第4章:元パーティ崩壊、ざまぁの連鎖
ヴァルティスが確立した「進化の法則」は、残酷なまでの効率で弟子たちの肉体を造り替えていった。
魔力を限界まで使い果たし、細胞の隅々にまで属性魔力を浸透させる。そのプロセスは、単なる修行を超え、生命体としての「格」を強制的に引き上げる行為に他ならなかった。
覚醒する美:エルナ一行の変貌
修行開始から数週間、神官エルナの変貌は劇的だった。
「ヴァルティス様……あの、神官服がもう入りません……」
恥じらいながら現れた彼女は、かつての幼さを残した少女ではなかった。魔力による代謝の加速は、彼女の骨格を理想的な黄金比へと再構築していた。四肢はしなやかに伸び、立ち姿は170cmを超えるモデルのような均整を得た。さらに、豊満に膨らんだ胸部と対照的にウエストは極限まで引き締まり、歩くたびに波打つ腰つきは、聖職者にあるまじき官能的な美しさを放っている。
それは同行していた男たちも同様だった。
ラウル、ギル、トードの三人は、以前の泥臭い冒険者の面影を完全に捨て去っていた。身長は180cmを超え、贅肉を一切排した鋼のような広背筋と、彫刻のように割れた腹筋を備えた「理想の戦士」へと進化したのだ。顔つきも精悍な男前へと変わり、その眼光には自信と力が宿っている。
「これが……ヴァルティス様の魔法の副産物だというのか……」
鏡を見るたびに、彼らは己の変貌に戦慄し、同時に師への忠誠をより一層深めていった。
殺到する求道者:三十人の新弟子
そんな彼らが時折、素材の売却のために街へ降りるたび、噂は野火のように広がった。
「万年Dランクの無能が、絶世の美女と最強の戦士を育てている」
「あの森に行けば、誰でも別人のようになれる」
その噂を信じ、あるいは縋るようにして、三十人の冒険者が拠点の門を叩いた。
男性10人、女性20人。年齢は15歳の少年から、30歳の酸いも甘いも噛み分けたベテランまで様々だが、共通しているのは「現状を打破したい」という飢えた目だった。
「お前たちが何を求めてここへ来たかは問わん。だが、俺の教えは厳しいぞ。死ぬ気がないなら今すぐ帰れ」
ヴァルティスの冷徹な宣言に、一人として背を向ける者はいなかった。
彼は三十人の新弟子を前に、まず「魔力の枯渇」と「マッスル」「アクセル」の基礎を叩き込んだ。
混沌の修行場
拠点の周辺は、もはや静寂の森とは呼べないほどの活気に包まれた。
空ではセレナとエルナが先導し、新弟子たちに『飛行魔法』の基礎となる魔力バランスを指導する。地上では筋骨隆々となったラウルたちが、後輩の男たちを相手に、魔力を込めた打撃の応酬を繰り返す。
ヴァルティスはそれらを高い岩の上から眺め、時折、魔力弾を放って気を抜いている弟子の足元を爆破する。
「集中しろ! 魔力を練るのを止めた瞬間、お前たちの肉体はただの肉塊に戻るぞ!」
指導の傍ら、ヴァルティスは確信していた。
弟子たちが魔力を消費し、その残滓を彼が「魔力吸収」で吸い上げるたびに、彼自身の「器」もまた、かつてない速度で肥大化している。
彼らを守り、育てるという行為そのものが、ヴァルティスをさらなる最強へと押し上げていた。
三十人の新弟子たちもまた、日ごとにその容姿と能力を変えていく。
女性たちは皆、手足の長い超美人と化し、男性たちはがっしりとした偉丈夫へと進化していく。この「森の邸宅」は、いつしか世界で最も美しく、最も危険な集団が住まう聖域へと変貌しつつあった。
だが、この異常なまでの魔力の高まりが、ついに「時空」の理を乱し始める。
空の向こう側で、世界を喰らう影が静かに口を開けていた。
「静寂の森」の拠点は、もはや一個の独立した魔導集落と呼ぶべき規模に達していた。ヴァルティスの指導方針は徹底した「自給自足」である。彼は、自分ですべてを造り上げることはせず、弟子たちに魔力を練らせ、その手で環境を構築させることこそが最高の修行になると確信していた。
創造の修行:魔導集落の建設
「いいか、魔力をただぶつけるのは三流だ。土を練り、火で焼き、風で成形し、水で冷やす。そのプロセスすべてに自身の意思を込めろ」
ヴァルティスの号令の下、新弟子30人とエルナ一行、そしてセレナが動く。広大な敷地には、土魔法で隆起させた石造りの『建屋』が整然と並び、各部屋には石のベッド、テーブル、椅子、そして竈が次々と生み出されていった。
さらに食料自給の要として、ヴァルティスは巨大な「魔導倉庫群」の建設を命じた。
冷蔵倉庫:水と風の魔法を循環させ、常に一定の低温に保たれた肉の熟成庫。
冷凍倉庫:氷属性を固定し、獲物を鮮度そのままに凍結させる氷室。
普通倉庫:土魔法で湿度を完璧に制御し、調味料や野菜を保管する石倉。
「次は輸送だ。氷の結晶構造を組み替え、摩擦を減らした『氷のリヤカー』を作れ。それで街まで買い出しに行くんだ」
若手たちが魔力で固めた透明な氷のリヤカーを引き、街へと降りていく。彼らが持ち帰るのは、大量のエールや調味料、新鮮な野菜だ。エールが届くたび、広場では巨大な竈に火が入り、解体した魔獣肉の焼肉が振る舞われる。
「最高っすね、師匠! 毎日が合宿みたいだ!」
「修行は地獄だけど、このメシとエールのために生きてる気がします!」
神の造形:加速する美形化
修行開始から数ヶ月、拠点を歩く弟子たちの姿は劇的な変貌を遂げていた。
女性弟子20名は、例外なく全員が170cmを超える長身へと成長。魔力による代謝の加速と「マッスル」の教えが、彼女たちの肉体を理想的な黄金比へと再構築していた。手足は驚くほど長く伸び、ウエストは極限までくびれ、胸と尻は健康的な弾力を持って大きく発達している。顔立ちは誰もが息を呑むほどの超美人と化し、その肌は瑞々しい光沢を放っている。
対する男性陣も、全員が180cm以上のがっしりとした偉丈夫へと変貌。無駄な贅肉を削ぎ落とした筋骨隆々の男前となり、その眼光には自信と力が宿っている。
渦巻く恋心:師匠への熱視線
この美しき弟子たちの間で、共通の想いが芽生えていた。女性弟子全員が、ヴァルティスに「恋する乙女」となってしまったのだ。
「ヴァルティス様、スープのおかわりはいかがですか?」
「師匠! 今日の私の『アクセル』、見ていてくれましたか!?」
夕食の時間になれば、絶世の美女たちが競い合うようにヴァルティスの周囲を囲む。彼を救世主として崇め、師として敬い、そして一人の男として熱烈に慕う彼女たちの瞳には、隠しようのない熱が宿っていた。
ヴァルティスは、ジョッキのエールをあおりながら「魔力の練り方が甘いぞ」と無愛想に言い放つだけだが、その姿がより一層彼女たちの恋心を燃え上がらせていた。
「……たく、騒がしい連中だ」
ヴァルティスは夜風に当たりながら、広がる拠点の灯りを眺めた。
弟子たちは強くなり、環境は整った。伝説の師匠としての生活は、この賑やかな「合宿」と共に、さらに深まっていく。
「静寂の森」の深部に築かれた拠点は、夜明けと共に凄まじい熱気に包まれる。ヴァルティスが課す修行は、もはや常人の理解を遥かに超えた「生存競争」に近いものへと深化していた。
剣の極致:セレナによる洗礼
広場の中央、白銀の髪をなびかせたセレナが、木剣を手に立っている。彼女の周囲には、180cmを超える筋骨隆々の男たちと、170cmのしなやかで長身な女たちが、息を切らして円陣を組んでいた。
「次、三名まとめて来い。甘いぞ!」
セレナの叱咤が飛ぶ。ヴァルティスから『身体強化・アクセル』と『肉体強化・マッスル』を直伝された彼女の動きは、もはや視認することすら困難だ。突進する弟子たちの懐に滑り込み、最小限の動きで急所を叩く。
「……武器を固定するな! 状況に応じて『氷』で造り変えろ!」
ヴァルティスの指示が飛ぶ。弟子たちは走りながら、自身の魔力で手に持つ武器を瞬時に再構築する。「剣」で斬り込み、弾かれた瞬間に「ウォーハンマー」へと変え、重さで防壁を粉砕する。着地ざまに「ランス」へと伸ばし、遠間の敵を突く。
この「武器スイッチ戦術」は、近接戦闘における圧倒的な優位性を彼らに与えた。全員が魔力操作の練度を上げ、氷の硬度を鋼鉄以上に保ちながら、変幻自在の戦い方を身につけていく。
禁断の「魔力枯渇トレーニング」
だが、本当の地獄は午後から始まる。ヴァルティスが提唱する最強への近道――『魔力枯渇トレーニング』だ。
「全方位にバレットを放て。一滴も残すな。意識が飛ぶ直前まで自分を追い込め!」
ヴァルティスの号令と共に、30人以上の弟子たちが一斉に魔法を乱射する。火、水、風、土。色とりどりの魔力弾が森の空を埋め尽くす。
通常、魔導士にとって魔力切れは「死」を意味する失態だ。しかし、ここではそれが「義務」だった。
「がはっ……、はぁ、はぁ……っ!」
一人、また一人と膝をつき、顔面蒼白になって倒れ込む。全身の倦怠感、吐き気、そして魂が削られるような虚脱感。地獄のような苦しみが彼らを襲う。
だが、その限界の「底」を叩いた瞬間、ヴァルティス直伝の『魔力吸収』が自動的に発動する。
シュゥゥゥ……!
大気中の魔素が、枯れ果てた彼らの細胞へと猛烈な勢いで吸い込まれていく。そのたびに、魔導回路はミシミシと音を立てて拡張され、最大魔力量が昨日よりも一回り大きく更新される。
「……信じられない。また、器が広がっている……」
170cmの長身と、くびれたウエスト、豊かな胸部を備えた女性弟子の一人が、荒い息を吐きながら自身の掌を見つめる。苦痛の代償として手に入る、圧倒的な「力」。その中毒的な成長の速度が、彼女たちをこの地獄へと繋ぎ止めていた。
合宿の夜と深まる絆
夜になれば、地獄の修行は一変して賑やかな「宴」となる。
弟子たちが自ら魔法で作った巨大な竈で、解体したばかりの魔獣肉が焼かれ、氷のリヤカーで運ばれてきたエールがジョッキに注がれる。
「師匠、今日のアイス・バレットの圧縮率、見てくれましたか!?」
「ヴァルティス様、私の『マッスル』の維持時間、昨日より5分伸びたんです!」
超美人と化した女性弟子たちが、頬を上気させ、汗を拭いながらヴァルティスを囲む。彼女たちは皆、自分たちをここまで美しく、強く造り変えてくれたヴァルティスに心酔していた。170cmを超える美女たちが競うように給仕をし、熱烈な視線を送る光景は、まさに伝説の師匠に相応しいものだった。
「……食え。食って寝て、明日もまた枯渇させるぞ」
ヴァルティスのぶっきらぼうな言葉に、弟子たちは歓声で応える。
肉体を追い込み、魔力を枯らし、理想の姿へと再構築される日々。
この「地獄の合宿」を生き抜くたびに、彼らは人間を辞め、神話に語られる英雄の領域へと一歩ずつ近づいていた。
ヴァルティスは、エールを飲み干しながら、満足げに弟子たちの成長を眺めていた。
最強の師匠と、最強の弟子たち。この森の深部から、世界を揺るがす軍勢が生まれようとしていた。
「静寂の森」の深部に築かれた拠点は、もはや個人の隠れ家ではなく、一つの軍事拠点に近い規律と熱気を帯び始めていた。ヴァルティスの指導は「個」の強化から、組織としての「集団強化」へとフェーズを移す。
部隊編成:三つの小隊
ヴァルティスは、総勢三十余名の弟子たちを能力と適性に応じて十人前後の三つの小隊に分け、それぞれのリーダーを指名した。広場に整列した弟子たちは、皆一様に170cmを超える超美人や、180cm以上の筋骨隆々な偉丈夫へと変貌しており、その威圧感は王国の精鋭騎士団を凌駕している。
「これからは小隊単位で動け。リーダーを紹介する」
第一小隊(白銀部隊)リーダー:セレナ
「王国近衛騎士団元副団長のセレナだ。私の部隊は機動力を重視する。空中からの急襲と、至近距離での『武器スイッチ』による制圧が主眼だ。遅れるなよ」
一番弟子のセレナは、魔力再構築によってさらに磨きがかかった美貌を誇り、冷徹なまでのカリスマを放つ。
第二小隊(黄金部隊)リーダー:エルナ
「神官のエルナです! 私たちは後方支援と広域浄化、そして『光』を用いた状態異常の無効化を担います。でも、バレットの威力も負けませんから!」
170cmのモデル体型となったエルナは、恋する乙女の熱量をそのまま魔力に変え、部隊を鼓舞する。
第三小隊(鉄錆部隊)リーダー:ラウル
「ラウルだ。俺たちは『マッスル』を極限まで回し、真正面から叩き潰す。土魔法による地形操作と防御壁の構築もお手の物だ。師匠の盾となり、矛となるぞ!」
180cm超えのがっしりした体躯を持つラウルは、男たちの信頼も厚い。
実戦訓練:柔軟な戦術の極致
小隊ごとの演習が始まると、弟子たちはヴァルティスの「力押しに頼らない戦術」を見事に体現し始めた。
堅牢な鱗を持つリザード系の魔物に対しては、真っ向から斬り合うことはしない。
「『ウォーターマスク』展開! 次いで『アイスマスク』!」
リーダーの号令一閃、リザードの頭部は瞬時に氷の塊に封じられ、窒息による沈黙を余儀なくされる。かつての死闘が、今やルーチンワークのように片付けられていく。
厄介な毒を持つキラービーやポイズンスパイダーの群れに対しても同様だ。
『ソイルマスク』で複眼と気門を砂土で埋め尽くし、無力化。解体技術も劇的に向上し、毒腺を傷つけることなく瞬時に素材を切り分け、食用部位を確保する。彼らが魔法で調理する「魔獣の香草焼き」は、一流ギルドの食事を凌駕する美味となった。
鋼鉄の粉砕:ゴーレムと重獣への対策
対して、物理的な質量を持つゴーレム系には、ヴァルティス直伝の肉体強化が火を噴く。
「『アクセル』最大! 『マッスル』充填!」
ラウル率いる第三小隊が、重厚な踏み込みと共に氷のウォーハンマーを振り抜く。ただの打撃ではない。貫通力を極限まで高めた『ストーンバレット』を打撃の瞬間に零距離で炸裂させ、内部から岩石の巨躯を粉砕する。
オークやベア系の群れが突進してくれば、セレナの第一小隊が空から舞い降りる。
「『ウィンドカッター』、薙げ!」
真空の刃が音もなく走り、巨大な熊の首が一瞬で宙を舞う。無駄な力みは一切ない。魔力を効率よく「切断」へと変換する、洗練された死の舞踏だ。
伝説の軍勢へ
「……ふん、少しはマシになったな」
岩の上からその光景を眺めるヴァルティスは、エールのジョッキを傾けた。
全員が状況に応じて属性を使い分け、空中と地上を自在に行き来する。魔力を使い果たしては「魔力吸収」で器を広げ続ける地獄のサイクルを耐え抜いた彼らは、もはや単なる「冒険者の集団」ではない。
「師匠! 見ていただけましたか! 私たちの連携!」
演習を終えた170cm超の美女たちが、額に汗を浮かべ、豊満な胸を躍らせながらヴァルティスの元へ駆け寄る。彼女たちの瞳には、一刻も早く師匠の隣に立ちたいという熱烈な欲望が渦巻いている。
ヴァルティスは、恋する乙女たちの熱い視線をさらりと受け流しながら、次なる訓練のメニューを思考する。
「次は小隊対抗の模擬戦だ。……負けたチームは、明日のエール抜きで魔力枯渇トレーニング三倍な」
「「「「えええええっ!!」」」」
悲鳴が上がるが、その顔にはどこか歓喜が混じっている。
最強の師匠の下で、世界を揺るがす美しき「怪物」たちは、今日もまたその牙を研ぎ澄ませていく。
「静寂の森」の拠点は、いまや一国の精鋭騎士団すら震え上がらせる「超人集団」の巣窟と化していた。ヴァルティスの指導により、170cmを超える長身と絶世の美貌を手に入れた女性弟子たちは、その外見に見合わぬ苛烈な戦闘能力を秘めている。
ある日、日用品とエールの補充のため、数人の弟子が氷のリヤカーを引いてラグラシアの街へ降りた。その中には、ヴァルティスの熱烈な信奉者であり、モデルのような四肢と豊満な肉体を持つ美女、リナの姿があった。
再会:落ちぶれた「暁の旋風」
市場で野菜を選んでいたリナの前に、酒臭い男たちが立ちふさがった。かつてヴァルティスを「無能」と呼び、パーティから追放したカイル率いる『暁の旋風』の面々だ。
「おいおい、見ろよ。こんな極上の女がこの街にいたか?」
カイルは以前の自信に満ちた姿とは程遠く、装備は薄汚れ、目には焦燥が浮かんでいた。レッサードラゴンの魔石で名を上げたヴァルティスへの嫉妬に狂い、酒に溺れる日々を送っていたのだ。
「……どいてください。邪魔です」
リナは冷徹に言い放つ。ヴァルティスの魔力に触れ続けている彼女にとって、カイルたちの淀んだ魔力など、羽虫の羽音にも等しい。
「あぁん? 良い身体してやがる。俺たちはBランク冒険者だぞ。ちょっとツラ貸せや」
カイルがリナの細い手首を掴もうとした瞬間、周囲の空気が凍りついた。
圧倒的蹂躙:弟子の「力」
「師匠以外の男に、触れられる筋合いはありません」
リナの瞳が鋭く光る。『身体強化・アクセル』が発動し、彼女の姿がカイルの視界から消えた。
「なっ……がはっ!?」
次の瞬間、カイルの巨体が宙を舞い、近くの露店に突っ込んだ。リナのしなやかな脚から繰り出された、目にも止まらぬ回し蹴りだ。
「カイル! てめぇ、よくも!」
仲間たちが武器を抜くが、リナは動じない。彼女の手には、瞬時に成形された『氷の剣』が握られていた。
「『アイス・エンチャント』」
一閃。
物理的な破壊ではなく、冷気の衝撃波が『暁の旋風』全員を襲う。彼らの武器は凍りついて粉々に砕け散り、屈強な男たちが一瞬で路地裏に転がされた。かつて街を闊歩していたBランク冒険者たちが、わずか一人の女性弟子を前に、手も足も出ずボコボコにされたのだ。
「な、なんだよ……その力。お前、どこのパーティだ……」
地面に這いつくばるカイルが、恐怖に震えながら問いかける。
「ヴァルティス師匠の弟子です。二度とその名を汚さないで」
リナは冷たく言い捨てると、氷のリヤカーを引いて悠然と去っていった。街の住人たちは、その圧倒的な強さと美しさに言葉を失い、ただ見送ることしかできなかった。
ミラの転落:嫉妬の果て
同じ頃、冒険者ギルド「銀の翼亭」では、別の「決着」がついていた。
かつてヴァルティスを小馬鹿にし、冒険者たちを自身の容姿と立場で選別していた受付嬢、ミラ。彼女はヴァルティスの評価反転に続き、その弟子たちが街で無双した報告を聞き、発狂せんばかりの嫉妬に駆られていた。
「そんなはずないわ! あの無能に、あんな綺麗な弟子ができるわけない! きっと何か卑怯な手を使っているのよ!」
ギルドの窓口で、訪れる冒険者たちに当たり散らし、業務を滞らせるミラ。その傲慢な態度は、もはやギルドマスターのバルガスも看過できるレベルを超えていた。
「……ミラ。お前はもうクビだ」
バルガスの冷徹な宣告。
「え……? 嘘でしょ? 私がいなくなったら、このギルドの華が――」
「華だと? お前が不当に追い出した冒険者たちの損失、そしてギルドの信用失墜。それらを償ってもらう。……幸い、北方鉱山の飯場が、口の悪い女を求めているそうだ」
ミラは悲鳴を上げながら、衛兵によってギルドを追い出された。
数日後、彼女の姿は険しい山の鉱山にあった。かつての華やかな受付嬢の面影はなく、灰色の粗末な服を纏い、荒くれ者たちのために巨大な鍋をかき混ぜる日々。
「あつい……腰が痛い……。なんで、私がこんなところで……」
煤で汚れた顔で涙を流すが、誰も同情はしない。彼女がかつて嘲笑った「弱者」たちが、今はヴァルティスの下で、彼女が一生かかっても到達できない高みへと登っているという事実が、彼女の心を死ぬまで焼き続けることになるだろう。
ラグラシアの街での一件を経て、ヴァルティスの名は「伝説の師匠」として不動のものとなった。しかし、拠点の奥で瞑想に耽るヴァルティスが感じていたのは、自身の魔導回路が未知の領域へと接続されようとする静かな胎動だった。
これまで魔法を「奪い、壊すための手段」としてきた彼だったが、三十人を超える弟子たちの成長を管理し、その魔力残量を常に把握し続ける中で、新たな力の必要性を感じていた。
四属性の統合:索敵魔法『サーチ』の開発
ヴァルティスは、水、風、土、光の四属性を一つの円環へと繋ぎ合わせた。
足元の土から伝わる微細な振動(土)。大気を震わせる音の反響(風)。空気中に漂う魔力水の密度変化(水)。そして、生命体が放つ微かな輝き(光)。
「……見えるな。いや、読み取れるのか」
彼が目を開けた瞬間、拠点を中心とした半径数キロメートルのあらゆる情報が、脳内へと流れ込んできた。開発した『サーチ』は、単に対象の位置を把握するだけではない。対象の筋肉の弛緩、魔力の指向性、そして次に放とうとする行動の予兆までもが、色づいた波紋のように読み取れるようになった。
師匠の眼差し:悩みの把握
ヴァルティスは立ち上がり、修行に励む弟子たちの元へ歩み寄った。
これまでは「強くなれ」と突き放すだけだったが、今の彼には彼らの「詰まり」が手に取るようにわかった。
「エルナ、光の収束を急ぎすぎるな。不安が術式の端を乱しているぞ。お前の光はもう十分に安定している」
「え……っ!? ヴァルティス様、どうして私の心が……」
170cmの長身を震わせ、エルナが顔を赤らめる。
「セレナ、左足の『アクセル』が右よりコンマ数秒遅い。昔の古傷を無意識に庇っているな。『ウォーターヒール』の浸透角を三度上げろ。それで消える」
「……気づいていたのか。自分でも忘れていたほど、些細な違和感だったというのに」
思考共有:師匠の視界
ヴァルティスは弟子たち全員を集めると、自身の『サーチ』の情報を魔力の波に乗せて共有する実験を行った。
「俺の視界を貸してやる。これがお前たちの弱点であり、敵の隙だ」
弟子たちの脳内に、直接ヴァルティスの高解像度な戦術情報が流れ込む。
「すごい……敵の動きが、光って見える!」
「仲間の魔力残量までわかるなんて。これなら、完璧な連携ができる!」
神の如き肉体美を手に入れた弟子たちは、いまや「師匠の脳」という最強の管制塔を手に入れた。個々の武力を超えた、一つの巨大な生命体のような統率力を持ち始めたのだ。
「導く側」としての決意
その夜、弟子たちが眠りについた後、ヴァルティスは一人、月明かりの下でエールを口にした。
かつての復讐心や、自己満足のための成長。そんな動機は、今の彼の中には残っていなかった。目の前には、自分を信じてついてくる三十人以上の弟子たちがいる。
「……俺は、こいつらの師匠だ。誰にも、指一本触れさせん」
彼らを強くし、守り、その人生を導くこと。それが自分の役割なのだと、彼は静かに受け入れた。ヴァルティスが「導く側」としての覚悟を決めたその瞬間、彼の最大魔力量は再び音を立てて爆発的に拡張された。
「導く側」としての覚悟を固めたヴァルティスの前に、世界の理を真っ向から否定する「異常」が姿を現した。
拠点の全域を展開した『サーチ』の網に、一瞬、ノイズのような歪みが生じる。次の瞬間、空がガラスのように割れ、そこから紫黒色の鱗を持つ異形の巨躯が這い出してきた。伝説の魔獣「時空ワイアーム」である。
空間を跳躍する脅威
「全員、下がっていろ。……こいつは今までの魔物とは格が違う」
ヴァルティスは背後の弟子たちを一喝し、一歩前に出た。時空ワイアームの周囲では、光が不自然に屈折し、距離感が狂わされる。
「グルゥゥ……」
ワイアームが低く唸ると同時に、その姿が掻き消えた。
「背後か!」
ヴァルティスは振り向きざまに『アイス・フォージ』で大槌を生成し、一気に叩きつける。
ドガァァン!!
空を打った衝撃波が森を震わせる。ワイアームは物理的な移動ではなく、空間を繋ぎ変える「転移魔法」を駆使し、ヴァルティスの死角へと瞬時に転移していたのだ。
先読みと肉体強化の極致
「『サーチ』……思考を読ませろ」
ヴァルティスは全魔力を知覚へと回した。水、風、土、光の混合波が、時空の歪みの先にあるワイアームの「殺意の指向性」を捉える。転移が行われるコンマ数秒前、空間が微かに震えるポイントを予見する。
「……そこだ!」
『身体強化・アクセル』と『肉体強化・マッスル』を同時最大出力で展開。ヴァルティスの肉体は、もはや視認不可能な超高速の領域へと突入した。
ワイアームが転移で現れた瞬間、そこには既にヴァルティスの拳が置かれていた。
ドォォォォン!!
魔力を一点に凝縮した打撃が、ワイアームの強固な鱗を叩き割る。だが、魔獣もさるもの。打撃の衝撃を空間の歪みで逃がし、即座に反撃の尾を叩きつけてくる。
膠着する死闘
戦いは、人知を超えたスピードと精度の応酬へと発展した。
ワイアームが転移を繰り返して翻弄しようとすれば、ヴァルティスは『サーチ』による先読みでその出現位置を完璧に捕捉する。
『ウィンドバレット』と『ストーンバレット』の複合弾が空間を埋め尽くすが、ワイアームはそれらを転移で別の座標へと飛ばし、逆にヴァルティスの背後から自らの弾丸として撃ち返してくる。
「……面白い。俺の魔法を転送して利用するか」
ヴァルティスは氷の盾を瞬時に生成し、跳ね返された弾丸を防ぐ。
地上の弟子たちは、ただその光景を呆然と見守るしかなかった。音速を超えた打撃音と、空間が軋む耳障りな音が響き渡り、周囲の樹木が衝撃波だけで粉々に粉砕されていく。
ヴァルティスの『アクセル』による超速の連撃と、ワイアームの変幻自在な『転移』。
互いに決定打を欠いたまま、戦場は濃密な魔力が火花を散らす膠着状態に陥った。
「……持久戦で俺に勝てると思っているのか?」
ヴァルティスは不敵に笑う。彼には、使い果たしても即座に周囲から補填できる『魔力吸収』がある。対して、空間を操作し続けるワイアームの魔力消費は膨大だ。
この膠着こそが、ヴァルティスが狙った「狩りの形」であった。
彼は戦いながら、ワイアームが空間を繋ぎ変える際の「魔力の流れ」を、その鋭い眼光で解析し始めていた。




