約束(1)
それは、おとぎ話の様な恋のお話。
センチュウリア王国から少し離れた小さな村、彼女はそこに住んで居た。
「おはよう、ミーナちゃん」
「おはようございます、おばさん」
村でも彼女は有名だった、長く腰まで伸びた黒髪、いつも穏やかに微笑む口元、ミーナは村からも少し離れた場所に今は一人暮らして居る。
「今年も元気に育ってる」
小さな畑、ミーナは畑を耕し生活をして居た、裕福では無いが、食べるには困らない今の生活がミーナは好きだった。
「今日は雨が降りそうだ」
ミーナはどんより曇った空を見上げて呟いた。
村から少し離れた場所にある、家は森にも近く、静かで鳥の声がする、ミーナのお気に入りでもあった。
「ただいま」
小さな家、ミーナは返事が返って来ないのを知りながらも声をかける。
小さな家だが奥には寝室もあり、ミーナの部屋には本で壁が見えないくらいだった。
本を一冊とカップには紅茶、ミーナはいつの間にか降り出した雨音を聞きながら読書を始めた。
コンコン
どれくらい時間が経ったのかノックの音でミーナは本の世界から現実へと引き戻された。
「はい」
村から離れた場所、普段でも人が尋ねて来るのが珍しいのだが、雨が降り、もう辺りは暗くなってる。
「すまない」
若い男、雨に濡れ、家の前に立って居た。
「待ってて」
ミーナは慌てて奥に行くと直ぐにタオルを持って戻って来た。
「さぁ、中へ馬は横の納屋へ」
白く美しい馬も雨に濡れてる、ミーナは素早く指示をすると男は軽く頭を下げた。
「どうぞ」
ミーナは男に着替えも渡し、男が着替えを済ませて出て来るとスープの入ったお皿を渡した。
「すまない、俺も納屋でかまわん、一晩泊めてくれないか」
「納屋は隙間風が寒いのでこちらでお休み下さい」
「しかし」
「かまいませんよ」
ミーナは優しく男にも微笑んだ。
「すまない」
「さぁ、冷めないうちに」
名前も知らない男、しかし、ミーナには男が何者なのか直ぐにわかった。
「一人で住んでるのか?」
「えぇ、なので何もおかまいは出来ません」
ミーナは男が飲み干した皿を受け取り答えた。
「それはかまわんが、女一人の家に」
「あなたは何もしませんから」
ミーナの言葉に男は驚いた表情をした。
「何故そう思う」
「品格、失いたく無いでしょう、王子様」
男はそう呼ばれると大笑いをした。
「ははははっ、何故俺が王子だと?」
「簡単ですよ、馬具に王家の紋章、騎士だとも考えれますが、王家の紋章のペンダントが見えましたから」
ミーナは自分の胸元を指さしながら答えた。
「面白い、お前名は?」
「ミーナと申します」
「俺はロックスだ」
ロックスは口元に笑みを浮かべながら自己紹介をした。
センチュウリア王国第一王子ロックス、名前は知ってるがミーナも初めて会う相手だが、ミーナは媚びる事もしなかった。
「俺が王子だと知って中に入れたのか?」
「まさか、困ってる人間を雨ので無視は出来ませんから」
「ふっ、本当に面白い女だ」
「礼儀を知らないだけですよ、王家の人間でも変わらない、敬われたのなら城から出ない事をおすすめします」
ミーナが紅茶を淹れてカップをロックスに渡した。
「否、俺は外が良い、何をしても見られて当然の様に周りは俺に従う、頭を下げ、気に入られようと媚を売り、うんざりだ」
ロックスは悲しそうな表情をしたがミーナはそれを見なかった様に紅茶を口にした。
「それが、あなたの仕事、民が税を納め、王家の人間が生活をする、あなたは、民のために逃げずに他人の言葉に惑わされる事無く生きる」
「民のためにか」
「そう、あなたは今は王子かも知れない、でもいつか、王の跡を継ぐ、その時のための今は準備期間」
ミーナは今度はロックスを真っ直ぐ見つめた。
「変わった奴だ、お前は何者なんだ?」
「私はただの村人ですよ」
それがミーナとロックスの出会いだった。