
ユーアは頭の先から足の先までミーナを見て口元に笑みを浮かべた。
「ユーア様、彼女はただの市民ですからユーア様の様には一生なれませんわ」
「ふふっ、でも彼女は幸せよ、ご自分に似合う仕事をしてるんですもの、私には出来ませんけど」
ユーアたちにミーナは一礼するとそのまままた井戸に向かった。
何を言われてもミーナの表情は変わらなかった、無表情で感情を一切見せる事は無かった。
「はぁぁぁっ」
湿気の匂いが消えない物置、ミーナの今一番心安らぐ場所。
机の上には持って来た本があるが今のミーナには読む気力さえ無かった。
全身に広がる疲労感、このまま眠ってしまいたいが、まだミーナには仕事が残されて居た。
「・・・・行かないと」
ベットから起き上がる瞬間、目の前に暗闇が広がりミーナは机に手を置いて体を支えた。
「・・・・大丈夫・・・・大丈夫」
ミーナは自分に言い聞かせるとゆっくり立ち上がり部屋を出た。
長く続く廊下の奥に浴場がある、ミーナは最後に入り掃除をするのだ。
「セイラ」
セイラが浴場の前に一人立って居た。
「ミーナ」
「どうしてここに?」
「・・・・手伝いたくて、私・・・・ミーナの親友なのに」
セイラは涙を流してミーナを見つめた、ミーナはセイラに優しく微笑んだ。
「ばぁか」
「ミーナ?」
「気持ちだけで十分、ありがとう」
ミーナが優しくセイラにいうとセイラはミーナを見つめたまままた涙を流した。
「ダメ・・・私、ミーナを助けてあげたいの、なのに」
「いいの、私は大丈夫、それに私を庇ったり助けたりしてセイラが同じ目に合ったらそっちの方が辛い今は大丈夫だから、心配しないで」
優しく落ち着いた声と優しい微笑み、セイラは小さく頷く事しか出来なかった。