約束(4)
古い茶色のトランク、ミーナは荷物を用意する。
「望んではいけない・・・・望めば争いや悲しみが増える・・・・何も望んではいけない」
ミーナは一枚の写真をトランクの一番下に入れながら自分に言い聞かせる様に呟いた。
「ミーナ」
セイラが慌てた様に家の中に入って来た。
「どうしたの?」
「早く、早く来て」
「ちょっと、セイラ?」
セイラはミーナの腕は掴むとそのまま家から出た。
「セイラ、何、ちゃんと話してよ」
「大変なの、早く」
村長の家の周りには人が集まって居る。
「来たか」
ロックスはミーナの姿を見ると口元に笑みを浮かべた。
「ロックス様」
「おい、この二人だ」
ロックスは後ろに控えて居た男に声をかけた。
「かしこまりました」
「ミーナ様、セイラ様、こちらへ」
ミーナとセイラは男に促されるまま村長の家の中へと入って行った。
「な、何?」
「ミーナ様、こちらへ」
「セイラ様はこちらへ」
中に入ると数人の女性に囲まれ、二人は別々の部屋へと連れて行かれた。
部屋の中にはドレスが一着用意されて、それはミーナが送り返したロックスからのドレス。
「ミーナ様、お着替えのお手伝いをさせていただきます」
「・・・・一人で出来ます、出て下さい」
ミーナは静かに小さな声だったがはっきりと女性たちに言うと何も言わずに室内から出て行った。
「・・・・何も望んではいけない、争いと悲しみが増えるだけ」
ミーナはドレスに触れて呟いた。
「おぉ、セイラ似合うぞ」
淡いピンクのドレス、それに似合う髪型とメイク、セイラは父親に褒められ嬉しそうに微笑んだ。
「でも、私までいただいてよろしいのですか?」
ソファーに座り紅茶を飲むロックスにセイラは申し訳無さそうに尋ねた。
「かまわん、城に着くとまず、王と王妃の前に出るから着替えるからな」
ロックスはつまらなそうに答えた。
「お父様、ミーナは?」
「それがまだ」
「おい、何してる?」
「それが、ミーナ様、お一人でされると女たちを」
ゆっくりドアが開くと、外で待ってた人間は目を丸くして驚いた。
「王子」
「なんだ」
「ミーナ?」
ドレスを着て、髪型もメイクもまるで別人の様なミーナにセイラも言葉を失った。
「キレイ」
着慣れた感じでミーナは上品さを感じさせる空気を纏って居た。
「うん、完璧だ、俺の見立ては間違って無かったな」
何も言えなかったロックスも満足そうにミーナを見た。
新しい旅立ちまでもう数時間、ミーナは何かを心に決めた様に無表情だった。




