約束(3)
数日後手紙が届いた。
『城入りを許可する』
セイラにはもう迷いは無かった。
「ミーナ」
「セイラ」
畑にやって来たセイラには暗い表情は無く落ち着いた感じでミーナに手を振った。
「来週、城に入るわ」
「そうか」
ミーナにはセイラに伝える言葉が見つからなかった。
「ミーナも寂しい?」
「せいせいする、村長と喧嘩して来なくなるだけで仕事がはかどる」
「酷いなぁ」
ミーナはセイラに微笑んだ、セイラも笑顔を見せて居た。
「大丈夫」
「うん」
何が大丈夫なのかミーナにもわからなかったが今はそう言うしか出来なかった。
「ミーナ様ですか?」
馬車に綺麗な服を着た二人の男が声をかけて来た。
「誰?」
「私、ロックス様のご命令でこちらをお届けに参りました」
馬車の中から出されたのは晴れた空と同じ色のドレス、ドレスには宝石が輝き美しさと上品さを感じさせられる。
「ミーナ、ロックス様って」
セイラも王子の名前は知ってる、セイラは目を丸くしてミーナを見たがミーナは落ち着いてドレスを見て居た。
「申し訳ありませんが、お受け取り出来ません」
「ミーナ!」
セイラは驚き大きな声になった。
「私はお礼が欲しくて助けた訳ではありませんしこんなドレスを頂いても私には使いようがありません、お持ち帰り下さい」
冷静な口調、ミーナは言い終わると深く一礼をして歩き出した。
「待って、ミーナ」
ミーナは家に帰ると後ろから走って来るセイラを見た。
「はぁはぁはぁ、歩くの早いよ」
息をきらしてセイラはやっとミーナの前に来た。
「ねぇ、ロックス様って王子様だよね、ミーナ知り合いなの?」
「知り合いじゃない、前雨の日に雨宿りさせただけ」
ミーナは花壇に水をやりながらセイラの質問に答えた。
「貰えば良いのに、あのドレス絶対高いよ」
セイラはさっき見た今まで見た事の無い美しいドレスを思い出して居た。
「必要ない、貰っても飾ってるだけなら花の方が綺麗だ」
ミーナは座り込み咲いた花を見つめた。
「本当にミーナって変わってる」
「かもね」
そう、ミーナはこれで終わったと思ってた、何も変わらない平和で穏やかな日々だけが続くと。
数日後、村は大騒ぎになってた。
「ロックス様よ」
「なんでこんな所に」
数人の兵士とロックスは村の中心に来て居た。
村人は離れて頭を下げてロックスを見て居た。
「村長、ミーナは何処だ」
「ミ、ミーナですか?」
村長は王子から出た名前に驚き、目を丸くした。
「あぁ、俺はあいつに会いに来たんだ」
「王子様がわざわざ会いに来る人間ではありませんよ」
村人の間からミーナは不機嫌そうな表情をして出て来た。
「ミーナ」
「村長、お騒がせして申し訳ございません」
ミーナはロックスよりも先に戸惑いの表情をしてる村長に頭を下げた。
「か、かまわんが、ここでは目立つ、どうぞ、我が家へ」
ロックスとミーナは村長の家に向かった。
村の中でも一番大きな家はミーナの家の3倍はあった。
「王子様自ら何の御用で」
ミーナにはロックスが来た理由がわかってた。
数日前のお礼を受け取らなかったからだろう。
「お前を城入りさせる、俺はお前が気に入った」
ロックスは楽しそうに口元に笑みを浮かべてミーナを見た。
「お断り致します、私は今の生活が好きです、満足もしています、私の様な人間が城入りしても王子様のご迷惑にしかなりません」
ミーナは真っ直ぐロックスの顔を見て言うとロックスもミーナの目を見つめた。
「俺はお前が気に入った、親父の許可も得た、特例でお前を城入りさせる、これは命令だ、背くと反逆罪だ」
ミーナは大きな溜め息を吐いた。
「罪になるのは困ります・・・・ですが、私は」
「明日、出立だ村長」
「は、はい」
「今夜は村に泊まる、いいな」
「はい」
「では、明日、友人も同行してもよろしいですか?」
「かまわん、明日、朝だ」
何も変わらない平和で穏やかな日々は少しづつだが変わり始めた。