約束(5)
騒がしい城下町。
「凄い」
馬車の中、セイラは目を輝かせて外を見つめて居た。
「お前、そんなに城入りが嫌なのか」
馬車に乗ってからミーナは何も言わずに外を眺めてるだけだった。
ロックスはそんなミーナを見て不満そうな表情をした。
「昔、チェリッシュ村に来た時の事を思い出しておりました」
ミーナは村で産まれ育ったのでは無い、子供の頃ミーナは親兄弟から離れ一人村に来たのだ。
「あの頃から十年以上、私は村の外に出た事が無かった・・・・出る必要が無かったし、私は」
ミーナは外を見つめて軽く首を振った。
「セイラ、お城が見えて来たわ」
ミーナは話題を変えるためか少しづつ近づく城を指さした。
「今日からあそこに」
城内に入るとたくさんの人が集まった。
「ケイト」
「おかえりなさいませ」
「城入りの儀があるから二人に説明してやれ」
「かしこまりました」
ロックスが二人を任せたのは厳しそうな女だった。
「メイド教育と配置を任せていただいてる、ケイト・フォールセンです」
ケイトは真っ直ぐ二人を見て言うとミーナもセイラも頭を下げた。
「ミーナ・クロッセッツと申します」
「セイラ・アルバートムです」
ケイトは静かに二人を見つめると小さく溜め息を吐いた。
「ミーナさんは特例として王子様推薦で城入りが叶ったのです、身分をわきまえ王子様にご迷惑がかからない様に勤めなさい」
「はい」
「では、城入りの説明をします、ついて来なさい」
ミーナは深く頭を下げセイラと一緒にケイトの後ろを歩いた。
「お二人も知っている思いますが、城入り出来るのは領主や地主や村長など身分確かな者のお嬢さんのみが出来ます、そこで陛下に顔を覚えていただくために城入りの儀を行います」
広い広間に入るとそこには見たことも無いほどのドレスが並んで居た。
「服装はいいでしょう、陛下の前に出るのですから恥をかかぬ様になさい」
ミーナとセイラは二人残され、ケイトは入り口の所に立ち止まった。
「時間までここで待ってなさい」
そう言うとケイトは外へと出て行き、大きなドアは閉められた。
「怖い・・・・けど、嫌味な人」
セイラは不満そうに頬を膨らませた。
「セイラ」
「そうだしょう?何が身分よ、ミーナは王子様に気に入られて城入りしたのに、あんな嫌味な言い方するなんって」
ミーナは自分の代わりに怒りを口にするセイラを見て口元に笑みを浮かべてセイラを見た。
「仕方ない、身分も怪しい私が城に入れたのも奇跡に近いのだから何を言われても仕方ない」
ミーナは近くにあった椅子にゆっくりと座った。
「ミーナ」
「・・・・城はそんな場所、自分を良く見せるためなら相手も裏切る、力ある者だけが生き残れる場所、戦場よりも醜い場所かも知れない」
ミーナは悲しそうな表情をするとセイラはミーナに抱きつた。
「何?どうしたの?」
「何でも無い」
コンコン
ノックの音がした後ドアが開いた。
「謁見の間にご案内致します」
セイラは緊張した表情をしたがミーナは落ち着いた表情だった。
広い謁見の間、一番奥の高い場所に王とロックスの姿が見える。
「お初にお目にかかります、チェリッシュ村村長の娘、セイラ・アルバートムと申します」
「お初にお目にかかります、ミーナ・クロッセッツと申します」
二人は出来るだけ大きな声で挨拶をした。
「クロッセッツ」
王である、ロビンは目を丸くしてミーナを見つめた。
「お父様?」
横に立って居たロックスはそんなロビンの表情を不思議に感じて居た。
「セイラ・アルバートム、王妃や王子、姫のためにつくせ」
「はい」
「ミーナ・クロッセッツ、王子から話を聞いておる、一度話して見たかった、少し残れ」
「・・・・はい」
「ロックス、セイラ、他の者も下がれ」
ミーナは頭を下げたまま他の人間が出て行くのを感じて居た。
「昔、美しい女性が居た、サラ・クロッセッツ、ロスタング王家に嫁いだ彼女には三人の姫が生まれ、幸せに暮らしてたが、戦争が始まり、一番王位継承が有力だった三人目の姫は国外に逃がされ、それから行方不明になったと聞いた」
ミーナの前にロビンが立ったがミーナは何も言わずに頭を下げたままだった。
「名前は」
「陛下、私はただの村娘、王家とは全く無縁の人間でございます、何も望んではいけない、悲しみと争いを招く、私は今までもこれからもただの村娘なのです」
ミーナはゆっくり顔をあげてロビンを見つめた。